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 スーパーの駐車場の屋上は矢田川の堤防道路から直線距離で五百メートルは離れていたが、高倍率の双眼鏡を通すと手にとるように様子がわかった。五軒家千弓と大神早瀬が接触した一件もはっきり見えた。

「あいつは大神早瀬? どういうことなのかしら?」

 烏森樹音からすのもりじゅおんは隣でやはり双眼鏡を覗いている羽衣若葉はごろもわかばに尋ねた。

「千弓さまとどういう関係なのだろう? どうも偶然現場で顔を合わせたのではなく、むしろ千弓さまが大神早瀬を尾行してきたような感じだったけど」

「あの現場に千弓さまがいらっしゃるのは想定内だけど、大神早瀬はなにをしにきたのかな?」

 若葉は質問に質問で返す。

「わからない」

 二人は顔を見合わせた。まったく心当たりはなかった。

 事件があれば五軒家千弓が放っておかない。むしろ、それが目的といってもいい。

 しかし、大神早瀬が誘拐事件に関心があるという情報はまったく耳にしたことがなかった。

 事件そのものではなく、高針聖夜と個人的に友達だから心配して現場を見にきたということもないはずだった。

 手持ちの情報では、クラスや部活など二人の間に接点はない。

「わたしたちの調査に不備があって、なにかかわりがあったのかしら?」

「不備があったとは思えないけど、自分に都合のいいように考えるよりは、むしろ最悪の事態を想定しておくほうが間違いがないと思う」

「最悪といっても、警察が調べるのが前提で進めてるのに、大神早瀬が現場をうろつきまわったところで問題が発生するわけがないけど……」

 若葉は自分の体をあちこちさわってみた。聖夜も自分も、そして樹音も制服なのだから現場に繊維が落ちていたとしても見わけはつかない。服だけではない。化粧品なども同じメーカーの製品だから、普通では気づかない微量な証拠を残したとして、それを警察の鑑識が入念に調べたとしても手がかりにはならないはずだ。

 万一、髪などDNAが検出できるものが残っていたとしても、同じ学校の生徒なのだから、言い抜けることができないわけではない。

「それはそうだけど、そもそも大神早瀬があそこにいること自体、わたしは気に入らない」

「わたしだって気に入らないわよ。きっと千弓さまにいいところを見せようという魂胆に決まってる」

「そうか、事件のことをダシにして千弓さまに近づこうとしているわけね」

「許せない」

「場合によっては始末するしかないね」

 樹音が冷たく言った。

 若葉も反対しない。

 恐喝、恫喝、懐柔、その他もろもろ。手段はいくらでもあるのだ。

「それに大神早瀬だけでも不確定要素なのに、あのフランス人形は何者?」

「聖泉学園の生徒ではないみたい。大神早瀬の関係者なのは間違いない。妹か?」

「そこまでの個人情報までは持ってないから。でも、要調査」

「むしろ大神早瀬の調査のほうが先だと思う」

「大神早瀬がからまなければフランス人形もからんでこない、かな?」

「本体が関係するつもりがないのなら、その付属品だけが関係することはない」

「あの千弓さまにからんだ薄汚い男を手酷くやっつけた手際は褒めてあげたいけど……」

「あの薄汚い男には天罰が必要ね」

 と、若葉は駐車場から店内に向かった。エレベーターで一階まで降りると、あの男がいる場所に急いだ。

 ちょうど打ちのめされたような暗い顔で男は車のボンネットに顔を突っ込んでいた。しばらくあちこち調べてから運転席に座り、キーをひねるがセルモーターが動かない。何度も試すが、どうしてもエンジンはかからなかった。

 顔がクシャと潰れた。泣いているのかもしれない。がっかりしたように車から降りて歩き出した。どうも足を痛めたようで、ゆっくりとした足取りだった。

 こっそり車の写真を撮り、ナンバーを手帳に控えたあと、若葉は尾行を開始した。


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