第13話 64ブロックの迷宮【ダンジョン】
「機械闘士が強くなるにはダンジョン探索。それが基本」
リアがそう言って胸を張る。
姉のサクラはかなりの物をお持ちだが、リアのそこには平原が広がっている。まあ十歳なので今後に期待したい。
「今、なにか、変なこと考えなかった?」
ぶんぶん、と首を振る。嘘はついてない。
胸に対しての問題は決して変なことではない。
高校一年の男子にはたいへん重要な課題だ。
リアと二人、俺が発見されたダンジョンへ再び訪れた。
姉妹は強力な機械パーツを見つける為、毎日ダンジョン探索を繰り返していた。
基本は姉妹二人で行くのだが、サクラは岩巨人との戦闘時に頭部を負傷した為、大事を取って休むらしい。
「大丈夫、イチの訓練も兼ねて、浅い階層しか行かないから」
心配するサクラにリアはそう言って説得していた。
リアと二人でダンジョンへ繋がる洞窟の入り口に立つ。
俺は岩巨人の木偶に試験用の戦闘機械人形を装備した状態だった。
リアが操作してくれるらしいが、鈍い岩巨人の木偶と、頼りない装備に若干の不安がある。
ダンジョンの入り口を隠すように生えている草木を潜り抜け、俺を先頭に中へと入って行く。
洞窟の奥にある石造りの階段を下って降りて行くと、ダンジョンの地下一階へ辿り着いた。
ダンジョンの中は入り口の自然に出来た作りとは明らかに違った。
周りの壁は白い石のようにみえるが、叩いてみるとかなり硬いのがわかる。
あまり見たことのない素材で、いくつものレンガのようなもので積み重なっている。
降りてきた階段を背に、前に一本道があり、左右は壁で塞がれている。
その白い壁自体が薄っすらと光っているようで、かなり奥の方まで見渡すことができた。
「このダンジョンはね。私達の両親がもしもの時の為に隠していたダンジョンなの」
隠していたダンジョン?
どういうことかわからないが、質問はできないので黙って聞くことにする。
「機械人形の機械のパーツは、古代文明の遺産で今の私達には作れない。せいぜい少し改造したり、劣化したコピーを作るぐらい。すべては古代人が遺したダンジョンから手に入れるしかないの」
なるほど。俺のいた世界とは根本的に違うようだ。
今、この世界に優れたテクノロジーがあるわけではなく、滅んだ旧世界が発達した文明を持っていたようだ。
「今、機械パーツや核は信じられないような高値で取引されているの。だからそれが手に入るダンジョンを所有するものは、それだけで街や国の支配者になれるの」
そう言ったリアが悔しそうな顔で、ギリっと奥歯を噛みしめる。
「私達の両親は、この国で一番大きいダンジョンの所有者だったんだ。平等に誰にでも解放し、手に入れた機械パーツに税金を納めさせることもなかった。なのにっ、アイツはっ。あの成金のクズはっ」
今にも泣き出しそうなリアの頭にそっ、と手を置く。
詳しい事情はわからない。
でも、きっとこの姉妹は理不尽な運命と戦っているのだ。
「あ、ありがとう、イチ」
こくん、とうなづく。
今、俺が出来ることは、この姉妹を手伝うことしかない。
なぜ、俺が核となったのか、どうすれば前の世界に戻れるのか、教室にいた彼女はどうなってしまったのか、焦って探しても糸口は見つからない。
まずは姉妹達を助けよう。それからでもきっと遅くない。
頭に一瞬、昨日見た【✖️】の文字が思い浮かぶ。
それを振り切るように頭を振る。
「どうしたの? イチ」
リアが怪訝な顔をしたが何でもない、という風に右手の親指をぐっ、と立てた。
しばらく真っ直ぐの一本道を進んで行くと、壁に突き当たった。今度は左に道が開けている。
「このダンジョンは正方形に近い構造で縦横が8ブロックずつあるの」
ブロックというのは、この世界の単位だろうか。
壁を見ると、レンガに節目があり、だいたい1ブロックが5メートル四方ぐらいの大きさになっている。
「イチが発見された地下10階まで、ちゃんとマッピングしてるの。これを見て」
リアがポーチからA4サイズくらいの大きめの手帳を取り出す。
それは方眼紙のように線がひかれているノートで、綺麗にこの階のマップがかかれていた。
「ここが入ってきた階段で、現在地はここね」
なるほど、縦横8個ずつ、64のマス目にマップが書かれている。
この階はぐるりと回るような構造になっていて、中心に下へと降りる階段があるようだ。
「地下一階には、もう機械パーツはないと思うけど小型の魔物が湧いてくるの。ザコだけど油断はしないでね」
うなづいて、慎重に進んで行く。
機械パーツを探すだけではなく、戦闘にも慣れなければならない。
岩巨人の木偶では、まともな正拳突きを使うことが出来ない。
「木偶は戦闘経験を積むことでレベルが上がっていく。岩巨人の木偶はもっと強くなれるはずだから、頑張って」
レベルという概念が有ることに違和感を覚える。
まるで、ゲームのようだ。
ここは、俺のいた世界とはまるで別の世界なんだろうか。何もかもが違いすぎる。
「イチっ」
思考を巡らせていると、リアが通路の先を指差して、俺の名前を呼ぶ。
見ると丸いバスケットボールほどの岩の塊が、1ブロック幅の通路を、勢いよくこちらに転がってくる。
「岩甲虫っ。気をつけて、かなり硬いよっ」
転がってきた岩の塊を避けると背後の壁に激突する。
その岩の塊がもぞもぞと動き出し、巨大な虫の姿に変わっていく。
似たような虫を見たことがあった。
ダンゴムシだ。岩の鎧を身に纏った巨大なダンゴムシがそこにいた。
「操縦しようか?」
コントローラーを構えてるリアに向かって首を振る。
岩巨人の木偶と試験用の戦闘機械人形で、モンスターと初めての戦いが始まった。




