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本田秀人から金になる仕事があると誘われ、内容を聞くまでもなく即座に曽根和幸はやることに決めた。どんな仕事かわからないが、車の修理代を稼がなければならない。
曲がったボンネットの板金や、むしられた配線を新しくするだけでなく、ちょっとチューンする費用まで出る金額だ。
「でも、百万ってなにをやらせるつもりなんですか?」
「車がいるんだが、盗んでこられるか?」
曽根は解体屋で働いている知り合いがいるので、そこから借りてきたらどうだろうかと提案した。
「日本では売れないような年式の古い車を海外に輸出してるんですよ。いままでロシアに売ってたらしいんですが、あっちの法律が変わったとかで輸出できなくなった車が結構あると聞きましたけど」
「盗難車の場合は被害届を出されてしまうとナンバーが手配されてしまったり、いろいろ面倒だよな?」
「ええ、どんな仕事に使うのか知らないですけど、年式が古くたって壊れて動かないわけじゃないし、しばらくしたら別の輸出先を見つけて、海外のどこかに運ばれていくから、もし車の中に証拠になりそうなものとか、なにかヤバいものを残したとしても安心できると思うんです。ナンバーも同じような廃車から剥がしてきたらごまかせますし」
「なにか大事なものが入ってる鞄をさらわせたいらしい。まともに譲ってもらうわけじゃなさそうだから、途中でもめそうなタネは先に潰しておきたいな」
「すぐに連絡しておきますよ」
「スクーターもいるんだが、こっちはちょっと使うだけだから、その寸前に盗んだほうが早いな。ちゃんと下見して、どれをやるか決めておけばいいだろう」
「スクーターも盗むんですか?」
「おまえは車を用意できるんだから、それは別のヤツにやらせる」
本田とは知人の知人という程度の関係だが、噂はそれなりに耳にしている。かなり無茶な人ということだから、危険なところを担当させられるとばかり思っていた。
口より手のほうが早いとか、いままでケンカは三百戦全勝だとか、名古屋場所の巡業できた相撲取りを殴り倒したとか、ヤクザをボコって無理に小指を詰めさせたとか、とにかく噂がいろいろあったのだ。
格闘家を名乗っているが、ずいぶん前に潰れたインディーズのプロレス団体にほんのわずかな期間在籍しただけという噂だ。いまではフリーの格闘家という肩書きになっているはずだが、あまりに凶暴すぎて手に負えないから、どこの団体からも声がかからないらしい。
そんな噂を鵜呑みにするわけではないが、どっちにしても曽根としては好感を持ってなかった。どんなジャンルであろうと、本当の強さを持った人物であるのなら、なんらかの形で成功したはずだ。あるいは成功までいかなくても、それなりに自分の居場所をつくることができただろう。
なのに、格闘家を自称しながら、あがれるリングはどこにもない。
もちろん、その気持ちには有名な相手に対する嫉妬のようなものも含まれていたのだろう。
しかし、実際に会ってみて曽根は本田に抱いていた印象を変えた。腕力に物を言わせる理不尽な人ではないようだし、こうやって金になる仕事に誘ってくれたのだ。
ツキがめぐってきたと曽根は心を浮き立たせながら、本田の計画に耳を傾けた。




