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同僚のつぶやき

「なあ、ブラックデーって知ってる?」


 同僚が声をかけてきた。見た目結構イケメンなんだが、性格的に暗いのがあってかどうも女性との浮いた話は聞いたことがない。もっとも、俺の場合は容姿も手伝って女性が近寄ってくることもない。

「お、それどこかで聞いたことあるある。確か、韓国かどこかの国でやっているやつだ。バレンタインデーにチョコもらえない同士が慰め合うってやつだろ。」

「そうそう、それそれ。正直言って寂しい話。もっともバレンタインデーに縁がないということで言えば私たちも大して変わらないじゃん。人のこと言えたものでもないんだよね。」

「まあ確かにそうやけど、俺も場合も今も昔も女性と話することがほとんどないしな。」

「私の場合は会うことすらなかったんだ。なにせ男子校だったから。」

「くっっくっ。。。そう、、、そうやった。お前は男子校やったな。そして今の職場か。それにしても、なんでこの研究所は男ばっかりなんだ。知ってたら勤めなかったぞ。」

悲しい男同士の話ではあるが、悲しい話を悲しくしても仕方がない。できる限り陽気に口にする。


「正直、以前からこの世界の不合理が気になって仕方がなかったんだ。」

「まあ、確かに不合理と言えば不合理やわな。世の中にはカップルが溢れているというのに、俺たちはここでこんな話しているし、過去の甘酸っぱい思い出すら語れないんやから。せめて、思い出くらいは欲しいわ!」

「だから、私はこの歪みを正すための薬品をこっそり開発してきたんだ。」

「えっ??」俺はたわいもない冗談を話していると思っていただけに、その言葉に思わず反応してしまう。

「開発って、、、お前、、、ひょっとして惚れ薬でも。。。」

 媚薬なんてものはいろいろとあるだろうが、それを使うには女性に近づくという機会がなければならない。その近づくことすら縁遠い俺たちとしては、近づくこと、、いや近づいてもらえる惚れ薬でもあるとすれば、卑怯だと言われようが何であろうが嬉しくないはずもない。


「いや、惚れ薬なんて作れるはずもない。」

俺の希望は、同僚の明確な言葉であっさりと打ち破られた。

「仮に惚れ薬ができても、誰にでも惚れるならともかく特定の誰かに惚れるなんて指向性を持たせるのは無理。単に欲情させるだけなら、それは惚れ薬じゃないし。」

「そ、、、そうだな。」思わず苦笑いしながら応える。

「そんな甘いことを考えたらあかんわな、、いやぁ、取り乱して申し訳ない。」


「気にしなくていいよ。惚れ薬ではないけど、世の中の歪みを正すことは別の方法でもできる。」

「おいおい、全部冗談じゃなくてなんか作ったんか?」

「うん、結構強力な効果がある。」

「え!?で、お前は一体何を作ったんや?」

急に気になる。ひょっとして、かなりやばい薬を作ったんじゃないだろうなと思い、今度は心配になってきた。

「実は、その薬の味はカカオと非常に似ているんだ。」

「いや味は良いから、どんな効果がある薬なんだ、、、って、自分でも試したのか?」

同僚は、にやっと笑う。

おいおい、まさか女性には振り向かれないから男性に。。。??

とんでも無い想像をしてしまい、俺は同僚の視線が気にかかる。

同僚は俺の想像に気づいたのか気づいてないのか、そのまま続ける。

「ああ、試したよ。見事な効果だった。これほどの効果があるとはさすがに思わなかった。」

「やばい薬じゃないやろうな。」

俺は慌てて確かめる。

「おそらく問題はないさ。少なくとも現在の法律に規制されるようなものではないし、そもそも誰も知らなければわかりもしない。」

「あまりもったいぶるな。どんな薬なんだ、教えろよ。」


「実は、この薬は臭覚を非常に敏感にするんだ。特に、特定の匂いに極度に反応する。」

「うん?じゃあ、その他には影響がないんだな。身体に変調をきたすとか。」

「まあ時間が経てばあるかもしれないけど、少なくとも今は何もない。いや、むしろ私にとっては今薬が効いている状態が最高だとさえ思ってる。私の場合にはほとんど何も変わっていないんだから。」

「変わってない?それじゃ、何も効果がないということじゃないのか?」

「そんなことはないよ。きちんと効果が出始めているはず。」


「おい、、どんな効果が出るんだ、具体的に教えろや。」

「うん、話そう。実はこの薬は男性にのみ作用する。」

「でも、お前には効果がないんだろ?どういう意味だ。」

「効果はあるんだよ。でも私には効果が出ない。」

「もっとはっきり教えろって!」

「この薬は女性の体臭や化粧臭に対して敏感にさせるんだ。だから女性のいない職場にいる私には何の効果もない。」

「敏感にって、、実際にどうなるんだ。」

「敏感になって、、、無理すれば大丈夫だけど普通ではたぶん我慢できなくなる。」

「えっ?」

「そして私はこの薬をこの前、大手チョコレート工場の材料に大量に混ぜておいた。味はほとんど違わないので絶対にわからない。」

「おいおい、だとするとバレンタインデーにチョコをもらった男性達は。。。」

「そう、間違いなく女性嫌いになる。」

「なんてこった。で、効果はどのくらい続くんだ?」

「人によって違うだろうけど、半年くらいは続くかも。この薬強力だから。」

「ってことは、一時的には混乱しても元には戻るんだな。」


 同僚は再びにやっと笑う。

「確かに、時間が経てば効果は切れるよ。間違いなく。そして、何の身体的障害も残らない。」

「しかし、いたずらにしては度が過ぎるぞ。まあ、誰にもわからなければ一時的な混乱で終わるだろうがな。冷や汗かいたわ。」

「そうなんだけどね。でも、薬が効いていたときに嗅いだ匂いの記憶まで完全に消せる訳じゃない。」

「えっ?」

「だから、そのせいで女性に対するトラウマがどの程度残るか。。。」

「ということは、、、」

「これで、世の中の不合理は正されるって訳。女性から好まれる男性は女性嫌いに、だとすれば女性はどっちを向く?」


「俺たちの時代か。。。そして、モてる男達はブラックデーを喜ぶって訳だ。」

「ところで、薬を試したお前はどうなるんだ?」

同僚はにやっと笑った。

「そう、私の時代よ。女性達がイケメンを私の下に送り込むことになるの。そしてそのイケメン達は私がいただくわ。これからは素晴らしいバレンタインになりそう。」

「えっ!?」

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