記憶
「八鹿ちゃん……強い……!」
二枚の円盤を操る八鹿を見て、寿羽は呟いた。
「慣れですよ、慣れ」
八鹿は円盤を数回縦回転させて両手に戻すと、重ねるようにして背負った。
「それで、乙夜鳳花はどこへ?」
「多分本アジトかと。情報によると、この先南南東に直進した地点にアジトがあるそうです」
「さすが、咲葵ちゃん。頼りになるね――」
「――ッ! 寿羽さん! 今すぐ壁から離れてください!」
八鹿が寿羽の胸ぐらを掴み、勢いよく壁とは逆の方向に引っ張る。
「俺を忘れるなァァ!」
壁面が粉々に砕ける。壁の穴から大木のようなイカの腕を生やした筋肉質の男――サードナッツが出現した。
そして、サードナッツは大きく触手を振り上げると――。
「何て……パワー……」
床に大穴を開けたのだった。
サードナッツが触手を振り回すと、周りの壁がどんどん崩壊していく。その状況に、八鹿と寿羽は逃げ惑う以外の術がなかった。
攻撃が止むと、サードナッツはこちらを見据えた。目は鷲のように鋭く、皮膚や触手はマネキンのように白い。剃りあげたスキンヘッドにロープが巻かれた錨と舵の刺青。虎のような歯はガタガタで、その上をナメクジのような舌が滑っていた。腕はボディービルダーのように筋肉質で、血液の流動が浮きでて見えた。その背後に何か、別の生き物のごとく動きまわる触手が、とても気持ち悪い。
その奇怪さを醸し出すサードナッツが動いた。
「このッ……!」
寿羽はコンクリートの腕で突撃した。腕と触手がぶつかる。サードナッツが回転しつつ放ったもう一撃をもう一方の腕で受け止めると、衝撃でコンクリートの腕にひびが入った。
サードナッツはザックハードよりもスピードに関してはずっと遅いが、その分太い腕による範囲攻撃と爆発的な威力で寿羽を圧倒する。つまり、攻撃範囲が広いため、避けきれなかった攻撃は防御するしかない。しかし防御をすればするほど腕の耐久値はどんどん低くなっていく。
「寿羽さん! だめです! それ以上やったら腕が修復不可能になります!」
八鹿の警告により、一旦寿羽はサードナッツから離れて八鹿の横に戻る。それと同時にサードナッツも触手の動きを止める。
八鹿が円盤を投げた。円盤はただ真っ直ぐに触手へ向かっている。
円盤が、触手へと到達し回転が表面を削ろうとした――だが。
――ガチン。
サードナッツの触手は、八鹿の円盤を叩き落とした。叩き落とされた円盤が床に転がる。
「そんな……」
サードナッツの触手が、寿羽の腹部を捉える。
嵐のような連打を受け、寿羽は壁に激突する。コンクリートの腕は元の腕に戻り、攻撃を受けるたびに苦しそうにうめく。
――その時、八鹿の脳裏にある記憶が蘇った。