25話「レポート」
25話「レポート」
「竜に対する巫女の体液の効能について」
著:ツヴァイア・M・アルデリア
―注意事項―
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要約(Abstract)
本著は、巫女由来の各種体液が、竜の攻撃衝動抑制に与える影響を定量的に検証したものである。 実験により、即効性(唾液・尿・生殖腺分泌液)と持続性(血液・汗)という相反する特性が明確化された。特筆すべき点として、汗の有効成分発現には一定の潜伏期間を要することが挙げられ、細菌による加水分解を経て初めて効果を発現する遅効性の特性が判明した。 本知見は、持続性が重要視される防衛運用における『聖水』の配合最適化および検体への負担軽減に寄与するものである。
はじめに(Introduction)
本著は巫女の体液に関する研究レポートである。本著では巫女の体液の効能を竜に対して改めて実験的に検証した結果を示すことでより効果的な体液の利用を提案するものである。
従来より、竜には巫女や禰宜の匂いが攻撃衝動の抑制に役立つことはわかっていたが、その具体的な効能や適切な濃度や量は過去の文献やフィールドワークによる知見頼りであった。
本著の結果、効果的な利用が可能となれば、副次的に巫女への負担の軽減にもつながり、より継続的な竜の抑制運用が可能になる。
検体および資材
検体1、巫女について
基本情報:年齢15歳、身長152cm、体重42kg、女性。
補足事項:実験は本人の承諾を得たうえで行われた。ただし、名前や未記載の情報は本人の個人的な権利を尊重し伏せることとした。
検体2、竜について
基本情報:生後推定2~3年、全長2.4m弱、体重70kg、メス、二足歩行型の竜。
学術的分類:竜盤目 獣脚亜目 を基盤とした派生種
補足事項:本検体はある協力者から提供された個体である。検体は野生の個体の捕獲を行ったため足を怪我しているがそれ以外に外傷はなく、若く健康な個体と言える。
以後、検体1のことを「甲」とし、検体2のことを「乙」と記述する。
実験手法(Methodology)
体液について
甲から体液の採取を行った。採取した体液は以下の通り。
1.汗
2.唾液
3.血液
4.尿
5.生殖腺分泌液
採取した体液は実験が始まるまで変質を防ぐため、4℃の低温下で保管された。
各種体液の採取方法に関しては甲の権利保護および機密保持の観点から記載を省略する。
攻撃衝動の抑制実験について
攻撃衝動を表す行動として、絶食状態の乙に対し、肉片を与えることでその反応を見て効果を評価する。
この際、乙を一日絶食状態にしてから実施した。
上記の体液(20ml)を牛の肉片(50g)に塗布し、与えることでどれを食し、どれを食さないのか調査した。
上記の体液に加え、6.何もつけないもの 7.蒸留水を塗布したもの を用意して対照実験として使用した。
また、体液の量を変更し、量あたりの効果が高いものを検証した。
同様に、時間経過で効果が変化するか検証した。
実験結果(Results)
塗布した肉片に関する結果
上記の体液を塗布した肉片に関して、汗を除いた肉片で効果があり、絶食状態の竜であっても食さなかった。
一方で1.汗 、 6.何もつけないもの 、 7.蒸留水を塗布したもの は即座に食していたため、警戒して食べなかったというわけではないことは明らかである。
乙の反応に関してだが、捕食時はまず舌によるフリッキング動作を行い口内から出し入れして匂いを嗅ぎその後捕食を開始する。今後のすべての実験においてほぼ同様の反応を示したため記述は不要とした。
量の変化に関する結果
各種の体液を10ml、5mlと変化させ与えることで効果が変化するか確認を行った。
結果、10mlに変更することで2.唾液 を塗布した肉片は食すことが分かった。
また5mlに変化させた際も変わらず、残る体液を塗布した肉片は食さなかった。
結果を踏まえて、3~5に関しては1ml塗布したものも確認を行ったが、4.尿 を塗布した肉片は食し、それ以外は食さないことが分かった。
時間経過に関する結果
上記の体液を塗布してから1時間後と12時間後を与え効果が変化するか確認を行った。
結果、1時間後にはすべての肉片を食さないことが分かった。
また、12時間後には2.唾液 、 4.尿 および 5.生殖腺分泌液 を塗布した肉片を食すことが分かった。
一方で、1.汗 を塗布した肉片に関してだが、1時間後および12時間後どちらの肉片も食さないことが分かった。塗布直後は食していたものだが時間経過することで食さないという結果となった。
考察(Discussion)
今回の結果から、汗に関しては塗布してから数時間後に効果が始まり、長い時間効果が持続することが判明した。これは汗を中心とした体液を皇国の外周付近に撒いていることからも経験則的に認知していたものだが、効果が即時ではないというのは新規に発見された特性だった。
また、唾液、尿、生殖腺分泌液に関しては逆の性質を示し、即効性がある一方で効果の持続性は悪く、12時間後には効果を失っていた。これは、これらの体液が数時間で細菌の繁殖や尿素の分解、酸化の進行などにより匂い成分が大きく変化することが原因と思われる。
一方で汗、血液のどちらにおいても成分の変化は同様に起こるのだが、意外にも長時間にわたって効果が持続していた。
推測を多分に含む内容ではあるが、汗に関しては始めは揮発性の成分の含有量が少ないため効果が薄いが、時間の経過により微小な細菌が加水分解を始めることで芳香成分の揮発が始まったものと考えられる。
まとめ(Conclusion)
手法においてあげた5つの体液の内、塗布直後から効果があるものは2~5であった。
量の変化の結果、3~5に関してはかなり量を減らしても効果があった。
時間経過に関する結果から、1.汗 に関しては塗布直後より塗布から数時間後のほうが効果があることが判明した。
また、同様の結果から2.唾液 , 4.尿 および5.生殖腺分泌液 に関しては数時間の間で劣化が進み、12時間後には匂いによる効果が得られないことが分かった。
上記をまとめると、即効性が必要な場合は唾液、尿、生殖腺分泌液を利用すべきであり、持続性が必要な場合は汗、血液を利用することが好ましい。そのため、持続性を重要視する聖水の塗布においては汗と少量の血液を混ぜた液体を塗布することが効果が高いと推測される。ただし、混合液に関する検証は結果が不十分であるため実際の施策においては十分な検討を実施してから行う必要がある。
付録(appendix)
本実験と同様の実験を著者の体液を使用して実施した。
結果から言えばすべての実験結果において全く効果がなかったため詳細は記載しないものとする。




