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 若葉はスクーターと車が一台ずつ必要なことを説明した。

「受け渡しに成功したとしても追跡される可能性があるから、車が進入できない狭くて、だけどスクーターなら通れる場所に逃げるの」

「俺一人でもできなくはないが、三、四人いたほうがいいな。スクーターを運転するヤツ、その後ろで鞄を受け取るヤツ。車のほうも運転するヤツは待ち合わせの場所についても運転席を離れず、助手席にもう一人いて、そいつがトランクを開けたりしたほうがいい」

 細かいことはまかせる、と若葉は言った。地図で何度も噛み砕いて逃走ルートと、なぜこの道を使ったほうがいいのか利点を説明したのだ。

 あとは、そのとおりに実行すれば必然的に成功する。

 車やバイクの運転が上手で、その上に万一のときに犯人役を押しつけることができそうな人物として本田秀人が選ばれた。朱里の知り合いというところが、なんとも都合がいい。どういう知り合いかくわしく聞かなかったが、それなりに遊んでいるらしいから、こんな連中のことも知っているのだろう。どっちにしても若葉はもちろん、樹音とも直接のつながりはない、単なる捨て駒にすぎない。

 もちろん、捨て駒が必要になる事態は一パーセントすらないような完璧な計画を立てたわけだが、可能性がゼロではない以上、準備を怠ってはならない。

 本田秀人は身長百九十はあろうかという大男で、背が高いだけでなく、筋肉質だ。ファミリーレストランに呼び出してみると、こんな真冬だというのに太い腕が自慢らしく、タンクトップだけでブルゾンもコートも着てない。

 サイドの毛を剃ったモヒカンみたいなヘアスタイルで、それを真っ青に染めていた。さらに右の頬には『人類最強』、そして左の頬には『喧嘩高価買取』と刺青をしている。

 自称・格闘家だが、前科十八犯。そのほとんどが暴行とか傷害で、相手が怯えて被害届を出さなかったものも多いから、もし全部が事件化していたら前科は百犯を超えるのではないかと噂されている凶暴な男だ。

 そのくせ、まともな仕事ではないと感づいていながら、百万円の報酬でなんでもやるとシッポを振るところもかわいい。ただしアホすぎるわけでもないというところがポイント。まるで役に立たないのでは仕事をまかせるわけにはいかない。

 いつか、もっと強い相手に出会うか――強くはないが鉄パイプとかナイフ、ひょっとしたら拳銃で武装した敵とやりあって死ぬタイプだ。あるいは強くて、その上に武装している本物につっかかって自滅するか。

「ところで曽根和幸という人を知ってますか?」

 あのとき尾行して調べた住所と、乗っている車の名前をあげた。

「どっかで聞いたことあるな……ラメ入りのパープルで塗ったセドリックだろう。友達の友達くらいだが、まあ、聞いてる限りではたいしたヤツじゃないぞ」

「運転がうまいと聞いたのでスクーターの運転手はどうでしょう?」

「わざわざ、そんなヤツを?」

「失敗することはないはずですが、不測の事態が発生したときに、すべてを押しつけて切り捨てにできる人がいたほうがいいと思いませんか?」

「ああ、トカゲのシッポね」

 ちょっと本田は考え込む。

 なにを考えてるか若葉にはわからない。そもそも考えることができる脳が存在するのかすらわからない。

「どうなの?」

「わかった、誘ってみる。もし曽根がダメでも安心しろ、どっかでバカを拾ってくるから」

「お願いね。そのひとたちも報酬は出しますから」

 おまえだってトカゲのシッポのくせに、と思いながらも、若葉はにこやかに笑う。万一の事態になったときは千弓さまに無礼をはたらいた曽根に責任をかぶせる。曽根だけで防げなければ本田が捕まるだけだ。本田で止まらなかったとしても、交友関係の捜査で出てくるのは朱里の名前。

 安全なところから、危険なことをやる人間を眺めているのは楽しいものだ。


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