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俺たちのヤキニクリロード  作者: 虹峰 滲
6/8

ー第1章ー 「どうして肉が無いんだよ!!」(5)


ハリド ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。

ユジス ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。

ノーティス 大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。

 


 ー5ー


 ◆水統霊の鍾乳洞


 ピラデルピアの森の奥深くに位置する鍾乳洞。ハイウェスト山の雪解け水と思われている水源も実はこの鍾乳洞が源である。

 中はとても滑りやすく、人の足が踏み入ったことは今までに一度もなかった。

 その鍾乳洞の奥には、濃密なマナだけがあるわけではない。

 この世のことわりを読み解くのなら、足を運ぶといい。


 しかし、それは同時にこの世の終わりを意味するかもしれない。




 ーーーーーーーーーー


『グゥ〜〜〜〜』


 鍾乳洞のぬめぬめとした壁に反射して俺の腹の音が響き渡った。


 力が出ない。本当なら、今頃俺は熱々に焼けたジューシーな肉を頬張って、赤ワインを飲んでほろ酔いで伝説を語っていたんじゃないか。こんな肌寒くて滑りやすくて転んでノーティスに失笑されるような未来を俺は想像していなかった。


 魔物がいるわけではない。暗く、湿った空気の中、歩き続ける。


「宝箱とかなさそうだね」

「というか、人が踏み入った形跡が全く無いんだよな。宝箱協会の奴らが来てる感じはしないな」


 宝箱協会というのは、ダンジョンやフィールドの行き止まりに宝箱を置いて回っている協会のことだ。

 アイテム収集家(ジャンキー)の奴らは、宝箱のあるところならどんな危険なところも、無意味な行き止まりも歩いて行く。

 過疎化した村や、スポンサーのついたダンジョンへの冒険者を増やすために、協会員がその場所へのたどり着きにくさをレベルで評価し、そのレベルに応じたアイテムを宝箱に入れて置いておくのだ。たったそれだけで、ただの行き止まりが冒険者の集う道に生まれ変わる。

 それはスポンサーの潤沢な資金により更新される。イベントに発展することもある。


 しかし、この鍾乳洞はおそらく、王国発行の地図にも載っていないんじゃないかな。俺も知らなかった。

 ただし、この場所は前人未踏の地、というだけでは片付けられない何かを如実に俺に語りかけていた。このマナの濃度と静けさは嫌な予感がする。


 嵐の前の静けさって言うだろう?


 魔物という魔物に出会うこともなく、行き止まりについた。


 行き止まりには宝箱はなかったが、代わりに祭壇のようなものがあった。


 古代文字が書かれた石碑の前に、小さな小瓶が置いてある。


「ノーティス、何て書いてあるんだ?」


 古代文字は魔法文明に関わりがある、学術的に意味のある文字だ。それは、今の生活には直接的には関係しないが、魔術師や魔道書、魔法式に使われているのが古代文字である。当然、ノーティスは読める。


「みな…もの…小瓶、と書いてありますね。この瓶にどんな水でもいいので、入れるとそれは万能の薬になるそうです。すごいですね」


 ノーティスは〈みなものこびん〉を手に入れた!


 っておおおい!!!

 トラップかもしれないだろ!!


「大丈夫です。トラップではありませんが、これは一つのキーなんです」


「キー? カギ? なんのことだ?」


 小瓶を取ると、辺りがガタガタと揺れだした。鍾乳洞全体が振動している。

「な、なんだこれはーー」

 突然、俺達の足元に青い魔法陣が現れた。瞬間、どこかに強制ワープをさせられた。マナの感じがノーティスではない。ノーティス以外の誰かによるワープサークルだった。


 一体誰だ?


 冷えた空気の匂いと水の匂いがした。外に出たようだ。

 近くを川が流れているような音がする。地に足がついたと思えば、目の前には魔法生物がいた。


 人の形をしている。若い女性のようで、蒼く、それは流れる水のようだ。

 人の形をしている、ただそれだけで俺は警戒レベルをあげた。


 魔法生物は、普通は概念であり、何か固有の形をしていることは珍しい。揺らめく炎のような、流れる風のような、滑る水のような、崩れる土のような、不定形だ。先ほどの雪だるまのような形ある姿はレアケースだ。


 今目の前にいる魔法生物は、人の形をしている。それはどういうことか。

 人のように考えて、意思があり、実行力があり、征服力がある。それは、何かを統率する力を持つ証拠。


 滑る水ではなく、統べる水。


 少女のようなそれは、俺達に言葉を発した。


「やはり、来ましたか」


 やはり? 何のことだ?

 ノーティスが応えるように確認をした。

水統霊(すいとうれい)……、ウンディーネ」

「はぁ!? 水統霊ウンディーネだと!?」


 この世界にはマナの属性がある。それによって、魔法の属性が形式化されている。系統化されている。

 水、地、風、炎。四つの属性。そのマナを統べる精霊の長が大統霊。水属性の大統霊が水統霊だ。


 実は世界を救う時も、本当は大統霊と契約した方が良いと分かっていた。世界のマナを司る精霊を仲間に出来るならこれほど心強いものは無い。

 ただ、それをしなかった。


 しなくても、魔王を倒せると、ノーティスに説得されたからだった。大統霊と契約しなくても、充分魔王を打ち崩せる、と。

 また、マナの大統霊と契約すると、マナのパワーバランスが崩れるため、世界にとって良くない、とも言われた。一理あった。いくら世界を救うためとはいえ、世界の理を崩すのは俺達の本意でもなかった。

 俺達は己の鍛錬のみの努力で、魔王に挑んだのだった。


 だから、今ここで、魔王を倒した後に大統霊に会いに行くという、その理由が俺には分からなかった。

 ノーティス、一体お前は何を考えているんだ。


「ハリド、ユジス。詳しいことは後で話します。今日ここに来た本当の理由は、牛肉を狩るためじゃなくて、この水統霊と契約しに来たんです。協力してください」


「契約っつったって、世界のパワーバランスがどうのこうのって話はどうなったんだよ!」


「パワーバランス……あぁ、その話ですか」ノーティスはため息を漏らして、天を仰ぎながら答えた。「バランスをとる意味は今のこの世界では無いに等しいんです。むしろ、できるだけ使える手は全て持っておきたいというのが本心です」


「???」


 どういうことだ?

 今この世界では一体何が起きている!?


「わかったよ、ノーティス」

 ユジスが頷いた。「わからないってことがわかったよ。ちゃんと詳しくあなたの話を聞いてからじゃないと、私は協力できない。……でも」


 凍りつくような殺意のマナが辺りを充満し始めた。

 ウンディーネの近くに張り詰めた、緊張の糸がキリキリと辺りを締め付けている。


「悠長にお喋りなんてしている暇はなさそだけどね」


「その通り、だ」


 水統霊が言葉を発した。それは少女のような老婆のような、音のような雑音のような、それでいて耳に脳に直接響いた。有無を言わさぬ水の言葉ってか。

 アニメ化した際には難儀しそうな声だと思った。


「どんなに清らかな水も、いつかは濁る」


 誰に話すでもなく、水統霊はそう切り出した。

 大統霊と会話をしているだなんて、おかしな話だ。これが空腹の幻だと言われた方が納得できる。水自身と会話をしているようなものだからだ。

 水の、意思と。


「あなたたちもきっと、同じ道をたどる。どんなに言い張っても、所詮は濁った魂。私たちは助言をしてあげているのです。濁った水を入れ替えるように、魂を入れ替えてはいかがでしょうか、と」


「魂の、入れ替えて……だと? それは死ねって言っているのか!?」

「あなたたちのような短い命を持ってして、それは一時的な死を意味するのでしょうね。しかしそれは、この広大な世界の中ではほんの一瞬で、その一瞬は永劫の価値を生み出します」


「話が読めないな。お前たち大統霊が俺たちを殺すのか?」

「あなたたちが何もしなければ、運命を受け入れれば自然とそうなります。しかし、あなたたちはここに来た。運命を拒む。それが、あなたたちの出した答え、なのですね……」


 俺はここに牛肉を狩りに来た。世界を救うために来た訳では無い。しかし、ここでじゃあ帰りますと帰ってしまったら、世界は一体どうなってしまうのだろうか。


 もしかしたら、俺たちの預かり知らぬ間に、世界が滅んでしまうような。そんな呆気ない結末が待ち受けていてもおかしくないような気がした。


 乗りかかった船だ。チャンスは今しかない。

 なにか企んでいるノーティスに本当のことを聞き出すチャンスは、この水統霊を倒した後、契約した後しかないだろう。


 気付いたら世界が終わってた、なんてまっぴらごめんだ。

 ならばやることは一つ。決まっていた。


「正直、全く状況がわからないが、俺たちはこの世界で生き続ける! ウンディーネ、お前が立ち塞がるというのなら! 俺がお前に風穴を空けてやるよ!」


 ちなみに、「風穴を空けてやるよ!」は俺の決め台詞なので、今後要チェックでお願いしたい。


「私たちの意思が伝わらなくともこの際構わないでしょう。ここは私の庭です。『命の掟』、ご存知でしょう? 」


『命の掟』。高レベルのダンジョンの入口によく飾られている、太古の昔、精霊とその他の生き物との不介入を定めた掟だ。


『死ぬ覚悟なくして、生きる資格なし』


 死ぬ覚悟の無いものは、生きる資格無し。生きることは、他者を傷つけること。

 俺たちは、生きるために魔物を傷つけ、魔王を倒した。それは、マナの精霊たちからすれば、行き過ぎた正義だったのだろうか。

 死ぬ覚悟の無いものは、誰かを傷つけるべきではない。裏を返せば、誰かを傷つけたものは死ぬ覚悟があると見なす、とも訳せる。


 ウンディーネは俺たちに語りかける。


「あなたが救ったのは、一握りの弱者」

「あなたが葬ったのは、一握りの悪意」

「英雄が世界を救ったなんて、世界の何を見て言っているのか、私には理解できないのです」

「その程度の覚悟で、その程度の正義で、何かを救った気になって、何かを葬った気になって、全てを失う」


 水統霊が周囲のマナを集め、再構築している。

「そんなあなたの生温い覚悟、私が試してあげましょう。覚悟はよろしくて?」


 俺はそれに応えるために、仲間達に声をかけた。

「もちろん! 行くぜ! ハリユジノー!!」


「お、おう」ユジスが返事をする。

「あ、はい」ノーティスが欠伸をする。

「お前らもうちょっと緊張感をもって!!!」


 さて、水統霊。

 こいつは、魔王よりも、強いのだろうか。


 VS水統霊。

 バトル開始。



 つづく



挿絵(By みてみん)




《おまけ・読み飛ばし可》


【登場アイテム】

・みなものこびん(空)


水辺の近くで使用すると、水を入れた『みなものこびん(満)』になる。

消費アイテムとして使用すると、超使える回復薬になる。近くに水辺がないダンジョンでは特に使い道がないので、水をどこかで入れておく必要がある。

なお、フタはないので、持ち運びが大変。(ハリド談)


【登場団体】

・宝箱協会

スポンサーからお金を得て、世界のありとあゆる場所へ宝箱とアイテムを設置する団体。

魔王城にも命をかけて設置する。

危険なダンジョンを冒険するか、危険なダンジョンに宝箱を設置するか、どちらが大変かどうかは数学界で挑戦されている懸賞問題の一つ。


・水統霊ウンディーネ


後述の予定。


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