スラムの少女
もう時期初夏になろうかと、いうほどの暑さの直射日光がマイスターツ領の領主館の中庭にいる五人を照りつける。
ひとりは、初老の老人だがその肉体は鍛えられていることが人目でもわかるほどである。
その老人に対して相対するように立つ人影が二つ。
ひとつは、百五十センチくらいのオレンジ色をさらに濃くしたような燃える炎を彷彿させる髪をもち中性的な容姿をもつ人物が木の練習用の剣を片手に構える。
服装は、騎士団の訓練兵などがよく着る動きやすそうなシャツとズボンと胸元でサラシを巻いているだけである。
そして、もうひとりは百四十センチ程の栗色の髪を持つ一人の少年。
容姿は、目つきは鋭くもあるがその瞳は彼の優しさを表している。
十歳とは思えない程身体付きは引き締まっている。
この世界で貴族にしてはしっかり鍛錬をしていることがわかる身体である。
服装は同じようなシャツとズボンであり、もちろんサラシは巻いていない。右手に同じような木製の剣をもっている。見る人が見ればその構えだけで相当な訓練を積んでいるのだとわかる構えをとっている。
そして、その三人から少し離れたところに商人と思わせる服装の少年とメイドがひとり。
商人の彼は日陰で椅子に座り紅茶を飲み三人を見守る。百五十五センチ超えるか超えないか程度の美少女と言える水色のロングヘアーを持つ少女は、今年で十七歳を迎え女性らしい体型になり出るところはでていながらもスタイルはとても整っている身体をメイド服で包む。
そんな彼女は自分の主が怪我をしたらすぐにでも駆け寄れるように控えている。
老人は「さあ、かかってきなされ」と生徒の二人に向けて構えをとった。
少年は剣を上段に構え切りかかる。そして老人が受け止める………そこに追撃をかけるように切り上げる、老人が少し後退した隙をつくように追撃を仕掛け……………………
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爺との訓練が終わった俺は、ティルが次に爺との訓練に入ったのを見届けてセアと俺のもうひとりの友達のラタクの元へと戻る。
「若様、汗ふきを…」 とセアが汗ふき用のタオルを渡してくる。
ああ、ありがとう と返しタオルを受け取る。
「全くもって理解できませんね、何故ウィル様はあのような奴を気に入るのか…」と、理解に苦しむと言った感じに俺のもうひとりの友達ラタクは呟いた。
「そう言ってやるな友達…だろ?」苦笑を浮かべながら同意を求めるようにラタクに投げかける。
「…わかってますよ…なにせ我々は兄弟なのですから…」
そう、俺達は兄弟の契を交わしたなかである。
確か俺が八歳くらいの時、既にふたりとは知り合っており友達になっていた。
そんなある日、ティルが酒瓶と杯をもって俺達の秘密基地にやってきて『兄弟の契を交わすぞ!』なんていうものだから最初は、ラタクはそこまで乗り気ではなかったし別にやらなくても友達友達だ、と思っていた。
しかし、ティルはそんなのお構い無しに無理やり進めていった。
まあ、その後酒と杯が見つかり怒られたのはいい思い出だ。
それ以来、俺達は兄弟としてまた、親友としていろいろなことをした。子供らしい遊びやラタクと商人の真似事とかほんとにいろいろなことをした。
だから学園に行くのも三人でだ。
そのためには、ティルには護衛としての基礎を早く覚えて欲しい。
「ティルは大丈夫…でしょうかね?」
ラタクは、先程までの態度とは違く兄弟としてティルに対して、心配しているようだった。
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ティルは二人の兄弟に対して秘密を持っていた。
一人の方はきずいてるのかも知れない、しかし何も言わないのだから気にしてはいなかった。
ティルは、よくその態度や行動から男と間違えられているがこれでもれっきとした女である。今はまだ外見ではあまりわかることはないが、あと数年もすれば女性らしい身体付きになることだろう。
…例え同年代のスラムの友達は既にその兆しが出ていたとしても。ティルはサラシさえ巻いていれば問題はなく隠せていた。
言動も男よりだし、何より常にフードを着ているのだから知っているものは少ない。
何故、女であることを隠すのかはティルのみが知る。それは彼女が語ろうとしないということもある。
彼女は動揺していた。唐突に現れた兄弟の一人の貴族の一人息子の発言に。
「ティル、俺の護衛にならないか?」
貴族の者が気に入った者を護衛や次女として抱えるのはよくある話である。故にティルも動揺していた、親友であり兄弟の彼がまさか自分の秘密にきずいたのではないかと、しかしそれと同時に嬉しく思っている自分にもティルはきずいていた。
貴族に抱えるというのは、それだけで大抵幸せになれる。子供ができればなおよく、その子供が家臣として仕えさせるもよし、いろいろと可能性はある。
なのでティルが勘違いしてしまってもおかしくはなかった。
「………ほれほれ、どうした稽古中に考え事とは随分と余裕じゃの」爺とかいう私の先生は私が集中できてないことを把握してるのか、まだまだじゃのぅ、などと言いながら打ちかかってくる。
「…くっ…!」
バックステップで距離を取る、しかし爺は、一気に詰め寄る。
「……これは訓練じゃからいいが本物じゃったら死んどるぞお前」爺は私の首すじに木の練習用の剣を当てて、それまでの好々爺と言った雰囲気ではなく、歴戦の猛者と言った雰囲気で言った。
全くその通りだと思うし、考え事をしていた私がいけないと、わかってはいた。
しかし、それ程に考える必要のあるものなのだ私からしたら。いや、ただしくは考える程、私に影響を及ぼしているのだろう。
いつかはこの秘密も言わなくてはならない。
しかし、それはまだ猶予がある。ゆっくりでいいゆっくりとでもしっかりと受け止めて欲しい。
私は女だ、しかし二人の兄でもある。
いつか、この秘密を打ち明ける時、私は一体どうなるのだろう……
いつの間にか始まっていた、爺との打ち合いのなか爺の一撃を正面から受けた私はその後意識を失った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
毎回毎回早く更新するとか言ってますが、ほんとに遅くて申し訳ありません。
物語の方は、大分進み次かその次には学園にウィルくん達も行くことでしょう。
それでは次回もお楽しみに!