ー第1章ー 「どうして肉が無いんだよ!!」(3)
ハリド ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。
ユジス ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。
ノーティス 大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。
ー3ー
◆サイ
奇蹄目サイ科に分類される構成種の総称。
重厚な鎧のような皮膚と圧倒されるような体重、攻撃的とも取れる角を持つ。多分、食べられない。
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森の広場には、1頭のサイが臨戦態勢にあった。
俺は腹の底から叫んだ。
『サイじゃん!!!』
牛じゃないじゃん!!
四足歩行と角が生えてるくらいしか共通項ないじゃん!
食べられない癖に強いとか最悪じゃん!!
魔王を倒した後にサイと戦うことになるなんて思ってもみなかった。
「普通のサイじゃありませんね。マナを皮膚に宿しているので魔法防御も高そうです。これは僕の力じゃ到底敵いそうもありません。お二人にお任せします」
ノーティスは言うが早いか、木の上にワープして退散した。
「いやいや! 槍だって通らねえよ! 武器より魔法で焼けば一発だろ!」
「それじゃ僕が面白くないですから」
「刺されてぇならその場から動くんじゃねぇぞ。……『騎雷弾』!!」
右手を銃のような形にして、指先から放たれた雷属性の小さな弾が、先程までノーティスがいた枝を穿つ。
英雄級まで行くと、攻撃範囲外の遠方には魔属性の武器を使う。テクニカルなことは俺は得意ではないが、陽動や呪文詠唱の邪魔など、使い道はいくらでもある。
招雷槍と騎雷弾の違いは、槍か弾かというのと、後者の方が速度が早い。俺はノーティスの命を確実に狙ったというわけだ。
「ちっ」
後方で草を踏む重々しい音がした。
振り向くと、サイがこちらに突進してくるところだった。
横に躱して距離を取る。
サイの周りのマナがサイに集まり、オーラを構成しつつあった。
「パワーを溜める系だな。攻撃力に振られれば避けられるけど、速さに振られたらこのまま避け続けられるかわからねぇな」
そして当たったらすげぇ吹っ飛ぶだろうなぁ……。
本当なら魔法使いが、パワーを溜める邪魔をしたり、罠属性の魔法で動きを止めてくれたりするんだろうけど、今こちら側に物わかりのいい魔法使いはいない。
なら、パワーにはパワーだ。
「ユジス、いけるか?」
「え、地面割ってもいいの?」
「サイだけにしてください」
きょとんとした顔で世界を壊すな。
しょうがないなぁ、とユジスは周囲からマナを集め始める。ユジスの美しい紅髪が、具現化されたマナの粉雪のような輝きと共に美しく揺らめく。
ユジスはこう見えてエルフと人間とのハーフなので、人間よりもマナの扱いは長けている。
……はずなのだが、彼女はマナの許容量がエルフの中でもずば抜けていたためか、マナの取り扱いが思うように行かず、大変苦労したようだった。
マナを構成、分解し、再構築する。一般的な魔法のような攻撃は彼女の得意とするところではない。
彼女の攻撃はわかりやすく、ゼロか、オールかである。
マナを集める待機モードか、集めたマナを全放出する究極の一撃か。
力加減が出来ない分、その力は計り知れない。
ということで、彼女の攻撃の準備が出来るまでは、俺がサイの相手をするしかない。
貫けない硬度の盾を相手にする気分だ。
しかしまぁ、水のような、形のないものを相手にする訳では無い。
どんな盾だって、穴は空く。
「お前は攻撃する盾かもしれねぇが、俺は仲間を守る槍だ」
ここから先へは、誰も通さねぇ。
重量のある物体が高速に動くと、そこには暴力的なまでの殺傷力が生まれる。
つまり、相手に動かせなければいい。
突進させなければ、そいつはただの愚鈍な的だ。
動かれる前にこちらから動く!
「地裂陣!」
指定の場所の地面を少しだけ割る、低級の範囲術。相手の注意を逸らすのと、サイの前足のグリップを減らす効果を期待。
また、突進までのやる気を削ぐ。思ったよりも地面を蹴れずにサイは二の足を踏んでいる。まだ突進してこない。
「ーーからの、オイルリキッドだ!」
油の入った水風船のようなアイテム。サイの角に当たって破裂した。ダメージはないだろうが、角から滴り落ちたオイルによって、滑りを良くする。地面をうまく蹴れないようだ。
そしてもう一つ利点がある。
それはもちろん。可燃性の油だから。
よく燃える。
後ろを振り返らなくても分かる。感じる。
マナの渦が、オーラとなり、今にも爆発するかの如き鳴動が、聞こえる。
「避けて! ハリド!」
俺は横に緊急回避をして、道を開ける。
ユジスとサイとの間に今は何もない。彼女の力の解放を邪魔するものは存在しない。
「解き放て!!『断罪紅蓮閃』!!!」
ユジスの持つ巨大で鋭利な斧が、大きく振りかぶって振り下ろされる。
重量がある物体が高速で動くと、凶器になる。
地を抉り大気を裂く。高熱かつ高速の刃。
オイルと切り裂かれた大気の摩擦熱との相乗効果で、爆炎が生まれ、爆風が森を駆け抜ける。
爆音。
音が鳴りやんだ時、ここら辺一体の酸素がなくなり、一時的に火が静まるが、ここは水を蓄えた森。酸素は十二分に存在する。
再び酸素がなだれ込み、ユジスの振り抜いた斧は威力を殺さないまま再び頂点へたどり着く。
第二撃。第二の爆撃。
調子のいい時やピンチの時はこれを何回か繰り返すのだが、相手はサイだ。ここらで潮時だろう。
山火事になっても困るので、『地裂陣』で延焼を防ぎつつ、サイの様子を見に行った。消し炭一歩手前と言ったところか。
「ゲホゲホ。さすがユジスゲホゲホゴホ。必要以上の火力ゴホゴホ」木の上でノーティスが咳き込んでいる。
それもそのはず。火炎が沈静化した今となっては、ここに新鮮な空気がない。濃く立ち昇る黒煙で視界が遮られている。
だからだろうか。音と視界が煙に巻かれて、気づくのが一瞬遅れてしまった。
俺たちの背後に迫る次の脅威を。
そいつは残念ながら、待ち遠しかった相手であり、角があって四足歩行だった。
幸運だった。
ただ一つ、気付いた時には既に相手に突進を許してしまったことを除いて。
つづく。
《おまけ・読み飛ばし可》
【アイテム】
・オイルリキッド
……水風船の中に可燃性の油が入ったアイテム。持ち運ぶ時は、油はプラスチックのような入れ物に入っていて、使う時にボタンを押して風船部分に注入して使う。今度機会があったら絵を描きます。
【スキル】
・騎雷弾(ハリド)
……ハリド作の技。ぶっちゃけ似たような技が沢山あるけど、気分で使い分けている。
・地烈陣(ハリド)
……ハリド作の技。今回はサイの足を止める目的と、延焼抑止のためにしか使わなかったが、本気を出せば地面を割るのはユジスじゃなくてこいつの方。
・断罪紅蓮閃(ユジス)
……斧属性爆撃技。可燃性の油を組み合わせて使うと効果絶大。少なくとも、周りに燃えやすい木々があるような所でぶっぱなしていい技じゃない。あまりに多く爆撃を繰り返すと、酸欠になって倒れるので程々が肝心。