その10-1 フルクスという傍観者は
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フルクスはロリババアである。
不死では無いが不老。
幼い外見の中には気の遠くなるような年月が詰まっている。
彼女は『政府』が作られる以前……大戦争が起こるよりも、ずっと昔から傍観者だ。
フルクスにとって『世界』は『関わる』ものではなく『見る』もので、少なくとも積極的に触ろうとするものではない、と考える。
基本的に、『世界』を回すのは他人だ。
そこに自身は混じりたくない。
だからこそ、フルクスは『政府』の中で『傍観派』に所属する。
そもそも『政府』は傍観者で、見る者で、『世界』を作る者でもなければ管理する者でもない。
そういう前提で集まった組織だ。
傍観者。
それを見るだけ。
そこに干渉はしたくない。
だがしかし。
そんなフルクスでも、時には他人に任せたくない場面も発生する。
「断る」
首都ルナルノルーナ中央『政府』宮廷『傍観派』御所。
その、大広間。
無数のフリルで覆われたふわふわの白黒ゴスロリドレス。
長いクリクリと絡みつく純白の髪。
片手に持った大きな鎌を肩に乗せ、フルクスは首を傾ける。
『政府』『傍観派』『序列六位』の『役人』。
それに対峙するのは、背の高い女性。
成人男性の平均よりもかなり大きい。
それでもそのボディラインは美しく、胸や腰のメリハリが際立つ。
小さなフルクスではとても比較にならない。
手には三つのロウソクが立った燭台。
大きな彼女、スノーフィ。
『政府』『保守派』『序列六位』の『役人』。
スノーフィは、表情を隠すような前髪から、怪しくジト目を覗かせて、見下すようにフルクスに視線を落とす。
「……断るって……メリーゼちゃんは引き渡せない……ってことかしら……?」
凍りつくように冷たく重い声音。
燭台のロウソクに灯った炎も、凍ったように揺らぐこと無く燃え続ける。
「うむ、そういうことじゃよ」
フルクスは小悪魔と共にメリーゼを瀕死の状態で発見した。
もしかしたらメリーゼをそんな目に合わせた『何か』と遭遇出来たかもしれなかったが、メリーゼの命を優先し、この『傍観派』御所に舞い戻ってきたのだ。
ちなみに小悪魔はメリーゼの看病中。
「……それは……メリーゼちゃんが瀕死だから……まだ引き渡せないということかしら……? ……そういう意味なのなら……私達『保守派』が治療の続きをするのだけれど……」
「フン、そういうことを言っておるんじゃないことくらい、分かっとるじゃろ?」
顎を上げてフルクスは言い返した。
メリーゼ。
『政府』『過激派』『序列四位』の『役人』。
この『世界』を大きく崩しかねない召喚魔法の多用。
そんな、傍観者という『政府』の基本的立ち位置を大きく踏み外したメリーゼ。
そして、彼女の監禁を任されていた『保守派』。
しかしメリーゼは、その監禁を幾度と無く打ち破り、結局『役人』の一人であるキュクロの魔法を殺せてしまう程の力を持つ『何か』を召喚してしまった。
これでは『保守派』のメンツは丸潰れだ。
そんな『保守派』にメリーゼを引き渡せるか?
答えはノーである。
「お主らにメリーゼを引き渡したら、メリーゼがどんな目にあるか分かったものではないからのう」
そんなもの、見ていられない。
傍観者でも、見たくない。
こういう気持ちになるから、フルクスは世界に干渉したくないのだ。
フルクスの答えに対し、スノーフィはイラつきを隠す様子もなく溜息をつく。
「……『傍観派』なら……大人しく何もせずに黙って見ていなさいよ……。……貴方……メリーゼちゃんとは随分仲が良かったようだけれど……そういう……私的感情で言っているのなら……力づくで行使するわよ……?」
「あー、あー、あー?」
とぼけたようにフルクスは言って、手に持った鎌の先をスノーフィに向ける。
「『力づくで行使』じゃってー? その喧嘩受けてやろうかのう。キュクロは酒瓶散らかしてどっか行きおったし、他の『傍観派』の奴らも今はおらん。それに、小悪魔にはメリーゼの看病を任せておるから、やりたい放題やってやれるぞ」
揉めたら、喧嘩。
意見が割れれば、喧嘩。
納得できなければ、喧嘩。
勝てば正義。
それがこの『世界』。
弱肉強食の、この『世界』。
「……一度……貴方を思い切り潰してやりたかったのよね……」
ゆらり、とスノーフィは肩を落として姿勢を崩した。
それでもロウソクの火は動かない。
凍ったように、動かない。
「それは奇遇じゃのう。ワシもお前をボッコボコにしてやりたかったんじゃよ」
フルクスは両手で鎌を握る。
フルクスの背丈ほどもある大きな鎌。
血液操作の魔法が埋め込まれた『魔法道具』『黒鉄回路之鎌』。
静まり返る大広間。
張り詰める空気。
最初に動いたのは――。




