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第28話 白い世界の全ての答え【オールアンサー】





 


 なんだ。ここは。

 無限に広がるような真っ白な空間。

 ただただすべてが白い。

 何もない。

 そこにはただ俺だけが立っている。

 なぜ、俺はこんな所にいるのか。

 シルバの攻撃を(コア)に受け、意識を失ったはずだった。


「あっ」


 思わず声を出す。

 コアじゃない。俺は人間の姿で立っている。

 教室にいた時と同じ学生服を着ている。

 戻れたのか? いや、もしかして、俺は死んだのか?


『どっちでもねえよ』


 声がする。だが、声の主は見当たらない。


「誰だ? どこにいるんだ?」


『どこにもいねえよ、お前には見えねえ』


 声は頭に直接入ってくる。それはまるでいつも聞こえるアナウンスのようだ。

 この時、ピーーン、とお尻のなにかが動いた。

 しっぽだ。人間の姿に戻っているのに、しっぽ装備がお尻についている。

 そのしっぽが左下に向けてピンっと伸びている。


 左下の地面をよく見てみる。

 1ブロックほどの正方形の継ぎ目がうっすらと見えた。


『いや、それ、なんでもないからな。触るんじゃねえぞ』


 声を無視して継ぎ目の隙間に指を入れる。


『やめろ、そこを開けたら後悔するぞっ、おいっ、こら、やめろっていってるだろうがっ』


 ぱかっとフタが開くように地面が開く。

 そこに穴が1ブロック大の穴が空いており、中にはお菓子の袋やペットボトルが散らばっていた。

 そして、中心にその存在は座っていた。


『開けるないうたやろっ』


 そこには小さな真っ白いチワワがいた。


『いや、ほんま、やめてほしいわ。ノックもせんと開けるて。常識ないで』


 何故か関西弁で話しながら穴から出てくるチワワ。

 リアと同じように興奮すると関西弁になるのか?


「誰なんだ、お前は?」


『誰って、わからんのかいな。いっつも助けてきたやんか』


 チワワが二本足で立ち、ドヤ顔をしている。


「まさか、全ての答え(オールアンサー)か?」


『なんや、わかっとるやないか』


 何故だろう。このチワワが全ての答え(オールアンサー)だとすぐにわかった。普通ならこんなチワワが全ての答え(オールアンサー)だとわかるはずがないのに。


『こんなチワワて。失礼やな。今はまだレベル1やからチワワやけど、レベルアップしたらもっとカッコよくなるんやで』


「考えていることがわかるのか?」


『ああ、聞こえてるで。いつも聞こえてる。うるさいくらいや』


 どうやら、いつも考えていることは筒抜けだったようだ。だから、ピンチの時にはヒントを与えてくれていたのか。


『ピンチの時だけやないで。装備した機械パーツの情報やダメージの数値、あれ、全部、わしが教えてるんやで』


「そうだったのか、あ、ありがとう」


『どういたしまして』


 チワワのしっぽが揺れている。礼を言われて嬉しいのだろうか。


『いや、そんなんちゃうしっ』


 考えたことに突っ込まれる。やりにくい。


「あっ、なら今回は何故、弱点を教えてくれなかったんだっ。いや、いまこの状況、俺は砕かれて死んでしまったのか?」


『弱点教えへんでもいける思ったんや。油断したお前が悪い』


 まさにその通りだ。ぐうの音もでない。


『あと、別に死んでない。ヒビが入って軽く意識飛んでるくらいや。まあ、走馬灯みてるみたいな状態やな。むこうではまだ1秒もたってへんで』


「そ、そうなのか」


 ほっ、と胸をなで下ろす。


『まだ安心出来ひんで。ここに連れてきたんは、このままやと負けてしまうからや。あと一撃喰らったら、ほんまに終わりやからな』


「助けてくれるのか? 全ての答え(オールアンサー)


 チワワが首を振る。


『もうヒントやと間に合わへん。最後の手段に出なあかん。全部わしに任せるならなんとかしたる』


「全部を任せる? それはどういうことなんだ?」


『全権を全ての答え(オールアンサー)に委ねます。そう言うたら、わしがお前を操って勝ったるわ』


 全権を委ねる? 大丈夫なのか? それは身体を乗っ取られてしまうのではないのか?


『心配せんでもすぐに返したるわ。最悪なんはその後や。わしはしばらく出てこられへんようになる。戦い終わった後は慎重に行動しなあかんで』


「信じて、いいのか?」


『信じないと死ぬだけや。わしはお前の味方や。目を見たらわかるやろ』


 チワワの目を見る。可愛い。ひたすら可愛い。

 信じてみようと思った。


「わかった。信じる。でも最後に一つだけいいか?」


『はよしいや。もう時間ないで』


 何故、俺が核になったのか、猪国(いのくに)さんはどうなったのか、この世界はなんなのか、聞きたいことは山ほどあった。

 だが、それよりも今は気になることが一つあった。


「あの姉妹を助けようとしたら【✖︎】を出したよな。それは間違った選択なのか?」


 チワワは一瞬、考えたあと静かにうなづいた。


『今の時点ではそうや。最悪の選択や』


「助けようとしたら俺は死ぬのか?」


 チワワは首を振る。


『死ぬよりも辛いことなんて、この世界には沢山あるんや』


 死よりも辛い何かが待っているというのか。

 だが、チワワは今の時点で、と確かに言った。

 未来は変わるかもしれないのだ。


『時間や。ほな、いこか』


「全権を全ての答え(オールアンサー)に委ねます」



 そう言った瞬間だった。

 白い世界は消えて、目の前にシルバが現れる。

 元の世界に戻っていた。

 だが、身体は動かない。

 いや、正確には自分で動かせない。

 倒れていた身体がゆっくりと起き上がるが、それは自分の意思で動かしたものではなかった。


 ごっ、と岩巨人(ゴーレム)の本来なら口がある部位が開く。

 そこに空気が流れ込んできて、ぐるぐると口の中で混ざる。

 起き上がると同時にそれを吐き出した。


「ガアァアアアアアアっ!」


 それは空気の咆哮だった。

 ビリビリと空気が振動し、歓声を上げていた観客達が静まりかえる。


 全ての答え(オールアンサー)が覚醒した。


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