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第25話 はじめてのお買物【ショピング】

 

 この世界に来て三日目の朝。

 俺ははじめて森から出て街に来ていた。


 俺がいた森はボアボ山と呼ばれる小さな山にある森で、その麓にあるのがセルイドと呼ばれる辺境の街だった。


 セルイドの街とボアボ山は街道で繋がっており、ここまでの道程は、まったく迷うことなく、やって来れた。

 目の前には小さな農園が広がっており、畑仕事をする人々がちらほらと見える。

 所々に建っている民家はどれも石造りで、街を覆う外壁もレンガが積み立てられていた。



「城下町と山の間の田舎街セルイド。イチにはそこに行って来て欲しいの」


 リアにそう言われてやって来た。


「ワイヤーも無くなったし、お姉ちゃんの頭部装備も直したいけど、材料がたりない。これで買ってきて欲しいの」


 そう言ってメモとお金を渡される。

 袋に入った硬貨は日本の硬貨とは違い、ゲームセンターのメダルのようなものだった。


「本当はついていきたいけどお姉ちゃん、ほっといたらまた一人で無茶するし、私も色々修理したいから」


 リアは俺の盾や、サクラの頭部装備を必死に直してくれている。

 不安だったが、俺はうなづいた。


「大丈夫だよ。メモを見せるだけでいいようにしたから。イチは出来る子って、信じてるよ」


 フリフリフリっ、としっぽが動く。

 しかし、はしゃいでいる場合ではない。

 問題は俺の姿だ。

 岩巨人(ゴーレム)木偶(デク)が勝手に動いていたらマズイということで、バレないようにサクラの戦闘機械人形(アーマードオートマタ)を装備する。

 試験用(トレーニング)戦闘機械人形(アーマードオートマタ)では、露出する部位が多くてバレてしまうからだ。

 しっぽは別にいらないはずだが、そこもちゃんと付け替えられた。

 しかし、それでも、現在、サクラの装備は肝心の頭部が隠せなくなってしまっている。


「代用はこれでいこう」


 リアが割れた面頬(めんほほ)を繋ぎ合わせ、試験用(トレーニング)戦闘機械人形(アーマードオートマタ)の頭部装備、赤いヘルメットに合体させる。


 不気味な赤ヘルお面が出来上がった。



 こんな変な装備で大丈夫だろうか。


 不安を胸に街に入ったが、街行く人々は誰も俺を気にしなかった。

 見ると、街を歩く人々も足や手に機械パーツを装備している。

 畑仕事をしているおじさんなんかは、自分よりもおかしな装備をしていた。

 カカシ型の頭部装備とクワ型の腕装備、脚部は草刈り機のようなものと合体しており、再放送で見たアニメのガ○タンクみたいになっている。


 どうやら街では機械パーツを装備しているのは、当たり前のようだ。一安心して、リアに頼まれた店を探す。


 髑髏(ドクロ)のマークにネジが刺さっている看板が目印、とリアは言っていた。

 街の中心部には様々な看板の店が立ち並んでいた。

 店の外で食料を売っている露店もあれば、中に入らないとなにを売っているかわからない店もある。

 ベッドの絵が書いてある看板は宿屋。ビールが書かれているのは酒場だろう。文字だけの店は読めないのでわからない。

 田舎街と聞いていたが、まずまずの盛況ぶりだ。

 俺のいた世界のフリーマーケットくらいのレベルじゃないだろうか。


 目的の髑髏(ドクロ)とネジの看板は、中心部から少し外れた路地裏にひっそりと立ててあった。

 小さな石造りの建物の簡素な木の扉を開けて中に入る。


「いらっしゃい。おや、新顔だね」


 中は姉妹の研究室(ラボ)以上に様々なものが散らばったガラクタ置き場のようなところだった。

 訳のわからない機械が足の踏み場もないほどに溢れている。

 その店の奥に、椅子に見立てたガラクタ機械の山に座っている女性がいた。

 それは、身体の左半分が完全に機械のお姉さんだった。


「ああ、オレの姿に戸惑っているのか? 気にするな。子供の頃、事故でこうなった」


 お姉さんはケラケラと笑いながら言う。


「まあ、あれだ。半分でもオレの美貌は溢れてるからな。惚れんじゃねえぞ、あんちゃんよ」


 確かに、そのお姉さんは姉妹にはない大人の色気が溢れていた。

 機械でないほうの右半分は、薄手の布を少し巻いているだけで、褐色の肌が生々しく見えている。

 サクラほどではないが、胸の大きさもかなりのものだ。

 顔立ちは美人なのだが、男前というか、悪く言えば少しおっさん臭い。


「おいおい、照れて喋れないのか?」


 見惚れていて肝心な事を忘れていた。

 俺は慌ててリアから貰ったメモをお姉さんに渡す。


「ああ、喉を怪我していてしゃべれないのか、悪かったな」


 こくり、とうなづく。リアはそういう設定にしてくれたようだ。


「なるほどな、お前さん、リアの使いか。そういやサクラの機械パーツを装備してるな」


 値踏みするようにこちらを観察するお姉さん。

 左半分、機械パーツのほうの左目がカメラのようになっている。

 それが、上から下に動き、まるで撮影されている気分になる。


「イチっていうのか。オレはギアナだ。あの姉妹とは古い知り合いだ。よろしくな」


 ギアナさんがガラクタ機械の山から立ち上がり、右手を差し出す。

 こちらでも握手の慣習はあるようだ。

 手を握った時に、猪国(いのくに)さんと握手した時のことを思い出してしまった。


「パーツ、用意してくるから待っていてくれ。ああ、それと......」


 ギアナさんは俺のコアを指差して言った。


「今度来る時は、コントローラーを持って一緒に来いとリアに伝えておけ。木偶(デク)が自分で勝手に動くのがバレたら一大事だ」


 ぎくり、と冷や汗が流れる、ような感覚になる。

 バレたのか。まさかさっきのカメラで?


「詳しい事情は聞かないでおく。アイツらが信用したんなら、オレも信用してやるよ」


 ギアナさんはウインクすると店の奥に消えていった。

 リアはバレないと思っていたのか、それとも彼女にはバレてもいいと思っていたのか。


 はじめての買い物は、俺にとってなかなかハードなミッションだった。




本日は二話更新となります


26話は今日夜11時頃更新予定です。


毎回読んで頂いている方々、ありがとうございます。



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