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その1-2 靴裏に鉄板は乙女の嗜み

「なぁんだ、加賀先輩だって結構殺る気じゃないっすか」

 にひひ、と黒瀬は笑う。

「とりあえず、私が最初に二体くらい叩くっす。いい感じのタイミングで加賀先輩も入ってきてくれればいいっすよ」

『生き物を殺す技術力』は、加賀の方が断然上だ。

 しかし、『生き物を殺すセンス』は、圧倒的に黒瀬が勝っている。

 それが、殺し屋と殺人鬼の差なのだろう、と加賀は思う。

 だから、基本的に特攻役は黒瀬で、加賀はそのサポートに回ることが多い。

 相手が化物であろうと、それは例外ではない。

 そしておそらく、この役回りが最も二人の実力を発揮できるスタイルなのだと、加賀は確信している。

 それだけ、黒瀬の力を信頼している。

 殺し屋の加賀と、殺人鬼の黒瀬。

 二人がタッグを組んで三年。

 全戦全勝。

 負けた試しは、一度も無い。

「そんじゃーまー、殺戮パーティータイムの始まりっす」

 言って、黒瀬は飛び出す。

 最も前面に立っていた化物に向かって走り、構えていたナイフを――投擲した。

 それも、正面の化物ではなく、その右後ろに居た化物に対してである。

 ナイフは化物の眼球にサックリと突き刺さる。

 それに気を取られた正面の化物に向かって、黒瀬は走り幅跳びをするように飛びかかる。

 飛び込みつつ、スカートの下から新たに一回り大きなナイフ取り出しを左手に構え――眼球から頭ごと潰すがごとく、容赦なく突き降ろす!

 風船が割れたような音が鳴り渡り、化物の体液が周囲に飛び散る。

「あっはー、痛いっすかー? 化物でも痛いんすかー?」

 潰れた眼球を手で抑える化物の、がら空きになった腹部に、黒瀬は笑いながらナイフを再び突き刺し、体重を込めて引き裂く。

 ビチビチビチ、という生々しい肉の斬れる音と共に赤い鮮血が撒き散らされる。

「へー、化物も血は赤いんすね」

 降りかかる血飛沫を浴びながらヘラヘラと黒瀬は笑う。

 それを横目で見ながら、加賀は残り三体のうち、黒瀬に最も近づいていた一体の目前に、立ちふさがる。

「…………」

 間近で見ると、それなりに威圧感がある。

 だが、この程度なら、人間を相手にするのと大差は無いだろう。

 これくらいなら、殺せる。

 化物が両腕を伸ばし、加賀に掴みかかろうとしたところで――一閃。

 バン。

 それはまるで破裂音である。

 文字通りの一刀両断。

 いかなるものも断裁する一撃必殺!

 化物の身体は一瞬で、上下に分断されて崩れ落ちる。

「……ふぅん」

 違和感。

 腕に残る、肉と骨を斬る感覚は、人間のそれと対して変わらない……いや、もっと脆いな、と加賀は感じた。

 なんというか、出来損ないの肉人形を斬ったみたいな感覚だ。

 そして、形は化物だが、しかしどうして、人間を相手にするより、断然に楽であった。

 あまりにも、動きが単純すぎる。

 それこそ、意思の無い人形のような……。

 ……ともかく、残り、二体。

「うひょー、加賀先輩の斬りっぷりはいつ見ても爽快っす!」

 言いつつ、黒瀬は先ほど斬りつけた化物の身体を蹴り倒す。

 倒れたそれを踏み台にして、大きくジャンプ。

 くるりと身体を回転させ――もう一体の頭に、鉄板の入った靴でかかと落としを――

「よっしゃー! 頭蓋骨粉砕コースっす!」

 ゴスン、と鈍い音を立てて黒瀬は化物の頭に一撃をキメた。

 人間なら確実に再起不能である。

 だが――

「……て、あれ?」

 化物は、まだ動いていた。

 加賀が「避けろ!」と声を出す隙も無く、化物は、その筋骨隆々とした腕を思いっきり振りかぶり――黒瀬に向かって振り下ろす!

「……!」

 黒瀬は横向きに飛び、転げながらも間一髪でその一撃を避けた。

 我が後輩ながらとんでもない反射神経だな、と加賀は胸をなでおろす。

「なんでまだ生きてんすか! 脳みそ入ってないんすか!?」

 悪態をつきつつ、黒瀬は形勢を立てなおすべく加賀の元に駆け寄る。

「眼球潰すか、手足破壊するとかしないと駄目っぽいな」

「みたいっすね。今脳天カチ割ってやった方、私がやるんで、残りの一体は加賀先輩にお願いするっす」

「お前だけでも両方いけるんじゃないか?」

「いやぁ、二体は加賀先輩にお任せするって言っちゃったっすからね」

「そうかい」

 こちらに向かい、襲いかかってくる二体の化物。

 対峙する、殺し屋と殺人鬼。

 加賀は鞘……傘に刀身を一度仕舞ってから、静かに歩み寄る。

 およそ二メートル。

 その、加賀の射程に、化物が入った、その一瞬。

 一歩。

 地面を踏みしめ、傘に仕舞われた刀を、一気に振りぬく。

 すれ違うように、すり抜けるように、横切った化物の身体。

 加賀が再び刀身を隠すのと同時に、その身体は二つに分かれて地面に転がった。

 ちょうどその時、身軽に、飛び跳ねるように、黒瀬が化物の眼球にザックリとナイフを突き立てるのが見える。

 黒瀬はそのままクルリと華麗に空中で回転し、化物が崩れ落ちるのと同時に地面へ着地した。

 そして、もう必要はないとばかりに、化物にナイフを刺したまま、黒瀬は加賀に向かって、その血まみれの姿で楽しそうにVサインを見せる。

「いえーい! パーティータイムはこれでお開きっす!」

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