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30話「締められる鉄の器具」

30話「締められる鉄の器具」



二人が見つけた鉄の扉は、竜狩りの拠点である森の中の廃研究所にあるものと似た形状をしていた。


「あれで間違いないよな?」


「あぁ、台地からでは見えない場所に、巧妙に隠されていたということだ。十中八九研究所だろう。」


表情は見えないが、竜狩りも心なしか嬉しそうに見える。


カイも沸き立つ気持ちを感じてはいた一方で、冷静に状況を鑑みる。


「でも、今入るのはさすがにまずいよな…?」


「まぁ、そうだな。もし入り口があれしかないのなら俺たちは自ら袋小路に入ることになる。」


頭上遠くからは飢えたトカゲ達の鳴き声が聞こえてくる。


「だけどこの谷底に居ても捕まるのは時間の問題だろ。」


「そりゃそうだ、こちらに地の利はない。…二手に分かれるぞ、お前は研究室の内部に入り、他の出入り口があるか探れ、俺はここでやつらを迎え撃つ準備をする。」


カイは頷くと鉄扉に向かう、谷底からであれば斜面を歩けば簡単にたどり着く。


「何かわかったらすぐ知らせろ、出入口がなくとも危険が無いのであれば籠城という戦い方もある。」




鉄扉の土ぼこりを見れば、長年放置されていたと言うことは誰の目にも明白だった。


竜狩りの拠点にある扉と同じく、両開きのやや大きめの扉。

大型の家畜やともすれば中型の荷車くらいなら通れるんじゃないかと言う大きさの扉は、すんなりとカイの左手により観音開きになる。


扉を開ければ中から湿った冷たい空気が漂ってくる、扉の先は通路になっていて、内部はところどころ錆びたり破損していたりと打ち捨てられた様子がありありと見受けられる。


初めて見る峡谷台地の研究所だったが、入り口付近はカイにとって見慣れた光景が広がっていた。


入り口からすぐ近くに通路側に向けて小窓のついた小さな部屋があり、ソファーや机などが置かれている。

拠点にある管理人室と同じ間取りの部屋だ。



カイがこの部屋を管理人室だと考える理由はいくつかある、そのうちの一つである壁に設置されたボードを見る。


ボードには拠点と同じく、研究所全体の間取り図がある。

秘匿のためか部屋に名称が振られていないのは森の研究所と同じだが、今いるこの階からさらに下層にも階があり、全部で部屋の数は10に満たないほどであること。


そして、カイが入ってきた入り口以外には出入口らしきものは見当たらないことがわかる。




少なくとも知るべき情報はわかったと判断し、カイは研究所から出ると谷底で準備を進めている竜狩りに遠巻きに声をかける。


「出入口は他になさそうだ、中は誰かが入った形跡はない、多分安全だ。ただ、籠城は難しいかもしれない、扉が簡単に開きすぎる。」


「そうか、あとは好きにしていいぞ。」


竜狩りは短く伝えると自身の作業に戻ってしまう。


現状、腕を怪我しているカイは竜狩りにとっておそらく足手まといだろう。

だが、好きにしていいというのを文字通り受け取るカイではない。


カイは竜狩りが設置した罠などに気を付けながら近づく。


「なんか手伝うか?」


「いらん。むしろ邪魔するな。」


このあたりの谷底は何本かの亀裂が合流するような形になっていて、その中央は少し開けた形状をしている。

その中央で何かの準備をする竜狩りの背中に語り掛けるような形で二人は会話を続ける。


「勝算はあんのか」


「俺はいつだって勝つことだけを考えている、クク。」


答えになっていない答えを返す竜狩りにカイは肩をすくめる。


「そうだ、お前のやることあったぞ。名前だ。」


「名前ぇ?」


「『ギロチン』、『アイアンメイデン』に次ぐ抜群のセンスの名前を考えておけ。」


カイは意味の分からない課題を渡され困惑する。


「ククク。群れで狩る竜だろ、ってことは石打ちか、あるいは牛裂きか。いや、高低差のある地形になぞらえて、吊るし首なんてのもいいかもな。」


途端に饒舌になる老人に頭が痛くなる。


「ハァ、あんたこんな状況でも変わんねえな。」


「何言ってやがる。迎え撃つ準備も出来る、殺し方もわかっている。舐めてかかっていいわけではないが、まだましな狩りだ。」


「なら、処刑道具なのはあんたのほうじゃねえのか?」


「む?おお、閃いたぞ。『サムスクリュー』だ。」


「え?」


「知らんか?親指を万力のような器具に固定して、ねじを回すと親指が潰れていく、鉄製の拷問道具だ。丁度いいじゃないか、あいつらも爪がご自慢のようだしな。ククク。」


手でくるくるとゼンマイを回すようなジェスチャーをしながら嬉々と語る老人に、カイはもはや呆れを通り越してため息すら出ない。

そんな表情を隠しもせずにカイは話題を変える。


「双眼鏡、使わないなら貸してくれよ、周囲の警戒くらいならやるぜ。どうせ戦闘中は覗き込めないだろ?」


「ん、良いぞ。持っていけ。」


鉄扉は奥まった地形にあり、そこからなら安全に周囲を見渡すことができる。

カイにとって竜狩りの戦闘を見るという別の目的もあったがそれを言うとどうせ揶揄われると思い黙って双眼鏡を受け取る。


「群れの中にひときわ体の大きなやつが居るはずだ、おそらくあの群れにはリーダーがいる。特によく観察しておけ。」


あれだけ統率のとれた群れだ、と竜狩りはリーダーの存在を確信しているかのように告げるとカイに背を向け、やつらを待ち受ける準備に戻る。



老人の身体は小柄だ、カイより少し大きいがそれでも城の衛兵と比べればどこにあれだけのパワフルさがあるのかわからないほどだ。


「…死ぬなよ」


竜狩りの背を見て、ふいにカイの口をついて出る一言。

それを背中越しに聞いて竜狩りは笑いがこみあげる。


「クックック。カッカッカッカ!」


いつもの皮肉な引き笑いがこらえきれずに声をあげた大笑いに代わる。


「俺が死んだ後のことなど知らん、俺はまだ死ぬわけには行かない。」


振り返ることもなく竜狩りは答える。


「…だがまあ、墓に刻む名くらいは考えてもいいな。【穢れた血の老竜狩り、ここに眠る】だな。あの気にくわん城の方角にでも向けておけ。」



カイはそれ以上は何も言わず鉄扉のほうへと移動する。


奇襲や罠による狩りを除けば、竜狩り単独の狩りは初めて見ることになる。


乾いた風が谷底を吹き抜ける。

乾燥した風とは対照的なまとわりつくような不気味な空気感が、辺りを支配していた。


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