第22話 装着される犬のしっぽ【ドッグテイル】
犬のしっぽである。
機械パーツにはとても見えない。
大型犬の尻尾だろうか。
もふもふの茶色い毛がわさわさに生えている。
根元には金具のようなものが付いており、機械パーツに装着出来るようだ。
「なにこれ? どういうふうに使うの?」
リアがサクラからしっぽを受け取り観察する。
「部位もどこかわからないし、補助武器なのかな? お姉ちゃんつけてみる?」
「いや、いらない」
本当に嫌そうにサクラが言う。
がっかり感もハンパないのだろう。
大切な頭部装備を失って得たのが只の犬のしっぽだということに肩を落として凹んでいる。
「じゃあ、イチ、つけてみようか」
リアがにっこりと笑って、しっぽを持ってくる。
あ、これ、絶対につけないとダメなやつだ。
「どこにつけるのかな? やっぱりお尻かな」
リアが俺の後ろに回り、お尻の上にしっぽを装着する。
『戌【いぬ】の十二核装備。【DOG-TAILER】を装着しました』
アナウンスが頭に入ってくる。十二核装備?
そう言えば、リアが言っていた。
「世界で12個しかない王道の十二核。その核が発見されたダンジョンからは、特別な機械パーツが見つかるといわれてるの」
まさか、このしっぽが特別な機械パーツとでもいうのか。
試験用戦闘機械人形 28式七号機
頭部 【HD-AKAHEL】
胸部 【KKK-SS】
右腕部 【なし】
左腕部 【なし】
右脚部 【LY-31R】
左脚部 【LY-31L】
エンジン 【GBG-1000】
ブースター 【なし】
メイン武器 【なし】
補助武器 【SH-ARMADO】(離脱中)
装身具 【DOG-TAIL】
核 【犬飼 一郎】
木偶【岩巨人】
装備の欄に新たに装身具という項目が追加される。
DOGは犬だろう。TAILはしっぽのことだろうか?
英語は苦手だからやめて欲しい。
どんな効果があるのか、考えていると、さらに情報が流れてくる。
装身具 【DOG-TAIL】
効果【警戒】
敵が半径5ブロック以内にいるとしっぽがピーーンとなります
追加効果 その1【バカ正直】
嬉しい時、しっぽが大きく左右にフリフリされます
悲しい時、力無く垂れ下がります
追加効果 その2 【舵取り】
走ったり方向転換したり、飛び上がったり、様々な動きをするときに、バランスをとるために自由自在に動きます
【警戒】と【舵取り】の効果は良いとしよう、だが、要らないだろう【バカ正直】 の効果はっ。
「お、イチ、似合うじゃないか」
「うん、可愛いよね」
サクラとリアに褒められる。
フリフリフリフリっ、といきなりしっぽが全開でフリフリされる。
いや、これもうフリフリなんて可愛いもんじゃない。バタバタだ。
あまりのしっぽの振り幅に、リアとサクラがドン引きしている。
「な、なんだ、イチ。そんなにはしゃいで」
「可愛いって言われたのがそんなに嬉しかったの? 乙女なの?」
なんなんだ、この効果はっ。
思わず顔を両手で覆う。
しっぽは、しゅん、と元気を無くして垂れ下がる。
「いや落ち込まなくていいぞ、うん、カッコいいよな、リア」
「そ、そうだよねっ! なんか犬の装備ぽいし、まさしくイチの為の装備だよっ」
フリフリフリフリフリフリっ。
再び激しく揺れるしっぽ。
やめて。これ、めっちゃ恥ずかしいっ。
「なあコレ、特別な機械パーツなのか?」
「た、多分。今までこんなパーツ聞いたことないし、やっぱりここはイチの為のダンジョンなんだよ」
確かに戌【いぬ】の十二核装備というアナウンスは出ていた。
これからもこんな装備ばかりなのだろうか。
出来れば次は実用的なものを期待したい。
「帰ったら詳しく調べるけど、お姉ちゃんの頭部装備とイチの両腕装備が犠牲になったからね。見た目はアレでも、凄い効果があることを期待しとこう」
うーーん、正直そこまで凄い効果はない感じだ。
【警戒】は半径5ブロック以内、つまり半径20メートルぐらいの距離の敵がわかるようだが、それぐらいなら目視でも発見できるのではないだろうか。
【舵取り】のバランス能力も対して役に立つような気もしない。
【バカ正直】 などは、ないほうがいいのではないかと思ってしまう。ポーカーとかのギャンブルをやったら絶対負けてしまうだろう。
「あ、そうだ。ちょっと、イチ手伝って」
リアが巨大岩甲虫を倒したあたりに向かう。
付いて行くと、巨大岩甲虫が食べた岩甲虫の残骸が散らばっていた。
「本体は消えて機械パーツになったけど、食べたものは消えずに残ってるね。ちょっと、ここ、のけてくれない?」
リアに言われるまま、岩甲虫の残骸を片付けていく。
「お、あった、あった」
残骸の中から出てきたのは、サクラの頭部、兜型の機械パーツだった。面頬が砕け、本体も半分以上、損失しているがかろうじて兜のように見える。
「少しでも使えるところは使っとかないとね」
リアがポーチから出した袋に壊れた頭部パーツを入れて回収する。
「よし、そろそろ地下二階に行くか」
元気いっぱいのサクラが、すでに地下二階への階段を降りようとしている。
「ダメだよっ、難易度変わってるのに。一旦、研究室に戻って休憩と作戦会議をするのっ」
「大丈夫だよ。どこも怪我してないし。早く、次行こう」
「ダメッ、イチの盾も修理するから帰りますっ」
お母さんに怒られた子供みたいに、頬を膨らませ戻ってくるサクラ。
「あれ? なんだ、イチ。それ、鼻か?」
どうやらサクラは、今初めて俺に鼻が出来たことに気がついたようだ。
「カッコいいじゃないか、イチ」
フリフリフリフリフリフリフリフリッ、と今までで最大級に揺れるしっぽ。
戌【いぬ】の十二核装備。
その最初の装備は、取り外して捨てたくなる装備だった。




