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7話「引き裂かれた四肢」

7話「引き裂かれた四肢」



国王の視線は変わらずカイに注がれていた。

こめかみに当てられた指がかすかに動いた。



「スラムの北東に、変死体が出た。」

国王は淡々と事実を並べるように話し始めた。


「詳細は不明だが、大型の竜の足跡を付近に見つけたという報告も上がっている。これを調査し、竜であれば討伐しろ。」


「それと巫女の聖水に関してだが、主治医にこの件を連絡しておけ。明日には調整をできている状態にしておけ。」

そう言いながら国王が官吏の男を見ると男はハッ!と短く返事をした。


続けてノインにも指示を出す。

「巫女よ、今日の"祈り"はもうよい。今日は早めに部屋へ戻り体を休めておけ。」

そう言うと国王は話は終わりだと言わんばかりに書類に目を落としてしまった。


「クク、こちらとしても必要な聖水は調べておく。原液で頼むぜ、勝手に薄められても扱いに困るんでね。」

竜狩りもどこか満足そうにそう言い、コートを手に取り、帰り支度を始めてしまう。



拘束を解かれたカイはせっかくのチャンスとばかりにノインに声をかける

「なあ、ノイン。」


話しかけたはよかったが何を言えばいい・・・。

結局カイはノインの搾取を止めることは結局できなかったというのに。


しかしノインはカイのそばに近寄ると制止する衛兵に軽く一礼するとカイに優しく語りかけた。

「カイ、あなたが無事でよかった。お願いです、もし身の危険を感じたら逃げてきてください。」


加えて言う。

「あなたが何かを背負う必要はございません。巫女の務めは王家の責務ですし、この国の巫女として誇らしいと感じています。ですからどうか命だけは大事にしてください。」


ここまでノインに言わせてカイは自分の無力さが情けなくなっていく。


「ノイン、オレ絶対に竜を倒してくる。」

カイは自分の戒めのためにも短くノインに誓った。


「ガキ、行くぞ!今日のうちにターゲットを見つけ出すぞ」

何やら上機嫌な竜狩りに急かされながらノインとの別れを告げる。

「絶対に帰ってくるから。」

少し寂しそうだがどこか嬉しそうな顔にも見える複雑な表情でノインは笑った。




城を出て、スラムの北東へ向かう。




「それで、俺が狩るユニークってのはどんな奴なんだよ」

「さぁな、俺も現場を見たわけじゃないがさっき兵士どもから聞いた話を総合すると、おそらくは爪だな」

「爪?」

爪、と意味深なことを言う竜狩りについていくと、遠くからでも匂う死の匂いが漂ってくる。


現場であるスラムの農業地域には、見るも無残な男の死体が転がっていた。


男の体は腰のあたりで千切られ、無残にも取り残された上半身は血の匂いを漂わせる。

何かの大きな刃物で切られたようなその切断面からは臓器が飛び散り、辺りの地面を赤黒く塗り染めていた。


「体が真っ二つだな、下半身はどこにあるんだ?」


男の体は上半身しかなかった。下半身があったはずの場所は地面に亀裂が走っている。

すぐそばで竜狩りがすでにその手掛かりを見つけていた。

「こっちに引きずられた跡がある。竜の足跡もだ。スラムのガキどもの悪戯ってわけでもなさそうだ。」


足跡をたどるとさらに東のほうへ引きずった跡が続いていた。

「どうやらスラムの外、草原地帯のほうに続いてるみたいだな」


まだ外壁から十分に近いこの辺りの農業地帯は普通であれば聖水を撒かれているいわゆる聖域のはずだ。

この範囲内に出没した竜であれば匂いが効きにくいユニークである可能性は限りなく高い。




痕跡を数キロたどっていくと竜狩りの言う通り草原地帯が広がっていた。

この辺りはまばらな木と背丈の高い草が生い茂る地形となっている。

草の生い茂る草原部分は人間の背丈を優に越え2,3メートル程度の高さの草がびっしりと生い茂る。

木が生えている疎林部分は数本の大きな木がその体にたっぷりと日の光を浴びており、

そのためか根元には草原部にあるような背丈の高い草は全く生えていない。

背の高い草むら部分とぽつんと生える大きな木はこの地域の明暗をはっきりと分けていた。



引きずり跡は疎林部分をずっと続いていたが、ある大きな草原に差し掛かるとその中に続いていた。

「ここを通ったのか、今までは草原は避けてたのに・・・。」

「違う、やつらはテリトリーじゃない草原なんて入り込まん。つまりこの草原がユニークのテリトリーだ。」


竜狩りは水気をたっぷりと含んでいるあたりの泥を手に取ると、べとべと軍服やコートに塗り始める。

「おいガキ、辺りで張り込むぞ。匂いと温度を隠せ。」

カイも習って体や服代わりの布切れに泥を塗りたくる。カイにとって泥まみれになるのは日常のことだ。


そうして二人して泥まみれになりながらまずは遠巻きに周囲を観察する。

ユニークのテリトリーである草原はぱっと見でもかなりのサイズであり、十軒は家が建つ程度には広そうに見えた。



「この肉に俺の持ってる二つの聖水を掛ける、効果が高いのものを調べないといけないからな」

竜狩りは取り出した肉を半分に分けた後、腰に差している二つの瓶をそれぞれに振りかけ、草原部と疎林部の境界付近に置いた。




周囲の疎林部からテリトリーを見張りやすそうな場所を見つけると「あそこで見張る」と竜狩りは言うと周囲を警戒しながら移動した。

疎林部の低い草むらと木の陰に隠れながら30分も観察を続けるとユニークのテリトリーに動きがあった。




竜が出てきた。




体高は草原の草にすっぽりと隠れる程度の2メートル程度、体は草原に隠れやすい緑に茶色の斑紋が浮かぶ。

しかし、何より特徴的だったのは巨大で長い腕だった。

爬虫類の中では破格ともいえるサイズ感の腕とバランスを保つために太くたくましく育った脚と尻尾がしっかりと地面を踏みしめる。


2足歩行で歩きつつも長い腕をところどころ地面に突いて歩く様子を見るに、4足でも歩くことができるのだろうか。



「居たぞ・・・見ろガキ、あの爪を。あの鋭利な爪で引き裂いたんだな。」

竜狩りの言う通り、その竜は左右の長い腕の先に三つの鋭利な爪を携える。


爪同士をカチカチと鳴らすその様はどこかソワソワとした様子にも見え、舌なめずりするかのように口元から舌先が覗く。


草原から体を出した竜は近くにあったほうの肉には目もくれずもう片方の肉へとゆっくりと近づいていく。

初めは周囲を警戒しながらも爪で肉を抓んで器用にひっくり返したりして観察していたが毒や罠などがないことを察したのか本格的に肉へ向き直る。


そして次の瞬間、竜はおもむろに上半身を持ち上げる。

2メートル以上ある草の背よりさらに高く、3メートルはあるかという高さまで後ろ足と尻尾でバランスを取りながら器用に立ち上がると今度は勢いよく肉に向けて爪を振り下ろした。



ブンッ!



空を切る音が遠く離れたこちらまで聞こえてくる。


「体重を乗せて爪を振り下ろす。アレじゃ人間も真っ二つだな。」

肉はきれいに真っ二つに分かれていた。



竜はその場で半分ほど食べてから残りを草原の中に引きずり込んでいく。

爪による裁断は小さくして持ち運びやすくするためなのだろう。



辺りには静寂が訪れた。

後には小さな引きずり跡と、地面を割ったような深い溝が残っていた。



二人は放置されている肉を遠目に見て話し合う。

「クク、ユニークに間違いないな。聖水を振りかけた肉を喰ってたぞ。」

「だけど片方は効果があったみたいだな。」

「ああ、あれは巫女様の汗を塗ったほうだな。・・・もう片方は、クク聞きたいか?」


竜狩りの皮肉にかまってやる余裕はなかった。

カイは先ほどのユニーク個体を暗殺するイメージを頭の中で膨らませていた。




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