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俺たちのヤキニクリロード  作者: 虹峰 滲
5/8

ー第1章ー 「どうして肉が無いんだよ!!」(4)

ハリド ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。

ユジス ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。

ノーティス 大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。

 ー4ー


 ◆牛


 哺乳綱ほにゅうこう鯨偶蹄目くじらぐうていもくウシ科ウシ亜科の動物。

 肉は美味しいし乳も美味しい。毛皮もなかなか。牛なのに馬力もある。

 人間の生活に欠かせない動物だが、こと命のやり取りをするに当たっては危険な動物と言うほかない。

 もし怒り狂った牛を目の前にしたら、逃げるか木に登って様子を見ること。


 ただし、怒り狂っていたとしても、

 腹を空かせた英雄たちから見れば、ただの肉塊に過ぎない。



 ーーーーーーーーーー


「ンモオオオオオオオオオオ!!!!」


 気付いた時には遅かった。牛の頭突きが腰に激突した。角が背骨を突く、ゴリっとした感触が伝わってくる。

 俺はそのまま牛の突撃エネルギーを一身に受け、数十メートル吹っ飛ぶこととなった。


 ダメージはほぼない。というのは、ノーティスの特殊防御魔法『インセンシティブ』が発動していたからだ。


『インセンシティブ』はダメージがない代わりに、肌の感触、音の聞こえ、視覚、嗅覚などが鋭敏になり、痛みは無いものの、その攻撃の感触がもろに伝わる。

 痛みは無いのに感触があることの気持ち悪さ、不快さはハンパない。「え、これ大丈夫なの? 俺死んでる?」と錯覚することうけあいだ。

 防御魔法でありながら、対象を不安にさせるという、ノーティスの性格が歪んでいることの証左となる魔法の一つだ。


 物理的エネルギーも相殺されないので、牛の攻撃力そのまま身体は吹っ飛ぶのだが、無傷。木々を薙ぎ倒しながら無様に転がっても無傷。大地を肌で感じながら、俺は立ち上がる。


「助かったんだか助かってないんだか…」

「ハリド! また来るよ!」ユジスが叫ぶ。

 彼女は先ほどのサイとのバトルでマナを一挙解放したので、少し休憩が必要だろう。ここは俺が仕留め…


「『時を止める凍楔(アンデッドコフィン)』!!!」


 ノーティスの透き通るようなイケメンボイスが響き渡り、その場で牛が凍りついた。まるで氷漬けにされたマンモスのように、その場で動かなくなってしまった。


 冷凍属性上級魔法だ。突然氷漬けになったように見えるが、実は凍える吐息を対象に吸わせ、身体の中から凍らせている。遺体の損傷が少なく済むので、狩りの時にはとても助かる。ただまぁ、狩り目的にこいつ級の魔法使いを雇うのなら、マンモス一頭では全然予算が足りない。サイに最大出力の攻撃をしたユジスもそうだが、ノーティスもある意味、牛一頭に使うには勿体無いレベルの魔法を使用した。


「血を流させるとそこから酸化していき、新鮮で美味しいお肉が腐っていきますからね。こうして凍らせるのが一番いいでしょう。あれ? ハリドさんって、何かしましたっけ?」

 したよ!

 牛の攻撃で数十メートル吹っ飛んだよ!!

 無傷だから、無かったことにされるらしかった。もういいよ。慣れてるし。

 結局サイの時も槍技やってねぇしな。倒したのユジスだし。


 ノーティスが凍らせた牛をワープサークルで会場へ運んだ。(座標指定のスムーズな方)


 森に着いてからものの30分くらいか。ものすごく長く感じたが、これでようやく肉にありつける。

 それに、自分たちで獲ったからだろうか。食べる前からもう美味しそうだ。ヨダレが自然と溢れ出てくる。


「ほら、ノーティス。早く会場に連れてけ。焼肉パーティーを再開するぞ」


「あれ? あれ、なんでしょうか。みなさん」


 ノーティスが森の奥を指差す。連戦だったので気づかなかったが、冷たい風が頬を撫でた。奥の方から、濃密なマナが流れ出してきていた。

 森の奥をマナをたどって歩いて行くと、鍾乳洞があった。冷たい風はこちらから吹いてきているようだった。


「せっかく封印を解いてきたんですから、行き止まりまで行ってみませんか?」

「宝箱があるってか?」


 魔王を倒してからも、ノーティスは世界の旅を辞めなかった。表向きはアイテム収集のためとか言ってやがったが、実際はなんなんだろうな。

 こいつもこいつなりに、世界を救った英雄であり、魔術師学校に籍を置く伝説だ。何か意図があって旅を続けているのだろう。

 だとすれば、この森へ来たのも、ここに俺たち3人が集っているのにも、何か理由があるということだ。


 話してくれればいいんだがな。そうすれば、腹を空かせなかったのに。

 こいつもこいつで、素直じゃない。


「……ピラデルピアの森は、確かに以前からマナが豊富だが、俺が知らない間に高等な魔法生物が住み着いているようだ。サイゼリヤ王国に属する騎士の俺は、その魔法生物について調査する必要がある。ユジス。ノーティス。この鍾乳洞を調査するぞ」


「ハリド……、うん、そうだね。ちょっと、このマナの濃度はおかしい気がする。私もマナを吸収して力を放出する魔戦士ではあるけれど、このマナの感じ……、魔物ともまた違う、何か変な感じがするもの。せっかく3人揃ってるんだから、見てみたほうがいいと思う」


「仕方がありませんね」


「!?」


「みなさんがそこまで言うのならば仕方がありません。極上の肉は私が管理していますので、どうぞご心配なく。この鍾乳洞を攻略していきましょう」


 ノーティスから緊張の波が伝わってくる。ゆるりと歩み出すノーティスの背中を見やった。

 策士のノーティス。お前は何かを隠しているようだが、その緊張は当然、気を読む俺にも伝わってるぜ。

 この鍾乳洞の奥には何があるんだ。いや、何かがあるんだ。


 魔王を倒してもなお、この世界には何かがある。

 マナを読むまでもなく伝わってくる仲間の緊張を感じ取りながら、俺たち3人は、森の奥の鍾乳洞に足を踏み入れた。



 つづく。






《おまけ・読み飛ばし可》



【登場スキル】


・『インセンシティブ』(ノーティス)

……五感を鋭敏にしつつ、痛覚とダメージを無くす、意外にやばいレベルの防御魔法。弱点としては、痛み以外の感覚に訴える攻撃に弱い。くすぐり攻撃とか、フラッシュとか、ジャイ〇ンのリサイタルとかに弱い。



・『時を止める凍楔』(ノーティス)

……冷凍系上級魔法。対象の周りに薄い凍える空気を散りばめ、気づかれないうちに対象を身体の中から凍らせていく。気づいた時には時すでに遅し。主に漁業などで使われ、新鮮な魚を市場に出している。

冷凍属性の魔術師は、鮮魚の業界では引っ張りだこである。





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