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3話「老いた竜狩り」

3話「老いた竜狩り」


大きな水袋が破裂するような音とともに大量の血液を浴びカイは自らの命の終わりを悟っていた。


熱い液体がカイの全身を濡らした。

だが、数秒経っても、刺された痛みも切られた痛みもやってこない。




「た、隊長・・・」

カイの背後から衛兵が怯えたような声を出す。



カイは恐る恐る目を開けるとそこにあったのは上半身を何か鋭利なもので切り裂かれている隊長と呼ばれていた男の姿だった。


「グルルルル・・・」

恐ろしい捕食者の声が今まさに目の前からした。


目の前にいるのだ、竜と呼ばれる超大型の爬虫類が。



「り、竜だ・・」「うわあああああ」「聖水だ!聖水を使え!」


衛兵の叫び声が聞こえる。一部の兵士は持ち場を離れ逃げ出しているようで、足音がガサガサと聞こえる。

だがその動きに反応したのかその二足歩行の竜は逃げ出す兵士を機敏な動きで追いかけ次々と鋭利な爪と牙で無残に殺していく。


カイは動けずにいた。いや、正確には目の前の竜を観察していた。

大きさは大人でも見上げるほどであり、頭から尻尾までの全長は5メートルはあろうかという巨体を森の中で軽々と操る。

鋭利な爪と牙が特徴的で、逃げる獲物に勢いよく襲い掛かるとその巨体を赤い液体で染め上げていく。


カイは分類を知らなかったが竜の中でも二足歩行の一般的なタイプであり、それはその昔、恐竜と呼ばれた種によく似ていた。


逃げ回る衛兵が居なくなったのか、それとも竜が飽きたのか。

竜はついに残った数人の衛兵とカイと対峙する。

竜は目の前の生き物を捕食するべきか悩むように観察していた。

カイは体制を整えつつ臨戦態勢をとる。

死にたくない、こんなところで死んだらノインを救えない。


両者のにらみ合いは永遠に感じられた。


静寂を破り影が動きだす。



だがその影はどちらのものでもなかった。



カイと竜の頭上から降ってきた1,2メートル程度の影は竜の首元に絡みつく。

竜は姿勢を崩したのか影を伴って横転し、二つの影は地面をのたうち回る。

かと思いきやそれも10秒と経たないうちに竜は動きを止め、おとなしくなった。



その巨大な獣は首元から大量の血を流し死んでいた。



カイは警戒状態を解かなかった。新たに降ってきた影をじっと観察していた。

背丈は人間と同等、おそらく人間だ。

だが見たことも聞いたこともない、人間が竜を殺すなど。



一方で影は周囲に兵士とカイがいることなど気にもせず次々に竜を解体し始めた。

まず、持っていた刃渡り数十センチのナイフで目をえぐり深く差し込み眼窩と脳を傷つける。

そうして確実に息絶えたと確認すると、今度は爪や牙周辺の肉を削ぎ、はぎ取った鋭利な爪と牙を腰の袋にしまい込む。

次に懐から取り出した瓶に血液を詰め、今は皮をはぎ取ろうとしている。

すさまじい手際だ。



静寂を破ったのはその場に残っていた衛兵だった

「貴様何者だ!」


衛兵は剣を人影に向け問いかける。



影の男は初めて衛兵とカイに向き直り立ち上がる。



黒い軍用コートに身を包み、その内側も古い迷彩柄の軍服の上下を着ている。

恰幅は良いほうとはいえないが薄い身体から弱弱しさは感じられない。

頭部にはガスマスクとカウボーイハットを着用しており、顔は全く見えなかった。



「俺は、、、竜狩りだ。クク、老いた竜狩りとでも言っておこう」

その異質な男はガスマスクのフィルター越しにしゃがれた声を絞り出すように言うとまた解体に戻ってしまう。


「竜狩りだと?どこの所属だ!皇国でそんなもの聞いたことがない。貴様でたらめを言っているな!」

衛兵が竜狩りに詰め寄る。


「ククッ、そりゃ知らんだろうな。お前らの知らん機密事項とやらなんだろうからな」

「ぐっ・・・」

竜狩りは皮肉の効いた口調に衛兵はこれ以上詰め寄ることができず、その矛先を今度はカイに向けてきた。



「おい、こいつはどうする?隊長亡き今、俺たちだけで始末していいんだろうか?」

「わからん、しかし連れて帰るのか?」

数人の衛兵が揉めている中、チャンスとばかりにカイは逃走ルートを考えていた。

こっそりと足音を立てないように足を動かし始めた矢先だった。



「おい、ガキ」

老いた竜狩りの声が森に響き渡る


「な、なんだよ」

せっかくの逃げる好機を台無しにされたが命を救われたとも言える立場では無視もできなかった。


「お前、機密事項を知ったんだってな」

「ああ、そうみたいだな。知りたかったら教えてやろうか?」


「祈りの塔って場所で実はな・・・」

と言いかけたところで竜狩りが被せるように言い放つ

「いや、知ってるからいい。・・・何もかもな」


そして老いた竜狩りは冷たく言い放つ

「衛兵ども。このガキは始末するんだろ?やるなら早くしろ。じきに血の匂いを嗅ぎつけてトカゲどもがやってくるぞ」


衛兵が反応するよりも先に、カイは知ってるというその男の言葉を聞き逃さなかった。

「オイ、あんたほんとか?教えてくれ、あそこで何が起きてるんだ!ノインはなんであんなことされてるんだ!」



老いた竜狩りはようやく解体を終え立ち上がるとカイの顔を覗き込んだ。

ガスマスクの曇ったガラス越しに冷たくも絡みつくような視線を感じる、スラム街でもよく感じたような人ではなく物を見る目つきだ。

数秒の値踏みの時間が終わるとこう言った。


「竜と対峙したときになぜお前は襲われなかった?」

「え?」

「そこらの衛兵は手持ちの聖水を浴びていた、だがお前はそんなもの持ってるように見えん。なぜだ?」


カイは何を言われているかわからなかった。


「祈りの塔に忍び込んだガキか。クク、使えるかもしれんな」

竜狩りは一人で納得すると今度は衛兵たちに話しかける。

「このガキは数日預かる。近いうちに国王フォーに会いに行くと伝えておけ。その時に必要であれば始末すればいい。」


「だめだ!貴様なんぞに罪人は渡せん!」

初めは強気だった衛兵だったが、

「ククク、トカゲの一匹も倒せんで、この森を暴れるガキを連れて脱出できるのか?」

そう竜狩りに詰められて、隊長不在かつ多くの隊員を失った状況で率先して判断する者もおらず、衛兵たちもこれ以上は何も言わなかった。



竜狩りはカイのほうを向き、投げかけた。

「ちょうど猟犬が欲しいと思っていたところだ。」



月明かりが不気味なガスマスクとカウボーイハットを照らしていた。


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