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その13-6 魔法道具

「彼女は、人間じゃあない」

 繰り返し、アルマはそう言った。

 黒瀬は人間じゃあない。

 殺人鬼や殺し屋なんて存在は人でなしであり人に非ず。

 そういう非難には納得できるし、それは昨日いきなりナイフを向けられたアルマからしたら当然の物言いだ。

 だから。

 だから加賀は、そのアルマの言葉はそういう意味なのだろうと思った。

 皮肉を込めた言葉なのだろう、と。

 しかし、

「もちろん、誹謗中傷的な意味で言ったわけじゃあないんだよ?」

 アルマはすぐに訂正した。

「……ふぅん? じゃあ、どういう意味なんだ?」

 アルマの言葉に憤慨しているわけではなく、単純に、その答えが気になった。

 黒瀬は殺人鬼だ。

 しかし、それ以前にれっきとした人間であることは、加賀が一番知っている。

 少なくとも、昨日会ったばかりのアルマよりは、分かっているだろう。

 人間ではない。

 ならば黒瀬は何者だというのだろう。

 この『世界』……異世界的に言うならば……

「黒瀬後輩は、魔族……とか?」

 もちろん、加賀や黒瀬がいた元の『世界』には魔族なんていう存在は無かった。

 しかしこの『世界』は、人間族と魔族という種族が入り乱れて形成されていると聞く。

 だから、この『世界』の常識に乗っ取って言うならば、黒瀬は魔族……ということになるのだろうか。

「いやいや、そういう話でも無いんだけどね? んまぁ、ちょっと座ろうよ」

 言って、アルマは地べたに腰を下ろし、体育座りをした。

 そして、誘うようにポンポンと右手で地面を叩く。

 加賀は少しだけ迷ったものの、言われるがままにその場に座る。

 座る、という動作が、暗に敵意が無いということを表している、と理解したからだ。

「君たち……つまりは加賀と黒瀬だけどさ、昨日聞いた感じ、異世界から誰かに召喚されて、この『世界』にやってきたんだったよね?」

「……そうだけど」

「単刀直入に言おうかな。君たちを召喚した人ってさ」

 アルマは首を傾けて加賀を見つめる。

「もしかして、メリーゼとかいう名前じゃあなかったかな?」

 メリーゼ。

 確かに、加賀と黒瀬を召喚したのは、メリーゼだ。

 だが、どうしてこの場で、アルマから、メリーゼの名前が出てくる?

「なんで分かるのか、って顔をしているね? んまぁ、それは当然だよね。いやいや、単純な話、昨日、君たちが帰った後、昔の友人から色々と話を聞いたのさ」

「友人……?」

「そ。メリーゼが異世界から召喚魔法を使って最低二人組の『何か』を召喚した。それらは魔法を殺す魔法が扱える。そして、その『何か』はメリーゼを刺してどこかへ消えた……」

 メリーゼはまだ生きているということ。

 彼女は『政府』の『役人』であること。

『政府』が加賀や黒瀬に対して敵意があるわけではないこと。

『政府』と『大戦争』。

 当時、『政府』が危険な『魔法道具』やらを異世界に飛ばしたこと。

 彼女が行った召喚は、『政府』の方針とは真逆だったこと。

 だからメリーゼは一つ目の怪物……『役人』が使う『魔法道具』に追われていたということ。

 そしてその内容は、メリーゼの日記に書かれていたことと照らし合わせれば、概ね納得のいくものであった。

「んで、その『何か』ってやつは、君たち、加賀と黒瀬じゃあないのかな?」

「……そうだよ」

 隠す必要は無いだろう、と加賀は判断した。

「だけれど、それが、黒瀬は人間じゃない、って話と、どう関係するんだ?」

「黒瀬と握手したときに分かったんだよ」

 アルマは、依然として戦闘を続ける黒瀬と小悪魔に視線を移す。

「確信を得たのは、そのとき。私の中で、旧友から聞いた話と、君たちが完全に繋がったのが、そのとき。私は鍛冶師だからね。触れば……」

 戦う二人の方向にアルマは手を向ける。

 そして静かに口をあける。

「どんな『魔法道具』なのか、すぐ分かる」

 それは、危うく聞き流しそうになるくらい、あっさりとした声音だった。

「……は?」

 だから、加賀はその言葉の意味が、一瞬だけ理解できなかった。

 しかしそれは、すぐに結びつく。

「……黒瀬後輩が」

 加賀は、黒瀬に視線を向ける。

 小悪魔が使う見えない空気の檻を何度も叩き、弾かれてを繰り返す黒瀬。

 緩く結わえられたおさげを振り乱して暴れる黒瀬。

 あの殺人鬼が。

 加賀の、後輩が。

「『魔法道具』……ってことか?」

「そういうことだね」

 隠す必要も、誤魔化す意味も、そして気遣う様子も感じられないくらい、タンパクな声。

 そのままアルマは続ける。

「黒瀬……彼女は、魔法を殺す『魔法道具』だ。自身が、動いて、喋って、考えて、生きている、『魔法道具』だ」

 ドクリ、と加賀の心臓が高鳴った。

 道具。

 黒瀬は人間ではない。

 そして、殺人鬼でもなかった。

 あの、メリーゼを追っていた一つ目の怪物と同じような、生きている『魔法道具』。

「そして、黒瀬の持ち主は君、加賀ってことになるのかな?」

 アルマはニヤリと微笑んで加賀に指を向けた。

「……あれ、あんまりびっくりしてないかな?」

 否、顔に出ないだけで、加賀の頭はフル回転していた。

 確かに、黒瀬が『魔法道具』だとすれば、納得できる部分も出てくる。

 例えば、異常なまでの殺人衝動。

 それは黒瀬が、そもそも殺すために作られた道具だから?

 例えば、黒瀬が加賀の言うことを素直に聞く理由。

 それは黒瀬が道具であり、加賀がその持ち主だから……?

 そして、メリーゼの召喚。

 魔法を殺す『魔法道具』を呼び出すための召喚魔法。

 それで加賀と黒瀬が召喚された理由。

 それは、黒瀬本人が魔法を殺す『魔法道具』であり、そして加賀が、その黒瀬の持ち主としてみなされたから……?

「んまぁ、一つ分からないのは、黒瀬が魔法の知識を全く持っていなかったことかな? 自分自身が『魔法道具』だっていうのにさ。知らないふりをしている……って感じでもなかったし」

「……黒瀬後輩には昔の記憶が無いらしいんだよ」

「あぁ、そういうこと。確かに召喚魔法ってのは、結構乱暴な魔法だからね。同じ軸の……同じ『世界』での移動ならともかく、異世界同士の移動ってのはその物自体に結構負荷がかかっちゃうんだよね。だからきっと、黒瀬が昔、この『世界』から加賀のいた『世界』に飛ばされたとき、記憶も一緒に消し飛んじゃったのかもしれないね」

「…………」

 確かに、加賀はこの世界に来る直前、何をしていたのかは覚えていない。

 昼だったのか、夜だったのか、ご飯を食べていたのか、殺しの最中だったのか……。

 というか、記憶が飛ぶとか、そんな危ない感じの魔法で無理やり召喚されたということに、加賀は今更だが無性に腹が立った。

 この場にメリーゼがいたら三回くらいビンタしていたかもしれない。

 記憶がなくなる。

 改めて考えると、これはとても、恐ろしいことだ。

 そして、実際に昔の記憶がない黒瀬が感じる恐怖は、それ以上に違いないのだ。

 いつも明るい黒瀬。

 加賀の前で無邪気に笑う黒瀬。

 ひょっとしたら彼女はいつも、記憶が無いという恐怖を内面に抱えていたのかもしれない。

「勝手な話だな。いらないからって別の『世界』に飛ばすってさ。それで今度はまた勝手に呼び出されるとか」

「その気持ちはよくわかるよ。私に言われても困るけどね。んまぁ、いらないからって壊されなかっただけマシなんじゃないの?」

 アルマの言葉に、それならそもそも作るのがおかしい……と、加賀は、言わなかった。

 そんなことは、言えなかった。

 それは黒瀬の存在を否定するようなものだと思ったからだ。

 加賀が黒瀬と出会えたことを、否定するのと、同じだと、感じたからだ。

 だから加賀は、静かに拳を握りしめた。

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