第27話 B級との決闘【デュエル】
「おい、ビフの奴が決闘を申し込んだんだってっ」
「おおっ、タゴサク。良いところにきたな。今から始まるところだっ」
いつのまにか、街中の人達が集まっていた。
ビフに連れられて来たのは、街の真ん中にある公園。
そこにはサクラと戦った円形の檻に似たものがあった。
だだし、こちらは木製でなく鉄製でかなり立派なつくりになっている。
大きさも土俵サイズより一回り大きくなっている。
ビフは土俵の外でコントローラーを構え、銀色の細い甲冑タイプの戦闘機械人形シルバはすでに中に入って立っている。
俺も続いて中に入ると、周りの街の人々が騒めき立つ。
「おいおい、あのダサい奴がビフに挑むのか?」
「あの装備、どうみてもDかE級だぞ」
「無謀ぞな、果てしなく無謀ぞな」
街人が好き勝手に騒いでいる。
「オレも無謀だと思うぞ」
柵の外からギアナさんが声をかけてくる。
心配してくれたのだろうか、店を閉めて付いてきてくれた。
「ビフは決闘で勝って機械パーツを集めてきた。シルバはその集大成だ。とても素人が勝てる相手じゃない」
ギアナさんは俺を一発で素人と見抜いていた。
「たとえ、お前が特別な存在だったとしてもだ、イチ。D級とB級にはそれくらいの差があるんだよ」
そして、多分、俺が王道の十二核ということにも気がついている。
大丈夫というように親指を立ててギアナさんに見せる。はぁ、とギアナさんはため息をついた。
全ての答えは俺に【○】を見せてくれた。今はそれを信じるしかない。
ビフの方を見ると包帯少女を繋いでいる縄を柵に繋いでいた。
その瞳は相変わらず暗く沈んでいる。
彼女にしたら、ビフから俺に主人が変わっても変わらないと思っているのかもしれない。
戦闘に勝てば、彼女を解放する。
この世界では奴隷は認められているかもしれないが、俺はそんなもの認めたくない。
もちろん、リアやサクラが奴隷になるなんてことも許せるはずがない。
「それではルールを説明するっ」
いきなり柵の外から大きなメガホンを持った男が叫んだ。
神父のような格好をした、白い髭のハゲた男だった。
どうやら決闘には立会人か審判のような者がいるようだ。
「今回の決闘は拳闘っ。メイン武器、補助武器の使用は厳禁とするっ。決着方法はどちらかの戦闘不能、もしくはギブアップとするっ」
武器を使わない戦いに安堵する。買い物に行く予定だけだったので、武器装備は外してきたのだ。
それはビフも同じだったようで、シルバに武器は搭載していないようだ。
「決闘で賭けるものは、ビフ側は奴隷。イチ側は核。双方相違ないかっ」
「ああ、間違いねえ」
首を縦に振り、うなづく。
「きたきた、ついに始まるぜっ」
「ビフ、早く片付けてくれよっ。1分以内にオイラ賭けてんだ」
周りの歓声が大きくなる。
どうやらこの戦いは街人達の賭けの対象にもなっているようだ。
「俺は大会までにシルバをA級に上げて優勝を狙ってるんだ。こんな雑魚に時間はかけねえよ」
なるほど。ビフも大会に出場しようとしているのか。
どうやら奴隷と核を賭けるだけではなく、シルバの戦闘訓練もかねているようだ。
ビフにとっては一石二鳥というところなのだろう。
「それでは双方、構えてっ」
俺は正拳突きの構え、シルバは軽く右腕を上げただけの構えだった。
ガーーン、と大きな銅鑼の音が響く。
「決闘開始っ」
決闘開始と同時だった。
眼前のシルバの姿が目の前から掻き消えた。
速いっ。凄まじく速い動きだった。
一瞬で姿を見失う。
ガンっ、と左から衝撃が伝わってくる。
『頭部に45のダメージ。あと505ダメージで頭部が破壊されます』
ダメージを受けてからシルバが俺の左側からパンチを繰り出したことに気が付いた。
細い身体の見た目からスピードタイプとは思っていたが、ここまでとは思ってなかった。
素早い動きのサクラを遥かに上回るスピード。
すでに左側にシルバの姿はなく、狭い柵の中を動いている筈なのに、どこにいるのか目で追いつけない。
「なんだ、なんだ。話にならねえな」
「くそっ、俺も1分以内にしたらよかった」
ヤジのような歓声が大きく上がる。
がんっ、がっ、がんっ、と立て続けに攻撃をくらう。
どれも移動しながらの攻撃だ。まるで見えない。
高速で移動するシルバの影は、真っ白なキャンバスを縦横無尽に走らせた筆ように乱れ飛ぶ。
『頭部に40のダメージ。胸部に50のダメージ。左腕に42のダメージ。頭部に31ダメージ。左脚部に35ダメージ。胸部に48ダメージ。右腕部に38ダメージ。頭部に39ダメージ。あと...... いっぱい攻撃を受けると破壊されます』
岩甲虫との戦いの時のようにアナウンスが計算を諦める。
砂の再生がまるで追いつかない。圧倒的なスピードでシルバは攻撃を繰り返す。
弱点だ。弱点があるはずだ。
全ての答えは俺に【○】を見せた。シルバの弱点を見せてくれると思っていた。
しかし、いつまでたっても全ての答えは発動しない。
戦う前に見た【○】は嘘だったのか。
全ての答えは俺の熱い心に応えて発動するのではなかったのか。
全く歯が立たない状況に絶対に勝つという自信が砕けそうになる。
その時だった。
ぴくんっ、とお尻につけたしっぽがうごいた。
右にピーーンと大きく動く。
シルバの姿は補足できない。
だが、俺は正面を向いたまま、右に向かって拳を突き出した。
めきっ、という音と共に右手に何かが当たった感触が伝わってくる。
「ば、馬鹿なっ」
ビフの驚きの声が聞こえてくる。
しかし、ビフ以上に俺が驚いていた。
無動作に突き出した右拳は見事にシルバの顔面を捉えていたのだ。
思わず、お尻のしっぽを見てしまう。
しっぽの効果を思い出す。
【警戒】
敵が半径5ブロック以内にいるとしっぽがピーーンとなります。
これはもしかして、見えない敵の位置をしっぽの方向で把握できる能力じゃないのか?
再び、シルバが距離を取り、目に見えないような動きを始める。
だが、しっぽにはすべてわかっているのか。
右に左に上に斜めに、シルバの動きを追うようにパタパタと動いていく。
役に立たないと思ってすまなかった。
しっぽに感謝しつつ、シルバの攻撃に備える。
しっぽが左斜め上にピーーンとなる。
そこに向かって全力で【正拳突き・鈍】を叩き込む。
二発目の攻撃がシルバの核を打ち砕いた。
全くシルバの動きは見えてなかった。
そこに核があったのも偶然だろう。
だが、それはまぎれもない勝利だった。
思わず、右手を上げてガッツポーズをする。
「まだだっ、それは偽物だっ」
ギアナさんの声が聞こえた時にはもう遅かった。
核を砕かれたはずのシルバは何事もなかったように、動き出す。
これまで、シルバの攻撃から自分の核だけはやられないようにガードしていた。
だが、今、それはガラ空きになっている。
ごんっ、という鈍い音がして全てが暗転する。
何もかも失った喪失感に包まれ、俺はブラックアウトした。




