ー第1章ー 「どうして肉が無いんだよ!!」(6)
【登場人物】
・ハリド……ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。
・ユジス……ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。
・ノーティス……大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。
ー6ー
◆水統霊
水のマナを統べる精霊の長。
その姿形は伝聞ごとに違っていて定まっていないが、伝説や古記には、女性の姿で書き表されていることが多い。
水から母性を連想する事柄が多く、そのイメージから女性の姿をしているのではないか、という説がある。
伝聞ごとに姿形は定まっていないが、一つ決まっているのは、その性質。
優しくて、冷酷。
瑞々しい癒しの能力。
凍てつく戒めの能力。
大地に潤いをもたらし、命をもたらす水の意思に背くことは、一体どういうことか。
対峙したものは、身をもって思い知ることになる。
限りある時間を犠牲にして。
ーーーーーーーーーー
「先手必勝ォー!!『マグナムチャージ』!!」
戦いは始まった。ユジスは『マグナムチャージ』を繰り出した。鬼神の斧がウンディーネを切り裂くーー。
【波動掌】
ーー切り裂くかに思えた斧の斬撃はウンディーネの掌に阻まれる。
「やばっ!」
「遅い」
ウンディーネに向かった攻撃力が、突撃力がそっくりそのまま後方に跳ね返され、ユジスが流星の如く森に突っ込もうとしていた。
雪だるま・スノーキラーによって痛い目にあったはずの技だが、今回その技を繰り出したのは水を統べる精霊ウンディーネ。ただ跳ね返すだけで終わるはずがなかった。
【予期せぬ穿つ雨】
ウンディーネによって、ユジスが吹っ飛ぶその延長線上に水の鋭利な刀が静かに配置された。そのままユジスが無防備に吹っ飛べば、彼女を受け止めるのは森林ではなく、無慈悲な刃だ。
考える前に体が動く。
『烈天障把』!!
俺は、風の力を借りて勢いよく飛び出て、ユジスを待ち受けていた鋭利な水の刃を吹き飛ばした。ギリギリで間に合ったものの、吹っ飛んできたユジスを避けることはできなかった。
「ごめん! ハリド!!」
「っぐわああああああぁあぁーーーー!!!!!」
ユジスを狙った刃を吹き飛ばしたということは、ユジスの流星のような突撃を正面に受け止めることになる。そんなことが霊長類にできるはずがない。俺はユジスの体当たりをもろに喰らうことになり、ユジスの代わりに後方へ吹っ飛ぶことになった。
俺にぶつかったユジスは吹っ飛びエネルギーを俺に全て受け渡したことにより、その場にとどまることに成功する。
ビリヤードで吹っ飛んだ球のように、綺麗に俺だけフィールドから姿を消すことになった。
何メートル吹っ飛んだのかわからないくらい何本もの木々の枝を通過して、止まった。『インセンシティブ』のおかげで無傷だが、三半規管が酔った。ボス戦くらいは普通の防御魔法をかけてほしいのだが。
槍移動魔法『イーグルスピア』を使ってフィールドに戻る。「ふぅ……。おいお前ら、雪だるまで学んだだろ、超火力でぶっ放して勝てる相手じゃないんだからもう少し慎重にだな……」
「『エンチャント・フレア』!!!」
ノーティスが魔属性付与、炎パターンの魔法を唱えて、俺とユジスに炎のオーラが宿った。
「『知られざる袋とじ』で先ほど見たのですが、【波動掌】では物理攻撃、武器属性の魔法しか跳ね返せないようです。ですので魔属性を付与した今、【波動掌】は透過できます。これで安心してぶっ放してください、ユジスさん」
「そうね、私には超火力の超攻撃的戦術しか頭になかったから、これでやっとぶっ放せる」ニヤリと不敵に笑うユジス。
考えてみれば、ユジスの攻撃は雪だるまにも、ウンディーネにもまだ一度も有効に届いたことはなかった。鬱憤がたまっているのだろう。
ユジスは炎のオーラに自分のマナを乗せて、斧を地面に這わせるように振り上げた。それだけで、地面を這うように空気の刃が現れる。ウンディーネに向かって一直線に、空気の刃が削り取られた地面に傷跡を残していく。その巨大な傷跡が黒く大地を焼き、焦げて大地が焼けた臭いを発する。『磊轢の轍』の炎属性付与バージョンだ。
「『獄炎の轍』!!!」
目に見えない高温の空気の刃がウンディーネに向けて放たれる。この攻撃は、お得意の【波動掌】では跳ね返せない!
「ヴヴン……」
「!?」
直撃したはずのユジス必殺の『獄炎の轍』はウンディーネの掌に受け止められ、消えた。
今度は跳ね返さずに、受け止めて、衝撃を消してしまった。
どういうことだ? 地面をえぐり取るほどの衝撃を、まるで無かったもののように受け止めやがった。
「おい、ノーティス、こいつは何ていう技なんだ?」
「検索中ですが、おそらく『不明』に属する魔法です。注意してください!」
「注意しろって言われても」
攻撃が通らないってのはどうすればいいんだ。
おそるべき回復能力ってのはMP切れを狙えばいいんだけどな。
【見知らぬ削る雨】
ウンディーネがそう唱えると、突然雨が降り出した。これも何か効果を持つ技なんだろうが、少なくとも装備が溶けるとか、攻撃的な効果を持つものではないもののようだ。だとしても、この雨は確実に、俺たちには不利に働くものだろう。
『知られざる袋とじ』で得たデータは仲間のうちで共有できる。専用端末を確認してみるが、【不明】と書いてあるばかりの技が多い。データベースにもない技が多いということか。
それはそうだろうな。この長い歴史の中で、水統霊どころか、大統霊に戦いを挑んだという伝承は、聞いたことがなかった。
「意外と慎重ね。でも、攻撃しないと私は倒せないよ」
こうしている間にも、ユジスの斧による連撃は続く。
超攻撃的な斬撃を繰り返すユジス、それを無効化して佇むウンディーネ。
俺とノーティスはそれをそばで観察しながら、どうすればウンディーネにダメージを与えられるかを考えていた。
俺たちの攻撃力が弱すぎるとか、そういう話ではないだろう。だとすれば、【波動掌】を使うまでもなく、この謎の【攻撃無効化】を最初から使っていたはずだからだ。【波動掌】にも魔法攻撃は跳ね返せないという弱点があったように、おそらくこの【攻撃無効化】にも何らかのトリックがあるはずだ。それを見つけ出さないと、どれだけ攻撃を繰り返したところで無意味だろう。
攻撃をやめるな。
思考を止めるな。
諦めるな。
【底あり沼】
一向にダメージをあたえられないまま、ユジスの猛攻は止まない。その攻撃を嘲笑うかのようにウンディーネが掌をかざすと、俺の足元に沼が現れた。ウンディーネからの初めての攻撃は、俺に向いた。
足元の沼によって、俺の行動が制限される。足が抜けない。棒立ちの状態だ。
【母なる水滴】
ウンディーネから放たれたのは一滴の水だった。
その水滴は一直線に俺に飛んできて、脳天に直撃して快音を鳴らした。兜を付けていなければ脳みそを貫いたんじゃないかっていう硬さだ。ただの水だと思ったら水の弾丸だったってわけか! 首が持っていかれて、後ろに倒れる。
「ぐうっっ!!!!」
足が沼で拘束されているため、衝撃を完全に流すことができずに、不自然な受け身を取るしかなかった。首をひねってじんじん痛んだ。
「おい! ノーティス! 『インセンシティブ』が解けてるぞ!!」ダメージが首と背中と足首に。地味に痛い。
「えぇ、先ほどの小雨は僕たちにかかった魔属性付与を解く効果があるみたいです。一定時間雨にさらされていると、付与効果が消える」
気づいたら、俺の身体に纏っていたはずの炎のオーラが消えていた。これもこの雨のせいか。
「どのくらい保つかわからないから、かかった瞬間を狙ってください! 風を纏いて嵐を従え、颱風の眼を持つ荒れ狂う六つの牙!!『ウィンドミル・ヘルハウンド』!!」
俺の身体に緑色のオーラが纏った。風属性の突貫力付与魔法。ノーティス特製の俺専用魔法だ。嵐を纏って、槍属性の攻撃力を上げる。嵐を纏うということは、少しばかり宙に受けるということだ。
雨がこの効果を洗い流す前に。
「『イーグルスピア』!!!」
槍移動魔法の力を借りて、【底あり沼】から足を抜け出すことに成功した。そのまま体を独楽のように回転し、ウンディーネに槍を喰らわせる。絶好のチャンスだ。
「『旋獄六槍』!!!」
俺の手に持つ槍と風の槍、嵐の槍、大気の槍、オーラの槍、マナの槍。合わせて六つの槍で六連撃突貫をする槍奥義。『ウィンドミル・ヘルハウンド』バージョンだった。
だったのだが。
「ヴヴ「ヴヴ「ヴヴン「ヴ「ヴヴ「ヴヴン……「ヴヴン……」」ン……」ヴン……」……」ン……」ン……」
六連撃とも謎の力で防がれてしまった。
「ふん、その程度。【母なる水滴】」
撃ち込んできた水の弾丸を風の力を使い避ける。と同時に俺の身体から緑のオーラが霧消した。付与効果が消えるのは雨に触れてから三分くらいだろうか。
ともあれ、なんだか妙だ。俺は既視感を覚えた。
さっきの【波動掌】といい、この攻撃を受け止める感じ、前に見たことがあるような……?
そう、そのどれもが、雪だるまだ。
攻撃を跳ね返す技。攻撃を受け止める技。
スノーキラー。森を守る門番。生きるカギ。
そうだ、あの封印だ!!
「ノーティス! マナトレースをして、ウンディーネと同じマナを探れ! おそらく、このフィールドのどこかに、さっきの巨木の封印を解く斧が隠されているはずだ!」
「……【攻撃無効化】はさっきの【封印】ってことですか。承知しました。『マナトレース』!!!」
「やっと気づいたか。我が【蒼き封印】に」
このフィールド上に、ウンディーネを守る封印を解く斧が隠されている。さっきの巨木に攻撃した時のように、今ウンディーネを攻撃したとしても、全て受け止められてしまうだろう。魔属性を付与しても同じだ。あの魔属性付与を打ち消す雨は、俺たちにそのことを気付かせないようにするためのブラフだったってことか。
魔属性が消えたからダメージを与えられなかったと誤認させるための。
「ユジスさん! ここから七時の方角に反応ありです!」
「オッケーーーーー!! 『アクスエクスプレス』!!! いっけーーーーー!!!!」
ユジスが斧移動魔法『アクスエクスプレス』でノーティスの指示通りの方向に突撃した。木々を薙ぎ倒して戻ってきた時には、先ほどスノーキラーが持っていたような木こりの斧を持っていた。不思議な青いオーラを宿しているのが見える。ビンゴだ。
「これでやっとあなたを攻撃できるね。喰らえ!!」
【無機物鳴動】
ユジスが振りかぶった封印を解く斧が、彼女の手を抜け出して勝手に動き出した。
その軌道上にはノーティスがいる。しまった、『烈天障把』は届かない。
……いや、たとえ届いたとしても、『烈天障把』では防ぐことはできないのではないか?
だって、その斧はただの斧ではない。
マナを切り裂く封魔の斧だ。
「ノーティス!! だめだ!! 防ぐな!! 避けろ!!!」
機動力に欠けるノーティスは斧の攻撃を魔法盾で受けようとしていた。
しかし、その斧はマナを切り裂く。魔法盾の加護ごとノーティスを切り裂くだろう。
封印に気付かせるまでがウンディーネの策略だったってことか。
封印を解く斧で、逆に俺たちを攻撃するための策略。
俺の意図が伝わったのか、ノーティスは防ぐのをキャンセルして逃げようとした。
「『賢者の意思』!!!」
【予期せぬ穿つ雨】
「ノーティス!!!」
それは一瞬だった。
封魔の斧の攻撃を避けるために、杖移動魔法で逃げ出したノーティスを水の刃が切り裂いた。
斧の攻撃を避ける方向に配置された鋭利な雨。
それはさっきユジスが喰らうはずだった、血も滴る殺意の刃。
逃げるための強い推進力が、結果的に深く刃が突き刺さる形に作用した。悲鳴もなく深く切り裂かれたノーティスはそのまま地面に雑に着地した。
ノーティスに駆け寄って、彼の状態を見た。『ダメージ分斬』を使って受けたダメージを身体全体に分散させていたが、ノーティスは明らかに致命的な傷を負っていた。
「これで、その子は終わり」
ウンディーネは、戦いの当初から動くことなく、そこに佇む。
水のように透き通った、刃のように鋭利な殺意を持って、冷酷な瞳をこちらに向けていた。
「あと二人」
「ノーティス。ちょっと部が悪いな。一度帰って作戦を練りなおそうぜ」
ここで死んだら意味がない。退く勇気も英雄には必要だ。
いつものノーティスなら、そんなようなことを言うはずだった。
しかし、今日のノーティスは、違った。
「まだ……、まだやれます」
「おい。動くな。喋るな。自分のステータスを確認しろ。危険なんだぞ!」
「ここで退くと、水統霊の試練に落ちたことになります。チャンスは一度しかない。彼女の力を借りることが二度とできなくなってしまう! それは死んでも……嫌だ」
「ノーティス……」
絞り出すように、息も絶え絶え、ノーティスは俺の目を見て言った。
「嫌なんですよ。ハリドさん。『インセンシティブ』が解けてしまった今、聴力が通常に戻っているからこそ聞こえないかもしれませんが、僕はこう言っているんですよ。『まだやれます』って。一緒に、戦って、くれますよね?」
いつも斜に構えて、俺らをゴミクズのようにしか見てなくて、変な魔法を開発しては実験台にして、
しかし魔法の研究だけは人一倍熱心な、ノーティスの信念。
お前の死ぬ覚悟、
ウンディーネには伝わっていないかもしれないが、俺にはちゃんと伝わったぜ。
「ノーティス、……ちょっと耳貸せ。あとさっきのアレ寄越せ」
「……何を?」
「言う通りにやれ。今度こそ、本当に、戦いを始めよう。ユジス!!!」
「なに、どうするの? やめる?」
ユジスが心配そうな顔をしておろおろしていた。
彼女はエルフでありながら魔法をうまく扱えないため、回復魔法が使えない。大怪我をしているノーティスを見ているしかできない自分を悔やんで、尻込みしているのだ。
彼女らしくない。
「ノーティスなら大丈夫だ。作戦がある。お前は封魔の斧を取り返して、ウンディーネの封印を破壊しろ!! お前にしかできないことだ! 任せたぞ!! ユジス!!」
「う、うん!!」
残念だったな。ウンディーネ。
俺たちを試そうなんて、片腹痛い。
一度世界を救った俺たちだ。
これから何度だって、世界を救ってやるさ。
三人がいればなんだってできる。それが俺たち、ハリユジノーなんだから。
「ああああああぁぁあぁああぁあ!!! 『猛々き慟哭』!!!!」
支配系魔法にかかった対象の主従関係を乗っ取る咆哮技を使い、ウンディーネの使った【無機物鳴動】の使用権を乗っ取る。ユジスは左手に鬼神の斧『風涙雷涙』、右手に封魔の斧を持ち、まるで鬼神のような覇気を見せた。
彼女は複数の武器を操り、攻撃力を加算できる常時発動スキル『一屠一獰二斧四十三剣』を適用した技、『磊轢の轍』を発動した。二本の轍が地面に刻み込まれる。一本目が封魔の斧の蒼き道。二本目が鬼神の斧の紅き道。どちらも目で追うのがやっとのような速度でウンディーネに襲いかかる。
蒼き道がウンディーネに触れると、辺りのマナが弾けるような風圧を感じた。ウンディーネの封印が解けた。ウンディーネを包んでいたことにより、彼女の濃密なマナが辺りに溢れ出た。それは全てを飲み込む大津波のような圧力を与えてきた。
二本目の紅き道を彼女は左肩に受けた。左肩は衝撃で吹っ飛んだが、またすぐに元どおりになった。ダメージをを与えられているのか不安になる回復スピードだ。
「『灼位継承』」
俺はすかさず己の攻撃力と炎属性を仲間に付与する魔法をノーティスに与えてから、間髪入れずに封印の解けたウンディーネに魔属性のスキルを浴びせた。
「『冥き竜巻』!!!」
『ウィンドミル・ヘルハウンド』の効果は消えていたが、十分に目的は達するーー。
【母なる水面】
ーーかに思えたが、ウンディーネは新たな技を繰り出してきた。【波動掌】とはまた違う。広範囲に波打つ水面の壁。
俺は危険な匂いを感じた。
『冥き竜巻ーー寸止め』!!
……繰り出しかけていた技をキャンセルした。
ウンディーネの水面の壁は静かに消えた。
「……? 随分器用なことをするのね。これからどうするの? たった二人で」
「なぁに、まだまだ、これからさ」俺はニヤリと不敵に笑った。
その時、ノーティスが爆炎魔法を唱える。
「『聳り立つ蠍花火』!!!」
レーザーのような光線がウンディーネに一直線に伸び、左胸に着弾すると、そのエネルギーは轟音とともに四散した。ウンディーネは左胸だけではなく姿形全てが爆散して、辺りに熱気を残して轟音の後の静寂が訪れる。
数秒後、驚いた顔をしたウンディーネが再び姿をあらわす。
「……あなたは……、私の雨で切り裂いたはず……!! どうして……!!」
「あんたのおかげさ、水統霊」
俺は空っぽの小ビンを取り出した。
「!? ……それは……?」
みなものこびん。水を入れると最高の回復薬になる。
この辺は水は無かったし、さっき吹っ飛ばされた時に川を通ったが、俺の鎧に残った水はわずかだった。
ただ、この辺りは雪原だ。雪はたくさんある。
俺は雪をこびんに詰めて、ノーティスに渡した。
そして、あいつに炎属性を付与した。
こびんの中の雪は溶けて水になり、その雪解け水はノーティスを全回復する薬になった。
傷ついたノーティスに振りかければあら不思議。
元気で皮肉でムカつく元どおりなノーティスの出来上がり、だ。
「つまらぬことを……」
「面白いアイテムをくれてありがとうよ。と、いうわけで、手品を明かしたら、こっちの出番だ。ノーティス!!」
「命を賭して燃え上がれ!!『燃え盛る課金』!!!!」
ノーティスが獄炎魔法を唱える。
魔法名の意味はよく知らないが、おそらくノーティスが趣味でつぎ込んでいるゲームの話だろう。
魔法も技も、使用者の気持ちを込めれば込めただけ、基礎ダメージが増える。よって、ノーティスの渾身の技名はゲームの影響が大きく出ている。
【母なる水面】
さっき俺の攻撃に繰り出した波打つ水面の壁だ。ノーティスが浴びせた獄炎が、水面に反射してノーティスに跳ね返る。
「【波動掌】で物理攻撃を跳ね返し、【母なる水面】で魔法攻撃を跳ね返す。寄せては返す波のように、私に攻撃を当てることは、できない」
「それなら、僕だって跳ね返すまで、だ!『限度額超過』!!」
ノーティスの方へ跳ね返った炎が、彼の前に現れた灰色の渦巻きの中に吸い込まれていき、より巨大な炎となりウンディーネに吐き出した。
「跳ね返すのが自分だけと思わないでもらいたいね。僕はこの世の全ての魔法を研究しているんだ。そして、より凶悪に改造している。僕の限度額超過はただ跳ね返すだけじゃない。より強力になって跳ね返す」
雨が降っているというのに、その燃え盛る炎はちっとも弱まることを知らない。
「地獄の業火でその身を焼け!!『燃え盛る課金』×『限度額超過』=『神々の創りし終焉』!!!!!」
「……っ!! 愚かな。それすらも跳ね返してやる!【母なる水面……」
「『透ける助太刀』」
ウンディーネが掌をかざして現れた水面は、迫り来る炎を前にすぅっと姿を消した。
「なっ……」
『透ける助太刀』は敵の繰り出した技を無かったことにする技。一応、俺専用のスキルだ。『寸止め』の応用技になる。
使い所が肝心である。そして、それは今、だ。
跳ね返すことのできなかった獄炎の焔は水統霊の身を蹂躙するように、焼く。
「ぐっ……ううううううううう!!!!【雨曝しの篝火】!!!!」
小雨が突然豪雨になって辺りを水しぶきが舞う。
俺たちはとっさに木々の下に雨宿りをした。一寸先が見えないほどの豪雨だ。
ノーティスの焔が鎮火した頃を見計らって、その雨は止んだ。
雨上がりの水の匂い。草の匂い。雪が溶けて露を弾く草が姿を現した。
ウンディーネの身体は、ちっとも焦げていない。
当たり前だ。彼女は水、そのものだ。
まだ、水統霊に決定的な一撃は、何も与えられていない。
「これで、終わり?」
ウンディーネは嘲笑う。雨に濡れた俺たちを嘲る。まるでそこには最初から炎など無かったかのように。
「まだまだ、これからさ」
俺は強気に笑う。戦いはまだ、始まったばかりだ。
しかし、ふと思うのだった。
おいおい、魔王よりも強いんじゃねぇか?
これは一体、どういうことなんだ。
俺たちは、世界を救ったんだよな??
つづく。
《おまけ・読み飛ばし可》
…下手したら本編よりも長くなるんじゃ……。
掲載順、使用者別
○ハリド
『烈天障把』
……風の力を使って突撃し、魔法を分解するハリド専用の技。対空技。掌で攻撃すると
『烈天障把』。槍で攻撃すると『烈天障槍』となる。
『イーグルスピア』
……槍移動魔法。槍の性質上、移動と攻撃を兼ね備えることができるため、応用が幅広い。というか、同じ槍移動魔法(極論、槍を高速で移動させるだけ)で移動の仕方が違うだけで技名を変えている感じは否めない。
《例》
『回りくどい槍蛇』後方に回り込んだ槍攻撃。
『再是槍』一度貫いた槍が後ろからもう一度貫く攻撃。
『ピンポイントサンダー』雷鳴轟く時に敵頭上めがけて雷を落とすために、敵付近に槍を上向きに配置するアナログな雷攻撃。
『旋獄六槍』
……魔属性槍攻撃。ちなみに筆者は無双シリーズはなーんにもやったことがないので爽快感とか全然わかりません。
『灼位継承』
……使用者の攻撃力を付与できる。ついでに炎属性を付与。攻撃力の低い魔術師に攻撃力依存の技を使わせるためとかに使ったりする。ハリドは炎属性付与の技をこれしか持ってなかったのかもしれない(未定)。
『冥き竜巻』
……闇風属性の魔法。今回は『寸止め』した。
『寸止め』
……繰り出した技や魔法を対象に当てる前に無かったことにする。意外と技術的に難しく、ハリドしか使うことができない。
『透ける助太刀』
……対象が使用した技や魔法を効果の出る前に無かったことにする。かなり強力な技にもかかわらず、ノーティスは『スケスケ』と言ってバカにする。
○ユジス
『獄炎の轍』
……後述『磊轢の轍』に炎属性を付与したバージョン。技名を『磊轢の轍・炎属性バージョン』!!としてしまえばわかりやすく簡単なのだが、技名を色々変えてみたいお年頃なのだ。
『猛々き慟哭』
……支配系魔法にかかった対象の主従関係を上書きする技。成功率は攻撃力に依存するため
普通の敵や霊長類ならユジスの命令に従わない者はいない。
『一屠一獰二斧四十三剣』
……敵の武器を奪ったり、盗んだりして、敵の攻撃力を削ぐために通常一つしか装備できない武器を複数所持して戦闘する必要が生じる時もある。その場合、手は二本しかないため、異なる武器の移動魔法を組み合わせて使用する必要がある。
今回は斧が二つのため、両手で事足りたが、握力の関係上、十二分に力を振るえないことがあるため、この技を使用して武器にかかる攻撃に不要な重さをカットする。両手に持つことができない量の武器は、武器移動魔法を併用して阿修羅の如きユジスをお見せできる。いや、阿修羅以上、か……。
『磊轢の轍』
……地面に這わせるような斬撃が、空気の刃となり、一直線に対象まで飛んでいく。地面を傷跡が抉り取りながら進む。そのため、段々衝撃が弱くなってしまうのではないか、と思われがちだ。通常の『磊轢の轍』は確かに超近距離技で、敵に近いほどダメージが大きい。しかしユジスが使うこの技は、周りの空気や石ころ、泥、岩石などの重量物を巻き込みどんどん衝撃を増幅させていく。空気の鋭利さと、岩石の重量を兼ね備えた、ギロチンとダンプカーが合わさったかのような走る凶器である。いや、もっと、それ以上。
○ノーティス
『エンチャント・フレア』
……魔属性と炎属性を付与するサポート魔法。
技名から分かる通り色々な属性を付与できるが、それはノーティスが一通りの魔属性を習得しているからできることであって、通常のレベルの魔術師が付与できるのはできてせいぜい
2種類程度である。
『ウィンドミル・ヘルハウンド』
……味方単体に風属性付与に加えて、竜巻のように回転させて突撃攻撃力を上げる。ハリドに使うために開発された魔法。加減を間違えると首が千切れて吹き飛ぶとハリドに言ってから、ハリドは使用を禁じていた。もちろん、ちゃんとやればそんなことはない。はず。
『賢者の意思』
……杖移動魔法。杖に乗って魔法使いのような戦い方も出来るが、移動しながら魔法詠唱をして、座標を指定して、動く敵に当てるのはノーティスであっても簡単じゃないので、通常魔術師は移動せずに後方から魔法を唱える。
どんな強大な魔法も、当たらなければMPの無駄遣いなのだ。
『聳り立つ蠍花火』
……炎属性爆裂魔法。爆散しないような硬い敵にも問題はない。一度外皮に撃ち込んだ高熱の弾には溶解毒が仕込まれていて傷口から融けていく。
水統霊の場合は逆に爆散して毒を体外に放出し、ことなきを得たのだった。
『燃え盛る課金』
……ただ課金するのでは引けない気がした。炎属性のキャラが欲しい場合、炎属性の課金をすれば引けるのではないか。そう思い作ってみたら、30連以内で引けた。
ノーティスの中でそれが一つのジンクスとなった……。
という裏話をハリドたちは知らない。
ボスに放つ決め技がそれかよ!!
『限度額超過』
……課金するときは限度を決めておくことだ。
例えばそれは予算。もしくは、どうしても欲しい場合は、引けるまで。
最初から決めておかないと、ボタンを押すたびに葛藤しなくてはならない。
悩むなら引くな。引くなら悩むな。
『神々の創りし終焉』
……課金の末に見られる終焉。
欲しいものが引けたのか。予算が尽きたのか。それは神のみぞ知る。
○全員
『ダメージ分斬』
……ハリド・ユジス・ノーティス(ハリユジノー)が全員使えるダメージ分散技。右腕のみにダメージを受けた場合、右手が使い物にならなくなってしまうと戦闘が継続できない。その為、体力を一括して受けたダメージを分散して計算することによって、右手のダメージを身体全体に分散して戦うことができる。
ダメージを分散していなかったらノーティスの身体はもっとエグいことになっていたはず。
●水統霊()の中は難易度設定。
N…ノーマル、H…ハード、M…マニア
【予期せぬ穿つ雨】(N)
……主に対象の後方に鋭利な刃を配置する罠属性水魔法。
刃の表面は水がとめどなく流れている為、触れるだけで血を吸い取り赤く染まっていく。
難易度マニアにすると、前方から挟み込むように迫ってくる【北叟笑む滴る雨】が追加されるので、ジャンプで避けるか破魔系特技で対処しよう。
【見知らぬ削る雨】(N)
……対象に付与されている特殊ステータスを洗い流して無くす全範囲水魔法。
対象にはただ雨に濡れている感覚しかないため、注意していないと気づかない。
効果適用までは180秒。
【底あり沼】(H)
……対象の足元に小型の沼を発生させて移動不能にさせる。シミュレーションゲームで使われるとめんどい。ハリドの『地裂陣』はこれに近い。
【母なる水滴】(N)
……水一滴に質量を究極的に込めて打ち出す。超硬度の弾となる。雨が降っていると避けにくい。ドット絵だと1ドット。ハリドは風の力を使って、空気を切り裂く水滴の動きを察知して避けたんだと思う。多分。
【蒼き封印】(H)
……雪だるま・スノーキラーに施されていた絶対防御の封印の正体。
ダンジョンの謎解きで使われることはあっても、戦闘に使用されることは稀である。
バトルフィールドのどこかに封魔の斧が現れ、それを使って封印を解くまで、ウンディーネにダメージを与えることはできない。
【無機物鳴動】(H)
……武器全般移動魔法。所有権を持っていない無機物にも適用できる。適用されたら仮の所有権は自分のものになる。【蒼き封印】のカギである封魔の斧は、カギであるが故に、カギをかけた本人であるウンディーネに所有権を持たせることは許されないが、【無機物鳴動】はそれを上書きする。
所有権のはっきりしていない無機物の仮所有は、早い者勝ちで、その後は上書き魔法を最後に使った者に移る。最終的にそのアイテムの所有権は、戦闘の終了後に仮所有権を持っている者に移る。
【母なる水面】(H)
……波打つ水面のような壁を作り出し、魔法攻撃を跳ね返す。
【波動掌】で物理攻撃を、【母なる水面】で魔法攻撃を跳ね返す、○ーナンスのような戦い方をする。それを知っている今だから戦えるが、初見でこれをされたら英雄級じゃなければ凌げない。
【雨曝しの篝火】(H)
……炎属性の技を受けた時に返すカウンター技。炎属性の技の威力を減らす。
そんじょそこらの炎属性の攻撃ならば、ウンディーネはカウンター技をせずに受け流すが、ノーティスの『神々の創りし終焉』はウンディーネの命を刈り取るのに十分な炎だったため、使わざるを得なかった。この技は、マナを大量に消費し、水分をフィールドに充満させる。辺りに霧が立ち込めた。
小説書くより時間がかかったような……。
書いてて楽しいから良いんですけどね。
つづく!!