第15話 はじめての機械パーツ【レアドロップ】
岩甲虫がその姿を変えて、機械パーツに変形していた。
岩に覆われたような外観は、灰色の鉄板を何層にも重ねたようなものになっている。
さらに裏返すと、ダンゴムシのようについていた足は、鉄製の結束バンドのようなものに変わっていた。
「盾ね。補助武器だわ。腕に装備出来る」
リアがそう言って、岩甲虫の盾を持ってくる。
「魔物が機械パーツを落とすなんて滅多にないわ。やっぱり今の岩甲虫はネームドモンスターだったみたい」
先程も聞いたネームドという言葉。
なんだろう、という感じで首をかしげる。
「ネームドっていうのは、同じ魔物の中でも特別強くなった存在のことなの。今の岩甲虫の名前の前にさらに名称がつけられる。素早い岩甲虫とか熟練の岩甲虫とか」
なるほど、ただのザコモンスターではなかったということか。
「そういう特別な魔物しか、機械パーツは落とさないわ。最初に戦った魔物からそれが出るなんてすごいラッキーだよ」
機械パーツが出たからか、リアはかなり上機嫌だ。
鼻歌混じりに機械パーツを俺の左腕に装着してくれた。
「おーー、かっちょいいよ。イチ」
本当だろうか?
左腕にダンゴムシ型の盾が付いているのは、巨大な虫に張り付かれているようで、落ち着かない。
『補助武器が装備されました』
戦闘機械人形試験用 28式七号機
頭部 【HD-AKAHEL】
胸部 【KKK-SS】
右腕部 【AY-12R】
左腕部 【AY-12L】
右脚部 【LY-31R】
左脚部 【LY-31L】
エンジン 【GBG-1000】
ブースター 【なし】
メイン武器 【なし】
補助武器 【SH-ARMADO】
核 【犬飼 一郎】
木偶【岩巨人】
情報が頭に流れてきて、補助武器のところに【SH-ARMADO】と追加される。
SHはシールドの略だろうか?
英語は苦手だったのでわからない。
そう思った時、さらに情報が流れてきた。
補助武器【SH-ARMADO】
効果【シールド 】耐久力1200
追加効果【ロックビートル弾】単発式
そういえばサクラが岩巨人と戦闘している時も、腕の機械パーツの情報が入ってきた。
装備した機械パーツの情報は疑問に思えばいつでもアナウンスが流れるようだ。すごく便利。
しかし、ここで更なる疑問が生まれる。
追加効果のロックビートル弾とはなんだろうか。
疑問に思うと同時に再び情報が入ってくる。
【ロックビートル弾】
『肘部位側面にあるスイッチを押すことにより、攻撃型に変形。単発式の弾丸として発射されます。ただし、自動で戻ることはないので発射後は自ら回収し、再び装着してください』
肘部位のスイッチ?
確かに肘ところに小さな突起が付いている。
触ってみると、カチリという音がしてスイッチが押し込まれた。それと同時に。
ギュルルルッ、と盾型の形状が突然変形し、丸型になる。
左腕の上にバスケットボールぐらいの鉄の塊が出来上がり、その場で高速回転している。
「えっ、何っ? イチ、なにしたのっ」
驚いたリアがこちらを見る。
俺も突然の事でなにがなにやらわからない。
動揺して、リアに状況を説明しようと左腕の鉄玉をそちらに向ける。
それは最悪の選択だった。
ボンっ、という爆発音と共にリアに向かって、鉄玉が発射される。
「っみぎゃあああ!」
鉄玉はリアの頭上スレスレを飛んでいき、ダンジョンの奥の壁に当たる。
あ、危ない。
もう少しで助けなくてはいけない姉妹を殺すところだった。
「イチっ、あんたっ、なにしてるんっ」
激怒して関西弁になっているリアに向かって、必死に謝る。
ジャパニーズ土下座。床に頭を擦り付ける。
この世界で土下座の意味はわかるのだろうか?
「はぁ、もういいよ。知らなかったみたいだし」
奥の壁で転がっていた鉄玉をリアが転がして持ってくる。
「でも気をつけてね。帰って鑑定するまで詳しい使い方はわからないんだから」
実はアナウンスで知っていたのだが、納得しているようなので黙っておく。もっとも話そうにも話せないのだが。
リアが持って来てくれた鉄玉を左手に再び乗せると、パタパタパタ、と玉型から盾型に変わっていく。
これは中々、いい拾い物ではないだろうか。
攻防一体の補助武器。
欠点は一度発射してしまうと、再装備がかなり面倒なことぐらいか。
いや、この玉と腕をワイヤーか何かで繋げたら、発射後もすぐに回収できるのではないだろうか?
そう思って、リアのほうを見る。
「え、なに? 私が可愛いからって惚れたらダメだよ」
じっ、と見ていたらリアが、赤くなって目線を逸らす。
ジェスチャーでなんとか伝えられないか。
手で玉の形を作り、次にヒモの形を作り、それを繋げるジェスチャーをしてみる。
「え? なに? アップル? ペン? 合体させて、アッポーペン?」
ふるふると首を振る。
この世界のお笑いの文化は、俺がいた世界と似ているのだろうか。
予想外の回答に戸惑ってしまう。
そういえば最初にシェーーのポーズもさせられていた。
「違うの? じゃあなんだろ?」
盾を指差し、その後釣りをするポーズをする。
リールを巻くような動きをして見せる。
「盾を釣る? 糸で回収するってこと......、あっ、そうか、玉と腕をヒモで繋げて、撃った後、すぐに回収したいってことだね」
伝わったっ。嬉しさのあまり、何度もうなづいてしまう。
「研究室に予備のワイヤーがあったから出来るかもしれない。お姉ちゃんの補助武器もワイヤー系だから、構造を真似してみようかな」
おお、なんだかうまくやってくれそうだ。
今のままでは、リアやサクラの足を引っ張ってしまう。なんとかこの新しい装備で少しは強くなっていきたい。
「よし、じゃあ一旦研究室に戻ろう。まさか地下一階の序盤で終わるとは思わなかったけど、ネームドを倒してレアドロップしたから上出来だよ」
結局、何も活躍出来ないままに最初のダンジョン探索が終わる。
次はもっと強くなって戻ってくる。
リベンジを誓いながら、俺とリアはダンジョンを後にした。




