表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/37

第13話 64ブロックの迷宮【ダンジョン】

 

機械(マシン)闘士(グラップラー)が強くなるにはダンジョン探索。それが基本」


 リアがそう言って胸を張る。

 姉のサクラはかなりの物をお持ちだが、リアのそこには平原が広がっている。まあ十歳なので今後に期待したい。


「今、なにか、変なこと考えなかった?」


 ぶんぶん、と首を振る。嘘はついてない。

 胸に対しての問題は決して変なことではない。

 高校一年の男子にはたいへん重要な課題だ。


 リアと二人、俺が発見されたダンジョンへ再び訪れた。

 姉妹は強力な機械パーツを見つける為、毎日ダンジョン探索を繰り返していた。

 基本は姉妹二人で行くのだが、サクラは岩巨人(ゴーレム)との戦闘時に頭部を負傷した為、大事を取って休むらしい。


「大丈夫、イチの訓練も兼ねて、浅い階層しか行かないから」


 心配するサクラにリアはそう言って説得していた。


 リアと二人でダンジョンへ繋がる洞窟の入り口に立つ。

 俺は岩巨人の木偶(デク)試験用(トレーニング)戦闘機械人形アーマードオートマタを装備した状態だった。

 リアが操作してくれるらしいが、鈍い岩巨人の木偶(デク)と、頼りない装備に若干の不安がある。


 ダンジョンの入り口を隠すように生えている草木を潜り抜け、俺を先頭に中へと入って行く。

 洞窟の奥にある石造りの階段を下って降りて行くと、ダンジョンの地下一階へ辿り着いた。


 ダンジョンの中は入り口の自然に出来た作りとは明らかに違った。

 周りの壁は白い石のようにみえるが、叩いてみるとかなり硬いのがわかる。

 あまり見たことのない素材で、いくつものレンガのようなもので積み重なっている。

 降りてきた階段を背に、前に一本道があり、左右は壁で塞がれている。


 その白い壁自体が薄っすらと光っているようで、かなり奥の方まで見渡すことができた。


「このダンジョンはね。私達の両親がもしもの時の為に隠していたダンジョンなの」


 隠していたダンジョン?

 どういうことかわからないが、質問はできないので黙って聞くことにする。


機械人形(オートマタ)の機械のパーツは、古代文明の遺産で今の私達には作れない。せいぜい少し改造したり、劣化したコピーを作るぐらい。すべては古代人が(のこ)したダンジョンから手に入れるしかないの」


 なるほど。俺のいた世界とは根本的に違うようだ。

 今、この世界に優れたテクノロジーがあるわけではなく、滅んだ旧世界が発達した文明を持っていたようだ。


「今、機械パーツや(コア)は信じられないような高値で取引されているの。だからそれが手に入るダンジョンを所有するものは、それだけで街や国の支配者になれるの」


 そう言ったリアが悔しそうな顔で、ギリっと奥歯を噛みしめる。


「私達の両親は、この国で一番大きいダンジョンの所有者だったんだ。平等に誰にでも解放し、手に入れた機械パーツに税金を納めさせることもなかった。なのにっ、アイツはっ。あの成金のクズはっ」


 今にも泣き出しそうなリアの頭にそっ、と手を置く。

 詳しい事情はわからない。

 でも、きっとこの姉妹は理不尽な運命と戦っているのだ。


「あ、ありがとう、イチ」


 こくん、とうなづく。

 今、俺が出来ることは、この姉妹を手伝うことしかない。

 なぜ、俺が核となったのか、どうすれば前の世界に戻れるのか、教室にいた彼女はどうなってしまったのか、焦って探しても糸口は見つからない。


 まずは姉妹達を助けよう。それからでもきっと遅くない。

 頭に一瞬、昨日見た【✖️】の文字が思い浮かぶ。

 それを振り切るように頭を振る。


「どうしたの? イチ」


 リアが怪訝な顔をしたが何でもない、という風に右手の親指をぐっ、と立てた。



 しばらく真っ直ぐの一本道を進んで行くと、壁に突き当たった。今度は左に道が開けている。


「このダンジョンは正方形に近い構造で縦横が8ブロックずつあるの」


 ブロックというのは、この世界の単位だろうか。

 壁を見ると、レンガに節目があり、だいたい1ブロックが5メートル四方ぐらいの大きさになっている。


「イチが発見された地下10階まで、ちゃんとマッピングしてるの。これを見て」


 リアがポーチからA4サイズくらいの大きめの手帳を取り出す。

 それは方眼紙のように線がひかれているノートで、綺麗にこの階のマップがかかれていた。


「ここが入ってきた階段で、現在地はここね」


 なるほど、縦横8個ずつ、64のマス目にマップが書かれている。

 この階はぐるりと回るような構造になっていて、中心に下へと降りる階段があるようだ。


「地下一階には、もう機械パーツはないと思うけど小型の魔物(モンスター)が湧いてくるの。ザコだけど油断はしないでね」


 うなづいて、慎重に進んで行く。

 機械パーツを探すだけではなく、戦闘にも慣れなければならない。

 岩巨人の木偶では、まともな正拳突きを使うことが出来ない。


「木偶は戦闘経験を積むことでレベルが上がっていく。岩巨人の木偶はもっと強くなれるはずだから、頑張って」


 レベルという概念が有ることに違和感を覚える。

 まるで、ゲームのようだ。


 ここは、俺のいた世界とはまるで別の世界なんだろうか。何もかもが違いすぎる。


「イチっ」


 思考を巡らせていると、リアが通路の先を指差して、俺の名前を呼ぶ。


 見ると丸いバスケットボールほどの岩の塊が、1ブロック幅の通路を、勢いよくこちらに転がってくる。


岩甲虫(ロックビートル)っ。気をつけて、かなり硬いよっ」


 転がってきた岩の塊を避けると背後の壁に激突する。

 その岩の塊がもぞもぞと動き出し、巨大な虫の姿に変わっていく。

 似たような虫を見たことがあった。

 ダンゴムシだ。岩の鎧を身に纏った巨大なダンゴムシがそこにいた。


「操縦しようか?」


 コントローラーを構えてるリアに向かって首を振る。


 岩巨人の木偶と試験用の戦闘機械人形で、モンスターと初めての戦いが始まった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ