ー第1章ー 「どうして肉が(略)」(7)
【登場人物】
・ハリド……ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。
・ユジス……ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。
・ノーティス……大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。
◆マナ
マナとは命の源のこと。各大陸の学校でそう教えている。
その通り。世界の生きとし生けるものには必ず宿っている力である。
マナを体内に蓄えておける容量、その個人差をMPと呼ぶ。3人の中だと一番低いハリドは一般的な戦士の平均値と大差なく、魔法使いのノーティスは戦士の約6倍のMPを持つ。そして、エルフのユジスが三人の中でダントツでMPが高い。
フィジカルな命の指標、HPと、体内に蓄えた命の源であるMPの両方が尽きた時、命を落とす。
そのため、ダメージを受けてHPを減らした時は、回復魔法などでMPを使いHPを回復させる。
魔法を酷使しMPを減らした時は、マナ補填をして周囲のマナを体に集め、MPを回復させて命を守る。
冒険者として世界を旅する上で、長生きするためにはHPとMP、両方を管理する必要がある。
HPがゼロの状態では『瀕死』状態となり、生命活動の停止まではいかないが、身動きが取れない状態となる。その状態でダメージを受けると、HPの代わりにMPにダメージが蓄積される。逆に、MPがゼロの状態で魔法を無理に使うとHPが減っていく。
文字通り命を削って戦う。そして、戦わなければ生き残れない、ということだ。
それがこの世界の理。
それはこの世に生きるすべての生物に課された定めであり、もちろん、大統霊もこのルールに縛られる。
ただし、魔法生物である大統霊のMPは、エルフなんて比べ物にならない量である。
基本MPが尽きて死ぬことは、ない。
ー7ー
水統霊ウンディーネは考えていた。
目の前に立ちふさがる三つの生命を。
ウンディーネに比べればちっぽけな命。比喩ではなく、大統霊と人間の間には比較なんて無意味なほどに力の差は歴然とある。
ウンディーネは殺し合いをしているつもりはない。ただただ一方的に、屠殺する。
そもそも話し合いをするような、同じ土俵の相手同士ではない。話は噛み合わないだろう。
大いなる自然とそこに住まう生命、自然に依存し頼っている生命が、本来自然に噛み付こうとしていること自体がおかしい。
だからこそ、その不自然さを粛清する。それが水を統べ、水のマナを統べるウンディーネの役割だった。
しかし、だ。ちっぽけな三つの生命は立ちふさがる。
背水の陣どころではない。背面は崖っぷち、前面には大いなる水の守護者が命を刈り取ろうとしている。
それなのにどうして諦めないのか。どうして挫けないのか。どうして、足掻くのか。
どうして、生き抜こうとしているのか。
ウンディーネはただただ一方的に屠殺する。そう思っていた。
しかし、四大統霊の一つ、審判者ウンディーネは、考えを改めた。
もしこの生命が、ウンディーネの試験を通過するようなことがあれば。
この世界の粛清を、この世界の終焉を踏みとどめるために、力を貸しても良いのではないか、と。
もちろん、ウンディーネは攻撃の手は止めない。
むしろ、ウンディーネの攻撃は目的を持ったことにより、より鋭く急所を抉るようになる。
ただし、ウンディーネは気づくことはなかったが、確かに英雄たち三人は、
ちっぽけな三つの命は、この時点で大いなる自然の心を僅かに変えることに成功した。
同じ土俵に立つことが叶わない、同じステージで戦うことが許されない、位の違う相手と、
戦い、話し合い、意見を通した。
世界を変えるとは、端的に言うとこういうことだ。
ただし今のままでは、ウンディーネに勝たなければ、世界を変えるどころか、世界の終わりとほぼ同じような状況である。
五里霧中。
鋭利な殺意を向けられた、白く濁った霧の中で、
生き残り、我を通し、世界を救えるか。
世界を終わらせないためには、この戦いを終わらせるしかない。
―――――――――――――――
【鳴止まぬ嘶く雨】
白く濁った霧の中で、ウンディーネの美しく嗄れた声が響いた。
ノーティスの業火魔法をいともたやすく打ち消した結果、辺りが濃い霧で覆われ、前も後ろも視界が真っ白だ。手を前に伸ばした、その手のひらが自分では視認できないほどの濃霧だった。
心なしか肌寒い。汗が冷えてきたのだろうか。
何はともあれ、視界が悪い。敵が見えないと攻撃が避けられないし、攻撃が当たらない。
ウンディーネのマナをトレースして、攻撃の方向を見極めて避けつつ、攻撃するしかない。
「聞こえるか!? マナトレース作戦でいくぞ!」
声が届いているのかも定かではない。自分の足元もよく見えない中で、ウンディーネの魔法が着々と体を覆ってきている気がした。
なんと、右腕が動かない。
左腕もだ。どうしてだ。
かろうじて視認できた右腕を見ると、鎧の隙間に薄氷が生成されていた。それは段々と厚みを増して、体全体を纏い始めている。
自然現象じゃない。霧の水分を栄養に、俺たちを氷人形にする魔法だ。
固まり始めていた薄氷を、腕を振り回して筋肉の膨張で割った。薄氷の段階で気づけてよかった。厚みを増すと厄介だ。身体のすぐ近くの分厚い氷は誰かに攻撃してもらわないと壊せないだろう。おそらく、俺たち三人とも、氷漬けにされて終わりだ。
俺は仲間に指示を飛ばす。返事が聞こえたので、そんなに遠くにはいないみたいだ。
「炎を纏え! じゃなきゃずっと動き回って氷漬けにされないようにしろ! この霧を何とかするぞ!」
「炎を纏っても、この霧で冷やされてすぐに無効化されてしまいます! とにかく動き回ってください!」
「じゃあ私は霧を何とかする! ノーティス援護お願い! カミナリトカゲやって!」
カミナリトカゲということはあの奥義をやるということだろう。
マナと水分が充満しているこの場所で行うと効果絶大な技だが、まかり間違ってその一撃をもらっても恐ろしい。この白く濁った霧の中では、どこからユジスの斧の斬撃が飛んでくるかわからない。もしかしたらほんのすぐ近くにいるかもしれない。早く逃げなくては。
「マナトレース!」
ユジスのマナをトレースした。位置的には、斬撃をもらう距離ではなさそうだ。ただ、ユジスの攻撃は斬撃に付随する爆風やら衝撃やらが半端ないから、もう少し十分に離れた方がいいだろう。足元に気を付けつつ(といってもよく見えないのだが)、俺はユジスから十分に距離をとった。
マナトレースをして、ユジスがおそらくいる、その方向から、風を切り裂くビュンビュンという音が聞こえてきた。気をつけないと風の刃で死んでしまうかもしれない。ただまぁ、おそらくユジスも俺たちのマナをトレースして、その方向には素振りしないようにしてくれていると思うけどな。
「こちらは準備オーケーです、ユジスさん、合図をお願いします!」
「いいよ! やっちゃって!!」
「では早速、『地を這う雷蜥蜴』!!!」
ノーティスの雷魔法はまっすぐ飛んでいく。マナトレースをして正確な座標を把握して。ウンディーネの方向ではなく、ユジスの方向へ。
雷の速さは光と同じ。『地を這う雷蜥蜴』は地面を這うように、一直線に飛んでいく。対象に当たると周囲に弾ける単体範囲魔法だ。唱えた瞬間、ユジスに当たって雷が弾ける。
「ハリド! アレお願い!!」
ユジスの大技の発動にはもう一つ必要みたいだ。体を纏わりつく冷気が阻害しているようだ。
「おうよ! えー……ちょっと待ってろ。……よし! 届け!『着火罪』!!」
俺はオイルリキッドの中にスプラッシャーを入れて軽く振り、ユジスのいる方角へぶん投げた。
スプラッシャーは液体に混ぜると大量の空気を生成する。空気で膨張した油風船は少しの衝撃でも破裂し、中の液体を周囲にまばらに拡散させる。
先程サイに使ったオイルリキッドは単体向けだが、スプラッシャーはアイテムの有効範囲を広げるサポートアイテムだ。
ちなみにオイルリキッドの拡散バージョンを、俺は『着火罪』と呼んでいる。
アイテムを使用しているので、技名を叫んでも使用MPは0だ。
俺たちが出す技も魔法も、もちろんそれは水統霊の魔法だって、効果は周囲の環境に左右される。
砂漠で水魔法を発現させても焼け石に水だし、大洪水に炎魔法を発現させても即消火してしまうだろう。
だから大きな力を持つ者は、その環境自体を変えてしまう。ウンディーネが大量の雨を降らせたり、周囲を霧で覆ったりするのは、水の攻撃をより強力にするためだ。もちろん、周囲の環境を変えてしまうほどの魔法を使うのは、余程の力を持っていなければ不可能だ。
しかし、だからこそ。強力な効果を得るためなら、俺たちは三人の力を合わせて周囲の環境を整える。
たとえばそれは、『地を這う雷蜥蜴』。周囲を覆う霧。つまりは水分。水分を電気分解して、水素と酸素を精製する。
たとえばそれは、『着火罪』。可燃性の液体を霧状に拡散させて、少しの火種で炎が燃え上がるように、霧に油を混ぜる。
たとえばそれは、ユジスの高速素振り。その鋭い斬撃は、風を切り裂く。風を巻き込み、風を燃え上がらせる。
それは、たとえ水の中でも、霧の中でも、氷の中でさえも。
ひとたび燃え上れば、水統霊でさえも焼き尽くす。
「消し飛べ!!『雷渦蒼炎陣』!!!!」
最後の方の技名は聞こえなかった。劈くような爆音と爆炎があたりを真っ白に。真っ白な霧を真っ白に蒸発させた。
ユジスがいるあたりを中心に暴風が全てを吹き飛ばす。風も、水も、氷も、そこにはまるで何もなかったかのような静寂が。
静寂? 違うか。耳がキーンとしている。何も聞こえないだけだ。
何も聞こえないが、ウンディーネが何かを叫んでいた。
俺たちの足元には見覚えのある物が現れ、その足を捉えていた。
【底あり沼】
ウンディーネが爆発で飛び散った身体を、水分を再び少女の姿に成形して、言葉を発する。
その言葉は、水にもあるまじき、熱く迸った声色だった。
「あなたたちは……、一体何回この森を燃やすつもりなんですか? ここは水の森なのに! おかしいでしょう!」
さっきよりも沼の範囲が広い。手をつくとそのまま体まるごと飲み込まれてしまいそうだ。
俺は強気に言い放つ。
「おかしくなんかないだろ。水を焼いて、何が悪い。炎を消せない、水の方がおかしいだろ」
「泣き言は泣きながら、言えばいい。涙に溺れて泣いて死ね。【滂沱の瀧壺】」
三人の頭上に巨大な甕が現れた。太陽を覆い尽くすほどの巨大な甕。その甕から大量の水がこの地に注がれようとしている。この辺りを大津波が優に流れ込み、俺たちはその膨大な量の水に圧倒され、足を沼に喰われた状態で逃げもできず、息もできず命を絶たれる。そんなことはどう考えても明白だった。
ただまぁ、俺たちがその技を素直に受け取ると思ってもらっちゃあ困るんだが。
「『ワープサークル』!」
俺たちの頭上に注がれていく大量の水は、俺たちの頭上に現れたノーティスの描いた移動魔法陣によってどこか別の人の頭を冷やす。
それにはとてもうってつけの対象がいる。
熱く迸って、自らが水であることを忘れかけている、あのお方だ。
「……なっーーーー」
俺たちの頭上で注がれた甕の水が、ウンディーネの頭上に降り注ぐ。
もちろん、そのまま自らに溺れるウンディーネを眺めていてもいいのだが、ここいらを水で満たされるとうっかり溺死してしまう。滝を受け止めて集中力が解けたのか、【底あり沼】の効果が切れたので、俺たちはひとまず木の上に避難した。
大量の水はウンディーネを綺麗に洗い流して地面に染み込んでは水たまりを作った。
一方、綺麗に洗い流された方のウンディーネは、熱気は先程よりも消えたようにも見えたが、殺意はこれまでよりも鋭く残っていた。
今までは鋭利な殺意だとすると、今感じるのは、鋭いというよりも、すでに首元に触れられているような。やってはいけないことをやってしまったことを、もう取り返しがつかないことをしでかした時の薄ら寒い恐怖を感じた。
水よりも、氷よりも寒い。恐怖。
「面白い、ですね」
「へぇ、そりゃよかった」
「正直、ここまで奮闘するとは思いませんでした。大いなる水の力にひれ伏して、死ぬ前に降参して、さっさと逃げ帰るものかと」
ウンディーネがちらりと横に目をやった。その方向にあるのは、融けた雪。焦げた草花。水たまり。戦闘の跡。生きている自然が、生きていた証拠。
「逃げるわけないよな。俺たちは一度世界を救った英雄だぜ」
「あなたたちは、一度は世界を救った。それは認めてもいいでしょう」
「っ!?」
状況が変わった。
会話が成立している……?
これは、いい兆候なのか?
俺たちが水統霊のステージに上がったわけではない。水統霊が俺たちのステージに降りたのだ。
その意味。
良い意味に聞こえないんだが。
「一度救ったところで、永遠に、何度でも世界に危機が迫ることでしょう。あなたたちはその度に世界を救うというのですか? あなたが救った命が他者を傷つけ、あなたが奪った命が他者を助ける時もあるでしょう。それでもあなたたちは覚悟を持って、あなたたちの世界を、生活を、続けていくというのですか?」
「「「もちろん!!!」」」
俺たちの声が揃った。ここで、ノータイムで言えなきゃ嘘だ。
最善の答えというのは確かにあるだろう。
ここで救わなければ、後に救われる他の命もあるかもしれない。
あの時もう少し強ければ、助けられた命もあるだろう。
後で答え合わせをすれば、過去を見直せるだろう。
しかし、それは未来を約束したものではない。
今行動を起こさなければ、救える命も救えない。自分が行動し、起こった現象を、最善かどうかなんて悩んでいたら何にもできないだろうが。
後で答え合わせしたところで、文句なく最善だったと思えるように全力で行動する!
今ウンディーネに謝って、降参して帰れば命は安全に済むだろう。
しかし、それで俺たちの掌から零れ落ちるものの大きさは計り知れない。
俺たちの安全のため、俺たちの命のために、この世界を壊してしまうことだって、あり得る。
それなら――、
「それならば、その覚悟、身をもって証明していただきましょう」
空気が変わった。という言葉では片づけられない異変が起こっていた。
空気なんか、そんな言葉では適当ではない。
いっそ、世界が変わったとでも言うような、そんな感覚。
それは足元から見て取れた。
先ほどできたばかりの水たまりが蒸発していく。
「ここからは水入らずで話をしましょうか。――最期の話を」
蒸発? 温度が上がって蒸発した? いや、これは――、
――消失? そう表現した方がいい。
水たまりだけではない。焦げた草は枯れ、土に戻った。融け残った雪は跡形もなく消えた。
ウンディーネを中心にした円が少しずつその力を外に伸ばしていった。
水が、川が、木が、命が、静かに、音もなく、消えていく。
それぞれの命が、儚く消滅していく。その時の流れをまるで早送りして眺めているような。
その異世界に俺たちはいる。だからこそ、その違和感は俺たちにも適用される。
まず倒れたのはノーティスだった。
「……っがは!」
明らかに健康に悪そうな咳をして、ノーティスはその時の流れに抵抗した。
倒れつつも立ち上がろうとし、這いつくばってその体への変化に抗う。
ユジスも遅れて膝をついて、呼吸を荒げた。
「MPが0になって……、HPもみるみる減っていってる。周囲のマナが枯渇して、私たちのHPから、マナを吸収していってる……」
俺? 俺は既に地面に横たわっているぜ。当たり前だ。俺のMPはとっくに0だ。
「おかしい! あれだけ潤沢なマナが一斉に枯渇した! 私たちの体から強制的にマナが出ていくほど、周囲のマナがなくなるなんて、そんなこと……」
「私の【隣接する戦慄】の仕業じゃないかしら」
俺たちの眼前にウンディーネが優しく微笑む。
先ほどまで潤いを蓄えていた瑞々しい森は、命を枯らしてみる見る間に樹の肌を露出し、葉を落とし、倒れて腐る。豊かだった森の中心で、死にゆく森の中心で、水の精霊は微笑む。
「【隣接する戦慄】は周囲のマナをゼロにする。ゼロになった空間は、周囲から強制的にマナを吸い取り、空間を安定させようとする。ただし、そのマナすらも無になる。この空間にはマナは存在しなくなる。マナが存在しない世界で生きられる生物など、存在しない」
今現状をつらつらと説明してくれる。それをまともに聞ける状況ではない。
戦いの中で、戦うまでもなく、命が終わる。
戦いを終わらせる前に、命が終わってしまう。
「マナを吸い取っても、落命はしない。ただし、ほんの一撃、最後のHP、その搾りかすを削れば、最期となる。なぁに、私が作り出したHP1の精霊を勢いよくぶつければ、簡単に終わりよ」
ウンディーネの周りには三つの蠢く水の精霊が生成された。
「アクア、バブルス、ドロップ。あの三名にお別れを言って差し上げて? 死ぬ覚悟が御有りのようだから」
三つの水の塊は、浮遊し、付随し、浮浪している。命令が下されれば、その通りに動くだろう。
通常ならば、そんな体当たり、鎧で弾いて終わりだ。
しかし、MPが0、HPが1の時に、そんな攻撃をされたら、俺たちの命は一巻の終わりだ。
まだ第一章なのに! とかそんなふざけたことを考える余裕すら、もうない。
「世界を救うなんて、誰でも言える。マナがないと何もできないのだから、そのまま世界の終わりを眺めていればいいものを。今ここで予行練習させてあげるわ。練習は本番のように、ですものね。死ぬ体験、とくと味わって」
ウンディーネの命令で、俺たち三人に向かって水の精霊が飛び込んでくる。
ノーティスは杖を持つ力もなく、苦しそうにうずくまっている。
ユジスは斧を抱き、眼だけはウンディーネを睨みつけて、精霊を迎え撃とうとしている。
俺は、ふとこんなことを思った。
「腹減ったなぁ……」
肉を食べたかった。たらふく食べて、ワインを飲む。チーズを食べて、楽しい会話をする。
そんなつもりで来たんだが、牛には吹っ飛ばされるし、肉は食えないし、散々だ。
ここでこうして命を落とすつもりなんてさらさらなかった。
ただまぁ、帰ったらたらふく肉を食べてぇなぁ。
水統霊が降らせる、精霊の攻撃を眼前に見やり、俺は覚悟を決めた。
死にゆく大地を背に、俺は静かに目を閉じた。
≪おまけ・読み飛ばし可≫
掲載順・使用者別
〇ハリド
『着火罪』
……使用アイテム「オイルリキッド」に「スプラッシャー」を混ぜたもの。使用時に技名を唱える必要なんてない。個人的趣味の話。
あくまでアイテム使用時に、「自作のカッコいい技名」を叫んでいるにすぎない。
「ポーション」を使っといて、『ヒール』と叫んだって、「絆創膏」を貼りながら『神の御手』と唱えたって、当人たちの自由である。
ハリドはあまり魔法をうまく扱えないので、アイテム屋に入り浸り、自作魔法っぽいことをするのが好き。メカメカしいのも大好き。ただし、冒険中は動き回るため、汎用性の高い、機動性の高いアイテムを持っていくことにしている。
なお、余談だが、ハリドは今回のヤキニクパーティのために、全国のスパイスショップに足を運び、ヤキニクに最適なスパイスを研究した。そのスパイスは焼肉会場に置いてある。
……これが焼肉パーティ開く英雄たちの話だったって覚えている人います?
〇ユジス
『雷渦蒼炎陣(らいかそうえんじん)』
……斧の鋭い振りから摩擦熱を生み出し、静電気による雷を生み出し、爆発的な斬撃を実現させる、馬鹿力がなせる奥義。今回は大量の霧を爆散させるために使ったが、通常時はおそらく、技が発動する前の振りで戦闘が終了する。
強すぎると奥義の演出が見れなくてもったいないですよね。
でも大丈夫。今回も、濃霧と爆発の煙で何にも見えなかったです。
〇ノーティス
『地を這う雷蜥蜴』
……雷魔法は、空気を伝播して攻撃対象に届く物がほとんどだが、この魔法は地や金属を這って攻撃を届かせるため、対象にピンポイントで攻撃を当てやすい。
出力を強くすれば対象の筋繊維を麻痺させ、「不自由」状態にさせることも可能。対象者の武器に仕掛ければ、武器はまぁ、ほとんどの場合金属であるため、武器の使用を制限させることもできる。
今回はユジス周辺の濃霧を電気分解させる目的のため、出力はかなり絞ってある。
●ウンディーネ ()の中は難易度。
H…ハード、M…マニア
【鳴止まぬ嘶く雨】(H)
……霧に冷気を混ぜて散布、対象を少しずつ氷漬けにする。
15秒で「軽度の氷漬け」状態。仲間からの攻撃で治る。
敵からの攻撃で1.5倍のダメージ。
60秒で「重度の氷漬け」状態。仲間からの攻撃2回で治る。1回攻撃を受けると「軽度の氷漬け」状態になる。
攻撃、魔法、アイテム、にげるコマンドが選択できない「不自由」状態。
敵からの攻撃で3倍のダメージ。
120秒で「氷漬け」状態。味方、敵からのダメージで瀕死状態。
特殊治癒魔法で120秒融かし続けないと回復しない。
この魔法の回避手段は、「霧を晴らすこと」一択である。
一度魔法が発動してしまえば、魔法使用者を倒しても、霧と冷気は永続する。霧の冷気よりも高度の熱、炎、風で爆散させてしまうのが効果的である。
【滂沱の瀧壺】(H)
……攻撃対象の頭上に巨大な甕を出現させて、その甕からの超大量の水を降らせ、圧死、溺死、ショック死、激流での複雑骨折から……とまぁ、ゲームバランスを崩壊させてしまうほどの大統霊専用大魔法。
周囲の地形を地図上ではっきり分かるほど変えてしまう。
木々はなぎ倒され、土は削り取られ、生命は流され消える。
この魔法の唯一の弱点は、効果発動までの時間差である。
発動時に水が大量に降ってくるのではなく、発動時にまず甕が出現する。
その甕から水が降り注ぐので、その前に何かしらの策が必要になる。
どこかに逃げる、というのは有効だが、効果範囲は地面全体。
家や木々は倒壊するおそれがあるので、安全な高所に逃げる必要がある。
【隣接する戦慄】(M)
……周囲のマナを枯渇させる、マナを操る水統霊専用魔法。
マナはすべての生命から元素に含まれているため、マナが枯渇すると、全ての元素は枯渇状態から安定させるために、周囲のまだ安全な元素から無理やりマナを奪おうとする。
しかし、効果対象の周囲はマナが否応なく「0」になってしまうため、マナ枯渇状態の円は次第に急速に広がっていく。
その環境下に身を置くと、体内のマナ保有量である「MP」が急速に減り続け、MPが0になると、次は「HP」が体内でマナに置換され、やはり減り続ける。「HPが1」になると、「瀕死」状態になり、周囲の元素のマナ枯渇状態と同じマナ保有量になるため、元素からマナを奪われなくなるが、身動きが取れなくなる。
使用者であるウンディーネのマナ保有量は全生命の中でも群を抜いているため、丸一日その環境に身を置いても、マナ枯渇状態になることはない。
一方、冒険者がいくら強くても、その環境内においては、10分と立っていることはできない。
HPが1の状態では、何を受けても致命傷になる。
死んだら、終わり。
マナ枯渇状態では、命が終われば、死体も残らない。