第19話 迷宮探索の再開【リベンジ】
今回からイチがダンジョンの地図を作成します。
作中で読者様にもマッピングができるよう表記されていますが、特に重要な情報ではありませんので、読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
地図作成好きの方はノートに書いたりして、お楽しみくださいませ。
「これで一応繋がったけど、自動では戻らないわ」
リアが補助武器の【SH-ARMADO】をワイヤーで繋げてくれる。
肘にあるスイッチを押すと盾の形状からボール型に変形し、ワイヤーで繋がったまま、ロックビートル弾が発射された。
十メートルほど離れた木に激突し、音を立てて崩れていく。
あとはワイヤーを手繰り寄せて、再び左腕に装着すると盾型に戻った。
伸びたワイヤーは手動で左腕にぐるぐると巻いて収納する。
「ごめんね、やっぱりモーターとかの機械パーツがないとワイヤーだけじゃ、これが限界」
リアが謝るが大丈夫と親指を立てる。
取りにいく手間がなくなっただけで上出来だ。
「お姉ちゃんの補助武器をもらえたら、改造出来るんだけど」
リアが物欲しそうな目でサクラを見ると、サクラは大事そうに左手の補助武器を胸に隠した。
「ダメだぞ。ワタシ、これ気に入ってるんだからな」
そういえば、戦闘時、一気に距離を縮めるのにサクラはワイヤーを使っていた。
やはり、自動で収縮するワイヤーアクションは、かなり臨機応変な使い方が出来そうだ。
「まあ、これからダンジョンで同じの見つかるかもしれないし、諦めず探しにいこう」
こくん、とうなづいて再びダンジョンに潜る段取りをする。
「次はワタシも一緒に行くからな」
「はいはい、わかったわよ。無茶はしないでね」
止めても無駄だと思ったのだろう。
三人でダンジョンの入り口へと向かう。
次こそは自分の力で魔物を倒す。
そう誓って、再びダンジョンを訪れた。
バンっ、と岩甲虫が壁に激突する。
サクラの拳をくらった岩甲虫は一撃で絶命する。
ダンジョンの曲がり角を曲がった途端だった。
動くものに即座に反応し、サクラは攻撃する。
条件反射みたいなものだろう。
これで三匹目の岩甲虫をサクラが倒したことになる。
「もう、お姉ちゃんばかり倒したらイチの訓練ができないじゃない」
リアがサクラを連れてきたくなかったのは、こういう理由もあったのだろうか。
「悪い悪い、次は譲るから...... おっと」
言ってる間に現れた岩甲虫を再び一撃で仕留めてしまう。
「お姉ちゃんっ」
もう無意識で手が出ているのだろう。半分諦めたリアがため息をついている。
「すまん、本当に次こそは。しかし、まったくネームドは出ないな。ただの偶然だったのかな?」
俺とリアが最初に戦った手強い岩甲虫は、出てこない。やはり、あれはかなりのレアケースだったようだ。
サクラも雑魚しか出てこないので、油断しているのか、顔を覆う面頬を外している。
「そうだ。イチにこのノートあげるね」
サクラが岩甲虫を倒しまくるので、手持ち無沙汰になった俺にリアがノートを渡してくる。
それは前回、リアがダンジョンの地図を描いていたものと同じ方眼紙のノートだった。
ちゃんとノートと紐で繋がっているペンまで付属されている。
中を見ると何も描かれておらず、真っ白な新品のものだった。
「ダンジョンでは、いつ何が起こるかわからない。もしも、罠とかで離れ離れになった時の為に、自分でも地図をかけるようにしておいた方がいいの」
なるほど、確かにそれは必要かもしれない。
ノートの隅にペンで小さく「ありがとう」と、書いてリアに見せる。
「古代文字だね。ありがとうって書いてくれたのかな? どういたしまして」
文字は伝わらないが、気持ちは伝わった。
リアの笑顔に癒される。
早速、ここまでの地図製作をしようとノートの1ページ目に書き込んでいく。
ダンジョンは東西8ブロック、南北8ブロック、合計64ブロックで構成されている。
最初の位置は東南の角、一番端のブロック、そこに登り階段のマークを書く。
北に向かって1ブロック幅の通路を7ブロック進むと、西に再び1ブロック幅の通路が7ブロック伸びていた。そして今度は南に1ブロック幅の通路が7ブロック伸びていたはずだ。現在はそこの西南の角にいるはずだった。
そこまでの地図を描き終えると、リアが自分の地図と見比べチェックする。
「完璧だよ。イチは地図製作者としての才能があるね」
ほぼ一本道だし、間違えることはないと思うが、お世辞でも嬉しい。
「これ見て、お姉ちゃんの書いた地図。多分異世界とかに繋がってるよ」
そう言ってリアが見せてくれたサクラの地図は、なんだか見ていると不安になる奇怪な地図だった。
8ブロックしかないはずの通路はどこまでも続いていき、急に途切れたと思うと反対側から新たな道が描き足され、突如、真ん中に繋がっている。
「お姉ちゃん、こういうの駄目なんだ。でも迷子になっても野生の勘で帰ってこれるの」
倒した岩甲虫でリフティングしているサクラがこっちを見る。
褒められたと思ったのか、へへへ、と照れ笑いを浮かべる。ごめん、褒めてなかったよ。
「ほんっとうにお姉ちゃん、戦闘だけで後は駄目だからね。私達でフォローしていこうね」
俺は力強くうなづいた。
ダンジョンの地下一階は構造的に単純で、先程の道から東に6ブロック進むと行き止まりになった。
だが、その北側に石造りの扉が見える。
地図に扉のマークを書き込んでいると、サクラがその扉を開けて中に入っていく。
東西6ブロック、南北6ブロックの大広間が広がっていた。
周りの壁は通路と同じでしっかりしたブロックの白いレンガ造りだが、地面にはゴツゴツとした大きな岩がたくさん転がっている。
そして、北西の隅には、地下二階に降りる階段が見えた。
「お姉ちゃんっ、止まって」
地下二階の階段に向かおうとしたサクラをリアが止める。
岩の影から大小様々な岩甲虫がわらわらと姿を現したのだ。
「大量遭遇っ。やっぱりダンジョンの難易度が変わってるっ」
「へえ」
焦るリアに対して、サクラは実に楽しそうだ。
手を右頬に当て、機械の面頬で顔を隠す。
本気の戦闘態勢になったようだ。
「今度はイチに少しは譲れそうだな」
そう言うとサクラは、まるで公園に駆け込む子供のように、岩甲虫の群れに飛び込んでいった。




