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6話「爪と牙の契約」

6話「爪と牙の契約」



目が覚める。硬い床で寝るのは慣れているが、光が差し込まない場所で寝るのは少し珍しいことだ。

ソファはもぬけの殻。竜狩りは居なかった。

管理人室(のような部屋)で食事をとった後、急激に眠気がきてカイはそのまま床で寝てしまっていた。


「竜の肉、思ったより食えたな・・・」


昨日はいろんなことがあった。

城にもぐりこんで、逃げ出して、森に駆け込んで・・・

と思い返そうとしたころ、竜狩りが部屋に戻ってきた。



「起きたか。」


短い一言だ。本来この男は人に興味を持たず寡黙なタイプなんだろう。

人をいじめるときと竜の話をする時だけ雄弁に語りだすということを昨日でよく知った。



「初めて竜を殺してどう思った?」


また竜の話か。


「そもそもあの竜はなんだ?なんでこの施設に入り込んでいたんだ?」

「あれは俺が研究用に捕獲した竜だ、だが怪我か病気か年なのか知らんが衰弱していく一方でな。

 ちょうどよく猟犬のしつけに使えると思ったんでな、うまくいったろう?」


ハア・・・。内心であきれ返る、意地が悪くて気味が悪い男だ。



「それで、俺はこれからどうすればいいんだ?」

目下の問題はこれだ。


今カイの身柄は竜狩りが預かっているという状況だ。

皇国では今頃指名手配されているのかもしれないし、そもそも竜狩りの猟犬として何をさせられるのかもわかっていない。



「ミラに行くぞ。」

質問には答える気がないのかぶっきらぼうなモードの竜狩りだ。


「いや、オレ機密事項を知っちゃった犯罪者扱いされてんだけど・・・?」

カイの返事に竜狩りはそれ以上何も言わずコートを手に取り着だした。もうこの流れはわかる、ついてこい。だ。

竜狩りはまたジェスチャーをしてくる。親指を立てて外へ向ける、カイのことを本格的に犬として育てるつもりらしい。



道中はやはり会話は無かった。だが、これは一種の潜伏なんだろうと昨日の会話から推察した。竜との戦闘は不意打ち、何より見つからないことが大事ということだろう。


森を歩く中、ふと竜狩りが立ち止まった。

草むらに隠されたワイヤーを引くと、巨大な杭の形に加工された丸太が突如すさまじい勢いで跳ね上がる。

竜狩りはワイヤーだけ回収すると何も言わずまた歩き出す。


竜狩りが仕掛けた罠だったのだろうか、彼はこうして森の中で狩りをしながら生活しているのだろう。


1,2時間も歩けば、施設から森、森を抜けスラム外周へとたどり着く。そのまま城下町の入口へと移動する。


「なあ、あんたは町に入れんのかよ?」

そう聞くと短く「ああ」とだけ返ってくる。


外壁にある門にたどり着き、門番に何かを見せると門番は何も言わず通行の許可を出した。



そのまま城下町へと入ると路地裏をスイスイと歩いていく。

カイもその後ろをついていく。


路地裏からでもわかるくらいに城下町は栄えていた。

メイン通りは活気がよく、出店がいくつも建っていた。公園や水路は整備され清潔が保たれている。


カイは初めて見る城下町に心を奪われそうになる。


「ガキ、この町はきれいか?」


いきなり問われ驚きながらも答える。

「あ、あぁそうだな。まぁスラムよりはきれいだな」


「クク、誰かさんの犠牲のおかげでな」


言われて気づく、この町の安寧はノインの犠牲の上に成り立っている。

そう気づいてからは清潔に見えた町そのものが嫌悪感を抱くほどに汚らしいものに見えてくる。



気づけば城の入り口にたどり着いていた、正面からではなく兵士の詰所などの入り口から通されるようだった。

そこで少し待つと、官吏風の男が現れさらに城内を案内された。


そうして数分歩くと何やら大きめの部屋の前にたどり着いた。

官吏の男が何やら護衛の兵と話したのち、ようやく入れるようだった。



通された部屋は執務室だった、政務を行うための大きな机と椅子があり、来客用の長いテーブルとソファが用意されている。

机には初老の男性がいて、眉間にしわを寄せながら書類を眺めていた。

見た目は40そこらに見えるが白い髪と短くそろえた髭が年齢以上の威厳と威圧感を放っていた。

表情は冷たく、双眸は何かを見定めるように厳しい眼差しを向けている。

豪奢な服装とその立ち振る舞いは部屋の中央にそびえたつ一本の柱のようにも見えた。



「よお、国王フォー。会いに来てやったぜ。」

竜狩りはそういうと豪華なソファに汚いコートを投げかけ、そのまま深くソファに座り込んだ。


国王だって・・・?

カイは緊張もほどけず、何をするのが不敬でないのかもわからず立ち尽くしていた。


「人払いは済んでいる、話も聞いた。竜狩りよ、その少年が機密を知った罪人だな。」

国王と呼ばれた男が書類から目を離さずにしゃべりだす。


「ああ、このガキを猟犬として育てる。まぁそっちからすりゃ今殺すか竜に殺されるかの違いしかないだろ?」


「ただそれだけなら貴様がわざわざここに足を運ぶわけがない。何が目的だ?」

国王は表情を全く崩さずに竜狩りへの不信感を隠しもせず問う。


「クク、話が早くて助かるね。ならこっちも単刀直入に言う、巫女の聖水を分けてくれ。」

追い立てるように立て続けで竜狩りは発言を重ねる。

「知ってるだろう?ユニーク、特殊個体の存在。

 匂いの効きづらい個体や特殊な性質を持つ個体が年々増えている。」


「今でもいくらかは与えているはずだが、それにユニークには聖水は効かないのだろう?」

その鋭い視線でようやく竜狩りを見据えた国王が返すも竜狩りは引き下がらない。


「いつものやつと量じゃあ効かねえだけさ、それとも無能な兵士どもを使ってお外でトカゲ狩りでもしてみるか?

 それに使い捨てのコマが増えた分俺もやり方が増やせる。被害が出る前にユニークは討伐しといたほうがお国のためってやつじゃないか?」


国王は目をつぶると何やら考え込んでいるようだった。

皮肉屋な雰囲気を隠すこともなく新しいおもちゃのことを話す竜狩りとは対照的に、眉間のしわも硬い表情も低い声のトーンも変わらずに淡々と国王は答える。

その冷たい雰囲気はまるでこの竜狩りと猟犬が、害をなすか益をなすかのみを勘定しているようだった。



長い沈黙を破ったのは扉を叩くノックの音だった。



「お父様、ノインです。先日の少年のことでお願いがあり参りました。」


部屋の外から聞こえたノインの声に反射的にカイは声をあげる。


「ノイン!?ノインなのか!?」


カイが背後のドアを開けるとそこには昨日見た静謐な衣服に身を包んだノインの姿があった。

銀色の髪、薄紫色の瞳、昨日とは違い衣服には拘束具や瓶の類は見られず、急いで来たのか頬を赤く染め、息を少し上げていた。


ノインにまた会えた、そう思った瞬間、カイの体は外に居た護衛兵二人に羽交い絞めにされる。


カイは護衛兵をにらみつける。殺気立った目つきは護衛兵たちを威圧するが却って危険性の証明となり、より強く絞めつけられてしまう。

「離せ!てめえらノインに何やってんのかわかってんのか!!!」

ノインに出会えたことで溜まっていた感情が一気に噴き出す。


「お父様!カイは悪くありません!どうかお命だけは!!」

ノインも同じく興奮してか国王に懸命の嘆願をする。


国王は人差し指をこめかみにあてると鋭い視線でこの野良犬を処分すべきかという視線でカイをにらみつける。


頭に血が上ったカイは相手が国王だということも忘れてさらに噛みつく

「この国の平穏はノインの犠牲あってのものだ!お前らはノインから何もかも奪っている!」


国王は静かに答える

「それがどうした。」


カイは完全に興奮して感情的な発言をする。

「あんたノインの親なんだろ!なんでノインのことを大事にしてやらないんだ!」


国王は何も変わらず静かに答える

「私は親ではない。国の王だ。王としての務めは何を切り捨て何を守るか決めることだ。」



二人の意見は平行線だ。かたや感情的に、かたや無感情に、正しいという指標が違う二人の意見の溝はあまりにも深い。




「おい、参加者は出揃ったか?んじゃ、四者会談と行こうじゃねえか」

雰囲気を察していないかのようにソファにふんぞり返っていた竜狩りは突然提案を始める。



「俺はユニークを殺したい、国王様は国を守りたい、巫女姫さんはこのガキを守りたい、ガキは姫を守りたい。だろ?

 なら俺にとっておきのアイデアがある。クク」

そういうと竜狩りはニヒルな笑いを隠しもせず話し出す。


「国からすればこのガキは機密事項を知った大罪人だ。だから国からの罰としてユニークを狩りに行かせる。

 巫女姫さんはこいつの為に聖水を"ちょっとだけ"分けてやればいい、もしかすればこいつをユニークから守れるかもな。クク。

 ガキは罪人としてユニークを狩る罰を受ける。それにユニークが減れば巫女姫さんのあの機密事項の負担が減るかもな。

 そして、俺はこいつを使った面白い狩りができて最高にハッピーだ。グハハ」

竜狩りは最後には大きな笑いを隠しもせずに言い切った。


カイには選択肢はない、大罪人として裁かれるかユニークを狩るかしかない。

だが国王と巫女はどう出るか。


ノインは少し考えて答えた。

「カイに危険は無いのですか?」

竜狩りは間髪入れずに答えになっていない答えを出す。

「今日処刑されるよりは寿命は延びるだろうな」


国王は何も語らずじっと竜狩りを見つめている、何か隠された狙いがあるのではないかと勘繰っているようだ。


「そんな目で見つめるなよフォーよ。なぁにお前の言いたいことはわかる、ほんとにこのガキはユニークを殺せるのか?だろ?

 そこに関しては安心しろ、二つのいい話がある。」


「一つ」

と指を立てて言う。

「昨日こいつは竜を一匹殺した。しかも、小型のナイフでな。犬にしては才能があるほうだ。」

実験用に飼っていた衰弱した小型の個体であることは隠したまま誇張してそう伝える。



「そしてもう一つ」

とまた指を立てて言う。

「次の討伐対象は決まってる、だろ国王?さっき兵士から聞いたぞ。そいつを1週間で倒してこよう。」

いきなり意味深なことを告げるとさらに驚きの発言をする。



「出来なけりゃこの犬は死刑でいい。」



「そんな・・・」

ノインが不安げな声を漏らす


だがカイの目は別のものを捉えていた。国王の目線が竜狩りではなくこちらを見ていたことを。



「・・・ああ、それでいい。」

強気に言い切ること。それが今必要な行動だ。



だが、国王のリアクションはない。目線も変えず表情も変えずただじっとカイを見極めている。


カイはノインを一瞥する。不安そうな表情を浮かべた少女と目が合う。

少年は再度国王に向き直り言い放った。



「何なら、三日でぶっ殺してきてやるよ」




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