第一話
──私は仮想空間に降り立って、初めての"死"を覚悟した。
体力はとうに赤ゲージへと突入しており、体には麻痺が付与されている。
そして目の前には、大きな肉切り包丁を持ったモンスターが私を睨んでいる。
振り下ろされたら、死は免れない。
頼みの綱のヒヨリンはいない。
自分だけではどうにもならない。
詰んじゃったかな──。
私が諦めた時。
「『挑発』」
誰かがスキルを唱えた。
するとモンスターの背後が一瞬力強く光る。
モンスターがそっちへと振り向いた瞬間、私の目の前に人が着地した。
片手には剣を持っており、それ以外の装備は初期装備の男の子だ。
見た目だけなら私と同い年くらいだ。
彼はモンスターを見つめたまま私に回復ポーションを投げる。
「それ飲んどけ」
男の子はそれだけ言うと、モンスターに向けて剣を向ける。
これが──私と彼との出会いだった。
前日。
私の通う学校で、休み時間に友人の日和ちゃん──佐藤日和ちゃんにあるゲームのパッケージを見せられる。
タイトルは『Luminous Frontier』。
私も名前は知っている。
最近発売されたVRMMOで、爆発的売上を誇ると言われる人気ゲームだ。
日和ちゃんは昔から私と同じでゲームが大好きだった。
だから絶対に話題にするだろうとは思ってた。
「これ。手に入ったんですが」
「うん……私もこの前通販で届いたよ」
私──花咲香織は日和ちゃんと揃って神妙な顔で頷く。
そして息を吸い込むと。
ぱんと二人で両手でハイタッチする。
「「やったぁー!」」
二人で喜んだ。
私達はこのゲームを通知が来た瞬間に、通販で事前予約しておいた。
そのくらい二人で楽しみにしていたのだ。
「早速私、帰ったらデータ作る! 香織はなんの役職にするの?」
「えー……私は魔法使いとかかなぁ。キラキラしてて楽しそうだし!」
「あははっ。相変わらずエンジョイ勢だなぁ」
「そう言う日和ちゃんはガチ勢だね!」
互いの理想像を話し合っているうちに、休み時間が終わっていた。
そんなこんなの放課後。
家に帰り、色々とやることを済ませた後、自室にあったVRの機材を手に取る。
ゲームにカセットを入れ、電源を点ける。
VRを頭に装着すると、画面に『Luminous Frontier』とタイトルコールされる。
画面が輝き、メイキングルームに飛ばされた。
ここで自分の役職を選択出来るらしい。
剣士、大盾、狙撃手と様々な役職が選べる。
そんな中、私が選ぶのは──。
「うーん……やっぱり『魔法使い』!」
魔法使いの項目を選択し、確定のボタンを押す。
すると今度は、「ステータスポイントを振り分けてください」という項目が現れ、ステータスポイント+100と通知が来た。
体力、筋力、防御力、魔力、器用、敏捷、知力の7つのステータス。
体力と敏捷は文字通りで、筋力は主に物理攻撃のダメージ量を上げる為のステータス。
防御力はあらゆる攻撃へのダメージの耐性のステータスである。
だけど、私に大事なのはそれ以降だ。
魔力ステータスは、魔法を放つ為に必要なエネルギーの総量で、知力ステータスは主に魔法の攻撃力を高めるステータスだ。
魔法使いである以上、この2つは必須と言っていい程の大事なステータス。
……と、日和ちゃんが言っていた。
家に帰宅してご飯の後にスマホを見た際、鬼のような数の通知が届いていた。
本当に、日和ちゃんは私以上にゲームが好きなのだと分かる。
「うーん。じゃあ、魔力と知力に多めに振っておいて……残りは器用と敏捷かな。使うかもしれないし」
とりあえず魔力に65、知力に25、残りを器用と敏捷に5ずつ振った。
操作を確定にすると、画面が再び光出した。
「うわっ!」
私は眩しさに目を閉じる。
しばらくして目を開くと、そこは大きな街中だった。
西洋の街並みにも思える雰囲気。
フルダイブシステムだから、そのままそこに居るようにも感じる。
「わぁ……すっごい」
余りにもリアルな光景に、私は感嘆の声を漏らす。
そういえば、日和ちゃんとはここで待ち合わせだったっけ?
「おーい! 日和ちゃーん?」
私は大きな声で、日和ちゃんに呼びかける。
周りから視線を感じる中、こちらに駆け寄ってくる人物が1人。
それは間違い無く。
「あ! 日和ちゃむぐぐ」
日和ちゃんが慌てて私の口を塞いだ。
すると小声になって耳打ちする。
「おーい。香織。VRMMO初めてだから知らないんだろうけど。この中ではなるべく本名を呼ばないで欲しいな。設定上基本的に身体情報はいじれないからさ」
「え? あ、そうか! ごめんごめん」
実質的に顔も本名も晒してしまうことになってしまうのか。
私は日和ちゃんに尋ねる。
「それなら。なんて呼べばいいの?」
「ん。私のユーザーネームはこれ」
すると日和ちゃんはステータス画面を見せてくれる。
左上に名前が表示されている。
名前は『ヒヨリン』。
「……あんまり変わって無くない?」
「まぁそうだね。そう言う香織は?」
「私は『カオリ』」
「……お互いさまだったね」
日和ちゃんは呆れ気味に笑う。
そして二人でステータスを確認し合う。
日和ちゃんの役職は剣士。
そしてステータス数値は、体力110、攻撃力80、防御力35、魔力20、器用25、敏捷30、知力20と、比較的バランスが取れている。
流石日和ちゃん。
慣れてらっしゃる。
「で。初ルミフロは何を致します?」
「る、ルミフロ?」
「『Luminous Frontier』だから、略してルミフロ」
「な、なるほど! えっと……何しようかな」
全然何をしようかは決めてなかった。
そもそも私はゲームは好きだけど、特別得意な訳では無い。
だからこういう計画とかもあまり立てられないタイプだ。
困ってうんうん唸っていた時、日和ちゃんがニヤニヤしながら言う。
「じゃあ。早速過ぎるかもだけどさ、試しにモンスターと戦ってみない?」
とてもワクワクした様子。
よっぽど待ちわびたのが私でも分かる。
実際私も少し楽しみだった。
「うん! 早速行ってみよ!」
私は快く頷き、未知なる電脳世界へと踏み出した!
続く




