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27話「遠征」

27話「遠征」


翌朝、遠征に行くと言っていた竜狩りの言葉を受けて、カイは干し肉や革を縫い合わせた水筒などを用意していた。


カイが準備を終え拠点から出ると竜狩りはすでに準備を終えて倒木に腰かけて、退屈そうにぼんやりと空を眺めていた。


いつもの軍服と古びたコートを身に纏い、ちぐはぐにも見えるガスマスクとカウボーイハットを被るその姿は、いつもの様に異彩を放ってはいるが、今から遠征に出るというにはあまりにも軽装だと言わざるを得なかった。


「一応聞きたいんだが、遠征って何日くらいかかる予定なんだ?」


「さあな、行ったことはあるが詳しい調査は初めてだからな。」


「さあなって……なんか持ってかなくていいのかよ、携行食とかさ。」


「クク、何日かけるかわからんのに、何日分持ってくんだ?」


そう言われればそうなのだが…とカイはどうにも釈然としない表情を隠せない。


「まぁ、必要なものは持っている。ほれ」


竜狩りは足元に置いていたピッケルとロープが入った袋をカイに渡してくる。


「この手じゃピッケルは使えないぞ」


カイはいまだに添え木が外せない右手を見せる。


「クク、そうか。じゃあ俺が持っておくから、トカゲのほうはお前に任せるぞ。」


そう言って手を伸ばす竜狩りから逃げるようにカイは身をよじり左腕全体でピッケルとロープの入った袋を抱きかかえる。


「いや、その分担でいこう。荷物持ちは愛犬に任せておけよ。」


カイはいつにもましてあっけらかんと言い放つとずんずんと進んでいく。


「……そっちじゃねえぞ、犬」


カイが振り向くとすでに視界の端の森の奥に竜狩りが消えていくのが見え、足早にその背中を追いかけた。




結果から言えば、遠征は丸三日ほどかかった。


竜狩りの拠点は城から丁度南側に位置しており、そこから南西方向に森を進んでいった先にその土地はあった。


森の中の行軍は足を取られるうえ、視界も悪い。

そうした意味で大変な遠征ではある一方で、もとより森の中の拠点に住む二人にとっては慣れた環境ではあった。


森の中で果物や小動物を狩るなどしてその日の糧食にする。

万が一にでも竜と遭遇しないよう、慎重になりつつも一歩ずつ確かに足を進めていく二人。


二日も歩き森から抜けるころには、辺りからは徐々に自然が失われていき険しい岩肌が見え隠れし始める。

木々には刺々しい葉が目立ち始め、踏みしめる土地は水気を含む土からひび割れた大地へと変化していった。


そうして歩くこと三日目。

ついにたどり着いた場所は赤茶けた砂と岩が大部分を占める痩せた土地と、すでに枯れてしまったのであろうか大きな川が走っていたことを示すような蛇行した低地、そしてその低地を取り囲むように尖った岩肌を剥き出しにするほどに勾配の激しい壁のような崖。


「着いたぞ、ここが目的地だ。」


今まで行った森や草原や密林のどれとも違う、峡谷台地と呼ばれるこの大自然の持つ雰囲気にカイは圧倒されていた。


「遠目に見る分には悪くないが、見た目ほど穏やかじゃないぞ。険しい崖、剥き出しの岩肌、そして飢えたトカゲどもの巣でもある。」


竜狩りが峡谷台地と呼ぶ土地を目的地としていたことはこの三日で何とか聞き出していたが、想像を超える雄大な自然に心奪われていたカイを叱責するような一言に思わず背筋が伸びる。


「それで、目的の場所はわかったけど、目的はなんなんだよ?」


「俺たちの拠点はもともと竜を生物兵器として開発する施設だったことは話したな。あれと同じものがここにもあると思われる。」


竜狩りはポリポリとガスマスク越しに後頭部をかく。


「残念ながら詳しい場所はわからんがな。クク」


「なんか手がかりくらいはないのかよ」


「無いな、そもそも研究者のメモ書きに走り書きを見つけただけだ。『あのくそったれた峡谷の研究室と比べたら、この森の研究室は天国だ。』っつってな」


乾いた風が不意に吹く。

風に揺れるカウボーイハットを手で捕まえると深く被り直し、竜狩りは峡谷へと歩を進める。


「秘匿された研究だ。さぞ見つけ甲斐がある場所にあるんだろうなぁ、クク」


「ハァ、こりゃ骨が折れるな…」


カイの小言に竜狩りがクルッと振り向く。


(やべぇ、不用意な発言で怒らせちまったか?)


思い出すのはアイアンメイデンとの見敵時、昂る気持ちを制止できなかった未熟さに気付かされたあの瞬間だ。


「お前…」


カイは心の中で身構える。


「…もうすでに折れてるじゃねえか、ククク。」


竜狩りはカイの右手を一瞥して言うとまた踵を返し大岩を真っ二つにしたような溝の奥へと入って行った。


「うっせぇ!」


添木に固定され動かせない右手を揶揄されカイは吠える。


鳴き声は空しくも赤錆色の土の中、その深い溝に吸い込まれるかのように消えていった。







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