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その10-1 フルクスという傍観者は


************************************


 フルクスはロリババアである。

 不死では無いが不老。

 幼い外見の中には気の遠くなるような年月が詰まっている。

 彼女は『政府』が作られる以前……大戦争が起こるよりも、ずっと昔から傍観者だ。

 フルクスにとって『世界』は『関わる』ものではなく『見る』もので、少なくとも積極的に触ろうとするものではない、と考える。

 基本的に、『世界』を回すのは他人だ。

 そこに自身は混じりたくない。

 だからこそ、フルクスは『政府』の中で『傍観派』に所属する。

 そもそも『政府』は傍観者で、見る者で、『世界』を作る者でもなければ管理する者でもない。

 そういう前提で集まった組織だ。

 傍観者。

 それを見るだけ。

 そこに干渉はしたくない。

 だがしかし。

 そんなフルクスでも、時には他人に任せたくない場面も発生する。

「断る」

 首都ルナルノルーナ中央『政府』宮廷『傍観派』御所。

 その、大広間。

 無数のフリルで覆われたふわふわの白黒ゴスロリドレス。

 長いクリクリと絡みつく純白の髪。

 片手に持った大きな鎌を肩に乗せ、フルクスは首を傾ける。

『政府』『傍観派』『序列六位』の『役人』。

 それに対峙するのは、背の高い女性。

 成人男性の平均よりもかなり大きい。

 それでもそのボディラインは美しく、胸や腰のメリハリが際立つ。

 小さなフルクスではとても比較にならない。

 手には三つのロウソクが立った燭台。

 大きな彼女、スノーフィ。

『政府』『保守派』『序列六位』の『役人』。

 スノーフィは、表情を隠すような前髪から、怪しくジト目を覗かせて、見下すようにフルクスに視線を落とす。

「……断るって……メリーゼちゃんは引き渡せない……ってことかしら……?」

 凍りつくように冷たく重い声音。

 燭台のロウソクに灯った炎も、凍ったように揺らぐこと無く燃え続ける。

「うむ、そういうことじゃよ」

 フルクスは小悪魔と共にメリーゼを瀕死の状態で発見した。

 もしかしたらメリーゼをそんな目に合わせた『何か』と遭遇出来たかもしれなかったが、メリーゼの命を優先し、この『傍観派』御所に舞い戻ってきたのだ。

 ちなみに小悪魔はメリーゼの看病中。

「……それは……メリーゼちゃんが瀕死だから……まだ引き渡せないということかしら……? ……そういう意味なのなら……私達『保守派』が治療の続きをするのだけれど……」

「フン、そういうことを言っておるんじゃないことくらい、分かっとるじゃろ?」

 顎を上げてフルクスは言い返した。

 メリーゼ。

『政府』『過激派』『序列四位』の『役人』。

 この『世界』を大きく崩しかねない召喚魔法の多用。

 そんな、傍観者という『政府』の基本的立ち位置を大きく踏み外したメリーゼ。

 そして、彼女の監禁を任されていた『保守派』。

 しかしメリーゼは、その監禁を幾度と無く打ち破り、結局『役人』の一人であるキュクロの魔法を殺せてしまう程の力を持つ『何か』を召喚してしまった。

 これでは『保守派』のメンツは丸潰れだ。

 そんな『保守派』にメリーゼを引き渡せるか?

 答えはノーである。

「お主らにメリーゼを引き渡したら、メリーゼがどんな目にあるか分かったものではないからのう」

 そんなもの、見ていられない。

 傍観者でも、見たくない。

 こういう気持ちになるから、フルクスは世界に干渉したくないのだ。

 フルクスの答えに対し、スノーフィはイラつきを隠す様子もなく溜息をつく。

「……『傍観派』なら……大人しく何もせずに黙って見ていなさいよ……。……貴方……メリーゼちゃんとは随分仲が良かったようだけれど……そういう……私的感情で言っているのなら……力づくで行使するわよ……?」

「あー、あー、あー?」

 とぼけたようにフルクスは言って、手に持った鎌の先をスノーフィに向ける。

「『力づくで行使』じゃってー? その喧嘩受けてやろうかのう。キュクロは酒瓶散らかしてどっか行きおったし、他の『傍観派』の奴らも今はおらん。それに、小悪魔にはメリーゼの看病を任せておるから、やりたい放題やってやれるぞ」

 揉めたら、喧嘩。

 意見が割れれば、喧嘩。

 納得できなければ、喧嘩。

 勝てば正義。

 それがこの『世界』。

 弱肉強食の、この『世界』。

「……一度……貴方を思い切り潰してやりたかったのよね……」

 ゆらり、とスノーフィは肩を落として姿勢を崩した。

 それでもロウソクの火は動かない。

 凍ったように、動かない。

「それは奇遇じゃのう。ワシもお前をボッコボコにしてやりたかったんじゃよ」

 フルクスは両手で鎌を握る。

 フルクスの背丈ほどもある大きな鎌。

 血液操作の魔法が埋め込まれた『魔法道具』『黒鉄回路之鎌(プライオリティキュー)』。

 静まり返る大広間。

 張り詰める空気。

 最初に動いたのは――。

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