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能力者たちの闘争  作者: METRO
真空結晶
8/8

対決、乙夜鳳花。

 寿羽たちは本アジトの前に積まれていた材木の影に隠れ、入口の見張りの様子をうかがっていた。


 入口の正面には、腰に刀を差した相撲取りのような巨体の男が立っている。


「そこにいるのは誰だ!」


 男がこちらをバッと振り向き、刀を振りぬいて投げつけた。その刀が材木に突き刺さる。


「誰であろうと、この扉を通ろうとする者に容赦はしない。冥府の門に送り届けてやる」


 寿羽は、材木を飛び越え、男の正面に飛び出した。そして握りしめた拳を白銀色に染めながら、静かに男の正面を進んだ。


「……サードナッツに比べればこの程度!」


 中国武道風に構え、ゆっくりと腰を据える。気を落ち着かせ、呼吸を整えた。


「グォ……」

 深く落とした腰を切り返し、螺旋回転を加えた正拳突きを男の顔面の中心に叩きこんだ。


「まだだ!」


 よろめいた男の腹部に一瞬で二撃、叩きこむ。

 男は壁に激突し――首をガクリと落として動かなくなる。


「乙夜鳳花は、この先よ」

「……うん」


  寿羽と咲葵は高い階段を駆け上がると、扉を勢いよく開け放った。


  扉の先は広間になっていた。高い天井に正面には巨大なステンドグラス、その両脇にはガーゴイル像が鎮座していた。


 そのステンドグラスの前に男がこちらに背を向けて直立している。


「乙夜鳳花!」

「フフ、ずいぶん早かったじゃあないか」


 乙夜が静かにこちらを振り返った。くたびれたスーツに黒い頭巾。こちらを見下すような目つき。――そして失った左腕。


「今度こそ聞かせてもらうよ! 私のお姉ちゃんと八鹿ちゃんのお父さんを殺した理由!」


「なら喋らせてみな! 徳仲寿羽!」


 乙夜が寿羽に向かって駆けだした。その足は空気を滑り、高速で寿羽のもとへ近づく。


 拳がぶつかり合う衝撃が、周りの空気を揺らす。


 二人は即座に間合いを取り、後方に飛び退く。飛び退きながら乙夜の手から発射された空気弾が寿羽に迫り、直撃するが、吹っ飛ばされた壁に足をつき、体制を整える。依然、空気弾を撃ち続ける乙夜。細かい空気弾を無数に撃ちだし、弾幕を張る気だった。


 寿羽は空気弾を避け続け、乙夜との距離を詰める。そして――乙夜の下腹部に勢いそのままタックルで突っ込んだ。そして上に飛び上がって顔面に頭突きをくらわすと、乙夜が一歩後ろに下がる。


「いけるッ!」


 寿羽が右手を脇の下まで引いた。両足に力を入れ、前に飛び出す。


 乙夜の顎にアッパーが入り、右すねを払って腕を抱えると、その場に乙夜の身体を叩きつけた。


「このクソガキ……」


 跳ね起きた乙夜は後方三メートル、ガーゴイル像の位置まで下がった。寿羽は今一度、構えなおし、呼吸を整える。


 瞬間、寿羽を睨みつけた乙夜は、再び空気弾を放って攻撃する。


 寿羽は空気弾を難なく避け、乙夜に迫る。拳を振りかぶった寿羽が脳天に狙いを定めた時――白銀の腕を頭上にあげた。


 寿羽の頭上に、根元が折れたガーゴイル像が倒れてきたのだ。乙夜が放った空気弾がガーゴイル像の台座を吹き飛ばしたのである。


「こ、のッ……!」


 その重量で、腕が鈍い音を立ててへこむ。少しでも気を抜けば押しつぶされてしまいそうだ。


「フフフ……この感覚! これが勝者の優越ってやつだぜ! この優越があるからこそ、勝利を実感できるってやつだぜ!」

「乙夜鳳花! こっちを見なさい!」

「ハッ――」


 乙夜が視線を横にずらした。反射的に顔の前に腕を上げ、咲葵の飛び蹴りを防ぐが、壁際まで弾き飛ばされる。


「寿羽! 動いて! とりあえずそこから逃げるのよ!」


 咲葵は攻撃の手を止めない。その内に、寿羽はガーゴイル像の下から抜け出す。


 乙夜の一撃が、咲葵の鳩尾を突く。口から少量ながら血を吐き、床の上を転がる。


「ふ、フフフ、あっははははははははは!」


  突如、乙夜は身体を大きく反らして笑いだした。その高笑いが室内に響く。

  寿羽は突然の行動に、何かを警戒して一歩後ずさる。


「――オーケー、気が変わった。貴様の姉を殺した理由。話そう、全て」


「それはありがたいね。ていうか、八鹿ちゃんのお父さんの理由も聞きたいんだけど」


  乙夜が寿羽との距離を瞬時に詰める。その時すでに右腕は振り上げられていて、彼はそれを真っ直ぐに振り下ろした。しかし寿羽は拳を手のひらに受け止め、体幹をへとずらすことで、拳を横に受け流した。


「もう何年も前のことだ。俺の一族は研究員やってるやつが多くてよ、本家の俺もそうだった」


  乙夜はそれをどこか懐かしそうな顔で言っていた。


「一族には……昔から仲が悪い連中がいてな。これがラテ一族って奴らだったんだ」


  だんだん顔が険しくなってくる。

「ある日、奴らは俺の親父を殺した。現場を見たわけじゃないし、警察も研究中の事故として処理したが……俺にはわかる。殺したのは奴らだ。俺はそう確信した」


  いつ爆発するか分からない吸血姉妹に仕える身としては、曖昧に答えることしか出来なかった。


「それから俺は、ラテ一族を恨み続けた。明くる日も明くる日も、ずっとだ。そしてあの事故が起こった。その事故で、ラテ三姉妹の長女が昏睡状態に陥ったことも知った。俺は天罰だと思った。俺の親父を殺した天罰だと。このまま長女は時期に死ぬだろう。そう思った。だが違った。あの姉妹は姉を助ける方法を探して、見つけやがったんだ。魂を入れ替えることが出来る能力者を――」


「その能力者って……」


「そうだ、お前の姉だ。俺はそれを何としても阻止したかった。だから殺した」


「……」


  乙夜が話終わると同時に、寿羽は拳を叩き込んだ。傷痕から血が吹きでた。さらにもう一発。次々と、寿羽は拳を突き出す。


  殴るたびに、寿羽の目には涙が溢れてきた。攻撃の手はまだ止まらない。いや、どんどん加速している。


  乙夜は自分がもう助からないという確信があった。だから抵抗せずに拳を受けた。両腕の骨はとっくに粉砕され、身体中の骨が砕ける感覚だ。出血が多すぎて、意識が朦朧としてくる。もう、何も考えられなくなった。


  やがて、攻撃の手が止まった。辛うじて意識は失わなかったようだ。寿羽は乙夜を見下ろしていた。


  乙夜は、最後の力を振り絞ると、背面にあった窓から身を投げた。寿羽が慌てて手を伸ばすが、もう間に合わない。心地よい重力を受けて、乙夜の身体は落下した。それは一瞬の出来事で、乙夜は微笑みを浮かべたかと思うと、やがて黒洞々たる闇の中へ沈むように消えていった。

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