ー第1章ー 「どうして肉が無いんだよ!!」(1)
ハリド ツッコミ担当。槍装備。焼肉大好き。風属性。
ユジス ボケ担当。斧装備。エルフ女子。格闘タイプ。
ノーティス 大ボケ担当。杖装備。ゲーム脳。黒幕。
ー第1章ー
『どうして肉が無いんだよ!!!』
俺は力の限り叫んだ。
やるせない切なさと行き場のない憤り。
その咆哮はこの世界の片隅にも届いたことだろう。
「すみません、玄関に忘れました」
「中学生かよ!!」
今日は年に一度の焼肉パーティー。
世界が平和になり、特にやることもない英雄たちは、昔の戦乱の世の話を肴に肉をつつくことを何よりもの楽しみにしていた。
まぁ、今回が第一回目なのだが。
「ノーティス! お前が肉の当番だったはずだぞ! 命に変えても肉だけは忘れるなときつく言ってあったはずだ!」
「申し訳ない。焼肉パーティー当日に肉がないことに気づいて絶望する君たちの顔がみたいだなんて全く思ってないから。ついつい、故意」
「わざとか!!」
「まあまあ」
今にもノーティスに風穴を空けそうな剣幕の俺をユジスが収める。
「ノーティスは後でぶつ切りにするとしてさ。実際問題ノーティスに大事な肉を担当させた私たちが悪いんだから、肉、どこかから調達してこようよ」
ユジスも憤慨しているようだったが、にこやかな笑顔を絶やさない。
俺たちはユジスの馬鹿力を嫌というほど知っている。世界最深のマスカルポネ海溝の溝を5km更新したのはこいつの拳だ。
有無を言わさぬ彼女の提案に、俺たちは無言で首肯した。
「なら、肉の調達先は僕に任せてください。最高級の霜降り牛が生息している地にワープサークルを用意してあるんです」
ノーティスが今思いついたかのように提案する。
てめぇは肉持って来ないのにワープサークルは用意してあるのか。
ここまでが計算なんじゃねぇだろうな。
肉の恨みはマスカルポネ海溝よりも深い。
「ならさっさと牛薙ぎ払って、ついでに私の技で軽く焼いて食べちゃおうよ。大丈夫、牛とあと1人くらいはこんがり上手に焼ける技術はあるから」
辺り一帯を焼け野原にした火力を持つユジスが軽く焼いたら、こんがり上手を通り越して消し炭になるからそれはなんとか阻止したいところだ。
あと1人くらいと言っているのは、ついでにノーティスも消し炭にしようと思っているのだろうか。
「細工は流流、仕上げをご覧じろと言いますし、まぁとりあえずは牛の住む森に行きましょうか」
ノーティスの周りのオーラが波を打ったのを感じた。
魔法を使わせたら世界一のノーティスだ。
並の魔物なら彼のオーラの波を、殺気を感じただけで体力が削られる。『薬なき毒』の異名を持つ。
「そこには最高級の肉がある、とだけ言っておきましょう。ピラデルピアの森へ」
俺達の周りに魔法陣が現れて、次の瞬間身体は宙を浮き、音速を超える速さでどこかへ吹っ飛んだ。
ーーーーーーードン!!!
音速の壁を越えたので衝撃波が起きた。
ノーティスはドSだ。
ワープサークルは本来転送魔法であり、座標を合わせてスムーズな移動を意図する魔法である。
しかし魔法を使わせたら随一なノーティスは、古来から研ぎ澄まされ洗練されている魔法に、勝手に手を加えて拷問魔法を開発している。
ワープサークルとは名ばかりに、物理的に身体を上空に持ち上げ、目的地まで強制的に高空を飛び回らせた後に高速で地に落とす物理的な攻撃魔法となっている。
英雄クラスじゃないと死んでいる。
俺は波動技を受け身に使って無傷で着地すると、自分だけ優雅に転送を完了させたノーティスにづかづかと近寄り胸ぐらを掴んで地面に薙ぎ倒して槍で串刺しにした。
まぁ、魔法盾でガードされたが。
「てめぇ! 分かっていたから良かったものの、肉を食う前に殺そうとするなよ!!」
「うーん、さすがに英雄級を殺すのはこの高さじゃ……、……!」
上空から殺気を感じ、俺らは緊急回避行動をとった。
一瞬の間をあけて、上から斧の斬撃というか、空気の刃が降ってきた。
そしてその一瞬あとにユジスの鎧の重量の圧力が落ちてくる。地面にいたら圧死だ。
「ノーティス、相手を攻撃する時はね、自分が攻撃されるかもって考えないと死ぬからね。一応最後に教えておいてあげる」身体についた土埃を払ってユジスが言った。
殺伐としていた。
これから殺し合いを始めます、と言われても何らおかしくはない。
あれ? これ同窓会だよね?
焼肉パーティーだよね? 肉ないけど。
「ご忠告どうも。では行きましょうか」
ノーティスは森の奥へとスタスタと歩いていってしまう。
俺たちは肉を渇望していた。
最高級の肉があるという言葉のみが俺たちをつき動かしていたと言っても過言ではない。
俺たちはノーティスの後を追い、森の奥へと歩いていった。
つづく。
【登場アイテム】
・生肉……そんなものはなかった
【登場装備】
・魔法盾(使用者: ノーティス)
……ノーティスが右腕に装備している片手盾。魔術師が最低限、己の身を守るために装備している軽い盾である。この魔法盾(正式名称はいつかそのうち)には何重にも魔法式が記述されており、見た目以上の強度を誇る。非力なノーティスには、軽くて強度の高い魔法盾は冒険に必需品であると言える。
【登場スキル】
・ワープサークル(使用者: ノーティス)
……移動魔法。移動する座標を設定すると、自動的にその対象をその座標までストレスレスに送り届けてくれる。一方、ノーティスが英雄たちに使用したのは同じ名前の違う効果の魔法である。同じフォームで違う球種を投げるピッチャーの如き技術で仲間を天空から奈落へ落とす鬼畜の極みだが、それを補って余りあるほどのイケメンなので、ファンクラブの人たちはそれすらも褒め称える。ハリドはそれをまだ信じられない。
・波動技(使用者: ハリド)
……技名は定かではないが、ハリドは「気」とか「波動」とかを使用するスキルを多く持つ。力を受け流したり、跳ね返す槍の技を持ち、ノーティスの無茶苦茶な攻撃もなんとかかわしている。
・空気の刃(使用者: ユジス)
……技名は定かではないが、おそらく斧の攻撃。ユジスの斧の攻撃は、斧自体の攻撃だけではなく、周囲の空気を刃に変え、周囲の空気を灼熱に変える。怒らせたらダメ、ゼッタイ。なので、ノーティスも空気を読んでギリギリを楽しんでいる。