表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/53

その5-1 依頼と報酬の天秤

**********************************


「ふえー、『悪人』に『政府』っすかー。うんうん、なるほどなるほど、もうすっげぇ理解できたっすよ。私はお利口さんっすからね」

 黒瀬はメリーゼに借りたスウェットのような服に身を包み、両手を組んで頷いた。

 メリーゼから聞いた『悪人』や『政府』の話。

 それを風呂から上がった黒瀬にも改めて説明した。

 当人は理解したと言っているが……。

「…………」

 説明中、黒瀬の頭上に終始クエスチョンマークが浮かんで見えていたので、本当に理解できているのかは怪しいところである。

 いや、まぁ、分かってないのだろう。

「メリーゼちゃんの依頼っつーのは……えぇと、とりあえず、その『政府』の奴らをぶっ殺しちゃえば良いんっすよね?」

「ち、違いますよ! 『政府』は相手にしちゃダメです。命がいくつあっても足らないです」

「さすが黒瀬後輩はお利口さんだなー」

 馬鹿にするつもりで加賀はそう言ったが、黒瀬は何だか照れたように表情をアホっぽく緩めた。

 アホっぽいというか、アホだった。

「んー、でもそういえば、単眼の化物は殺しちゃったっすよ。あれって『政府』の追っ手なんすよね?」

「あれは『政府』の『役人』が操る人形なのです。あれは倒しても、まだ大丈夫です。あれはほとんど偵察用で、倒されること前提の人形でもありますから……」

「……偵察用……ね」

 加賀はそこで少しだけ違和感を覚えた。

 なんというか、メリーゼは少し、相手の事情について知りすぎている気がする……。

「『政府』の『役人』から逃げつつ、私が標的としている『悪人』を退治する。これが私の依頼です」

「ふーん?」

 膝を折りたたんでソファに座っている黒瀬は、濡れた髪の毛をくるくると弄りつつ、分かっているような分かっていないような表情を浮かべた。

 ちなみに、今居る部屋はリビングのような場所だ。

 小さな椅子に座るメリーゼに対面するような形で、テーブルを挟み加賀と黒瀬がソファに座っている。

 天井には電球……なのかよく分からないが、なんか光る水晶みたいなものが付いており、室内を明るく照らしている。

 この屋敷はメリーゼの隠れ家らしいが、しかしそう言う割に部屋数は多い。

 建物自体もそこそこ大きくて、本当に隠れる気があるのか疑問である。

 ……まぁ、魔法というものがあるくらいだから、結界とかそういう都合の良さそうなものがあるのかもしれない。

「ま、聞いた感じ面白そうっすけどね」

 と、黒瀬は無邪気な笑みを浮かべた。

 黒瀬は、よく笑う。

 特に、人を殺すときなどは、恐ろしいほどに充実した笑顔を見せる。

 しかし、今の微笑みや、先ほど見せた遠くの街を眺めていたときの笑みは、それとは全く異なる気がする。

 歪んだ笑顔ではなく……もっと、純粋な笑顔。

 元の世界では見られなかった、黒瀬のそういう、笑顔。

 そんな笑みを浮かべたまま、折りたたんだ膝に顔を埋めつつ黒瀬は加賀に顔を向ける。

「加賀先輩はどうっすか? メリーゼちゃんの依頼、受けようと思うっすか?」

「報酬次第かな」

「うひゃー、加賀先輩は守銭奴っすねー。お金で動く殺戮マシーンっす」

 黒瀬は大袈裟に両手を広げて驚いたアピールをした。

 腹が立つ。

 というか、お金がなくても動く殺戮マシーンには言われたくなかった。

 そもそも別に、加賀はお金次第で何でも請け負うようなタイプの殺し屋ではない。

 生活に最低限必要な金銭を稼ぐ程度だ。

 だから、今ここで加賀が言うのは、そういう『物』ではない報酬。

「メリーゼちゃん。例えばさ、『悪人』を倒すってことは、その地域のボスを倒す……つまり、その地域のボス……頂点に成り変われるってことで良いんだよね?」

「あ、はい、そのとおりです」

「『民衆』の反対にあったりはしない?」

「それが『民衆』に嫌われている『悪人』だったら、『民衆』は頂点が代わることを望んでいますし、『民衆』に慕われている『悪人』でも、より強い『悪人』に治安を守ってもらえるわけですから、基本的に『民衆』の反対もなくその座につけると思います。それに……」

 と、メリーゼは一呼吸を置く。

「この世界は弱肉強食ですから、強い者が頂点です。弱い者は何も言えません」

 微かに、メリーゼの言葉が重たくなったような気がした。

 やはり、そこにあるのだろうか。

 メリーゼが、とある『悪人』を倒したいという、その理由。

 私念か、復讐か……そんなところだろう。

 くだらないな、と加賀は思った。

 殺し屋として、加賀はそういう理由の依頼をいくつも請け負ってきた。

 異世界に来ても、結局、そこは変わらないのか。

 だが、元の世界では、あり得ない報酬が、ここでは要求できる。

 それは……。

「僕達の報酬は『それ』じゃあダメかな?」

 加賀は目を細める。

「僕達がメリーゼちゃんの依頼を達成出来たのなら、『その地域のトップに僕達が立つ』。それが、メリーゼちゃんが僕達に渡す、『報酬』だ」

 それは、居場所である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ