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その2-2 『すでに用意された答え』と『本当の答え』です

 一瞬……ほんの一刹那だけ、少女は硬直する。

 ……最初にする質問がそれなのか?

 目的。

 それがあること前提の質問。

 ナイフが当てられたままの首筋。

 そこから伝わる冷ややかな感覚が全身を襲う。

 不自然さを表に出しては駄目だ。

 安心しろ、と少女は自身に言い聞かせる。

 それも『すでに用意された答え』だ。

 目的……それは……。

「あ、『悪人』の、退治です」

「ふぅん」

 聞いてきたわりには、特に興味の無さそうな反応だ。

 そんな剣の男子に対し、背中の上に乗っかったままのナイフ女子はそこで、クスリと少しだけ笑った。

 べつに面白いことを言ったつもりも無いのだが……。

『悪人』の退治。

 少女の答えは、嘘ではない。

 ただし、本当のことは言っていない。

 まだ、彼らには、『本当の答え』を言うべき段階ではない。『すでに用意された答え』ではなく、『本当の答え』……。

 いや、その『本当の答え』は、最後まで伝えることなく終わるかもしれないが……。

「んじゃ、次の質問」

 と、再び剣の男子は口を開ける。

 最初の質問には驚かされたものの、さすがに次はまともな質問が来るだろう……と思った少女だったが。

「風呂に入りたいんだけどさ、この近くに無い?」

 お風呂!

 何言ってんだこの人は、と少女は驚愕する。

「おー、いいっすね加賀先輩! 私もお風呂入りたかったっす! あの目玉一つ野郎の血でベットベトっすから! あとご飯も食べたいっす!」

「確かに腹も減ったな。ご飯も食べられる場所ある?」

 ご飯!

 なんというか、少女の常識を、遥かに凌駕していた。

 想定と違いすぎて、あまりついていけない。

 本当であれば、こちらが主導権を握っているはずなのだが……。

 ……せっかくの『すでに用意された答え』だが、とりあえずそれは後に取っておくことにした。

「え、えぇと、少し歩いた場所に、私の家……隠れ家があるので、そこでならお風呂もご飯も用意することは出来ます」

「マジッすか!? ヤッホー! キタコレェー!」

 なんか奇妙な雄たけびを上げ、ナイフ女子は背中から離れて飛び跳ねた。

 一挙手一投足がマジで怖い。

 恐る恐る立ち上がろうとしたところで、剣の男子が手を差し伸べていることに気が付いた。

「大丈夫だった? あいつは少し頭のネジぶっ飛んでるんだよ。でも、ご飯をあげれば友好的になるから覚えておいた方が良い」

 剣の男子は爽やかな感じの笑顔を浮かべてナイフ少女を馬鹿にした。

「許してあげてくれ。あいつはただ、完全にネジがぶっ壊れてるだけだから。……あぁそうだ、まだ名前、言ってなかったよね」

 ハッと、そういえばまだ名乗っていないし、名乗られてもいないことに気がついた。

 呼び名が無いのは不便である。

「僕の名前は加賀。ネジぶっ潰れてるのは黒瀬」

「加賀先輩! 私の評価が……っていうかネジがどんどん酷くなっていってるっす!」

「僕は黒瀬の先輩で、黒瀬は僕の後輩なんだよ」

 黒瀬の抗議を無視して加賀は続ける。

「んで、きみの名前は?」

「わ、私の名前は、メリーゼです」

「メリーゼちゃん? ふぅん、やっぱ日本人じゃないのかな?」

 ニホンジン……。

 その言葉の意味は、分かる。

 それは彼らを召喚するに当たって用意した『召喚の手引き』に記述されていた。

 異世界番号九百九十九。

 地点、ニホン。

 同時召喚人数の指定不可。

 召喚対象の条件指定、ある程度可能。

 翻訳魔法の適用可能。

 魔法の存在、無し。

 異世界交流、無し。

 そんな場所から召喚した二人。

 タイミングを見失った『すでに用意された答え』だが、しかし……。

「あ、あの、一つだけ、これだけは伝えておくことがあります」

 少女……メリーゼは、加賀と黒瀬、両方に目を向ける。

「ここは、この『世界』は、あなた達の居た『世界』とは、全く違う、別世界……『異世界』なのです」

「あー、そういうことか。納得だな」

「そうっすね。異世界っつーなら、説得力あるっす」

 なんか普通に納得された。

 もっと、こう、異世界なんてあるわけないだろ! とか言うのがセオリーだと思うのだが……。

 それとも、最近の異世界人はそんな感じなのだろうか。

 メリーゼは昨今の異世界人事情に不安を覚えた。

「あ、あの、疑ったりしないんですか?」

「いやーだって、私、あんな目玉お化け初めて見たっすもん。知らない生き物がいるっつーことは、知らない世界もあるっつーことっすよ」

 ……同意できるような、できないような……いや、やっぱり理解できない解釈だった。

「ま、少なくとも、僕達の世界には存在しなかった化物を、僕たちは自分の手で殺した。殺戮してやった。自分の手は疑いようが無い。それだけだよ」

「は、はぁ」

 なんというか、飲み込みが良い。

 今までどんな経験を積んできたのだろうか……。

「そんなことより、私は腹が減ったんすよー。ご飯ご飯、ご飯が食べたいんすー」

 剣の男子、加賀。

 ナイフ少女、黒瀬。

 果たして、どれだけ……どこまで、『目的』まで辿りつけるか。

 また、メリーゼの心臓がドクリ、と高鳴った。

 それは期待からなのか、それとも……。

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