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24話「正された歴史」

24話「正された歴史」


カイが目を覚ましてから数日が経った。

カイの覚悟とは裏腹に、意外なことにこの数日は平穏な日々が続いた。


この数日間は『アイアンメイデン』の戦利品を竜狩りと協力しながら拠点へと運び込む作業が主だった。


蛇の牙、皮、腱。亀の頭、甲羅、手足。

あまりに大きすぎるものなどを除きそれらを拠点に持ち帰る。


「今回は山分けだな」

と言う竜狩りに対し、結局最後には助けられた手前強く言い返せずに、カイは戦利品を半分受け取る。


「おいガキ、明日こいつを城に持っていけ。蛇の皮じゃ狩りの役には立たんからな、討伐の証としてフォーに渡してこい」


竜狩りは戦利品から蛇の皮をカイに渡しながら言う。

ちょうどカイとしても女医とノインに怪我を見せに行くと約束をしていたので丁度よい。

……しかし、なぜこの男は不遜にも国王を呼び捨てで呼べるのだろうか。




翌朝、早くからカイは城へと向かった。


午前のうちに城に着き、ユニーク個体の討伐の証を見せに来たとカイが言うと城の官吏がそれを制止した。


「国王様より言伝だ、戦利品を見せに来た時は不要だから突き返せと言われている。」


竜狩りが何か皮肉なことを言って怒らせたのだろうか。

いや、あの冷徹な国王のことだ、戦利品など不要と本心から思っていそうだ。


思いがけず暇になってしまうカイであったが、自分のことを優先し怪我の様子を女医に診てもらうことにする。




女医を探し兵士に尋ねると、医務室に案内された。


「あら、本当に来たのね。」


少し嫌味ったらしい言葉だが、口調そのものには刺々しさは無い。


「一応別件があったんだけどな、この蛇の皮要るか?」


カイは左肩に担いでいた、大きな絨毯のような蛇の皮を見せる。


「要らないわよ。それより怪我見せなさい。」


冷たくあしらわれるも怪我はしっかりと見てくれるみたいだ。


「ふーん、結構ちゃんとしてるみたいね。」


「あぁ、最低限のことは竜狩りに教えてもらった。清潔にしろとか動かさないようにしろとか。」


どうやら怪我の調子は悪くないみたいだ。


「ハイ、終わり。特に悪くはなってないしこのまま下手に動かさないようにしてれば予定通り3か月もすれば動かせるようになるわ。」


「そうか、ありがとう。」


カイは短く礼を言う。

女医もうっすらと笑顔を見せる。


「ノインにも顔を見せていきたいんだけど良いかな?」


「ダメよ」


先ほどまでの和やかな雰囲気など無かったかのように一刀両断される。


「今はダメ、別の用件があって今は会えないわ。午後になれば少しは時間とれるはずよ」


女医は目線を空中に向け少し考えるとカイに向き直り言う。


「あなた、暇でしょ?私の仕事手伝っていきなさい。」




女医の仕事、と言われ何か医療の手伝いかと思っていたが、カイが連れてこられたのは城の書庫だった。


「ハイこれ、背表紙に番号振ってあるからその通りに返しておいて」


女医は机の上にある数十冊はある本を指す。


『標準人体解剖集』

『人体構造論:筋肉の収縮と弛緩がもたらす運動機能』

『体液代謝の生理学的解釈および効率的な水分の摂取・排泄についての考察』


巫女の主治医だけでなく、おそらく医者としての知見を深めるためのものでもあるのだろう。

カイは黙々と本を本棚に返していく。


机のほうを見やると、女医は次の本に集中していた。



多くの本を返し終わったころ、カイはふとある本に目が吸い寄せられる


『皇国ミラの歴史』


歴史書だろうか、その装丁に意識が向く。

本棚の本の中でも比較的新めな、傷のない重厚な外装はちょっとしたアンティークなインテリアのようでもある。

刊行日を見ると3年ほど前に刷られたものであった。


カイは手に取り開き、パラパラと中身をめくる。


「皇国ミラの歴史は古く、その起源は1000年にも及ぶとされる。農耕を中心とする民族の中で一部の勢力が王政を築き上げた際、その派閥が『ミラ』と名乗っていたことに由来すると言われている。さらに皇国と名乗りが有史において現れるのはその300年ほど後になる。」


「現代から300年ほど前、突如大量発生した大型の爬虫類、通称『竜』により国全体が前代未聞の危機的状態に陥り、国土の多くを手放すことになる。また、この時期から皇国ミラは国交を閉ざさざるを得なくなり、以来300年にわたって竜たちの生息域の中孤立することとなる。この異例の大量発生は『竜の大量発生』または『アウトブレイク』と呼ばれることが多い。」


「王家の血を引く者は祈りで竜を鎮めることが出来る。彼らのような祈り手のことを巫女(みこ)あるいは禰宜(ねぎ)と呼び、皇国の永遠の安寧と繁栄を願い祈りを捧げる祭事を執り行う。これは次世代の巫女や禰宜が生まれ、10歳前後になると祈り手は継承され、先代の祈り手は国を束ねる王となる。」


「現代から50年ほど前、数百年にわたって祈りにより安寧を保っていた皇国において竜たちが一斉に皇国を襲い、数百人を超える犠牲者が出た。この災害の原因は一時的な大量発生や大移動など諸説あるが詳細は不明とされる。この現象は『竜の大暴動』や『スタンピード』と呼ぶことがある。」


「現代、国王フォーによる統治は非常に安定した統治がされていると評価される。国王フォーは先述の竜の大暴動後の動乱の最中に王位を継承し、治安の悪かった国内の統治に一役買った為政者として知られる。彼の冷徹だが無駄のない統治は国民からの支持も高い一方でスラムや一部の城下の民からはいつ自分たちが切り捨てられるのかと怯えの声が上がることもしばしばあるようだ。」


「国王フォーの娘であり、現在の巫女ノインは近年において最も竜を鎮める力がある巫女の内の一人ではないかと言われている。才覚を発揮した10歳から数年、彼女は毎日祈りを欠かしたことがない。城内では一時期は精神面が未熟だと不安視する声もあったようだが、最近では憑き物が落ちたかのように祈りに集中するようになったと言う話も聞き、責務を果たそうという巫女としての自覚が芽生えたのではないかと主治医は語っていた。」



様々な内容が語られ、皇国ミラがまとめられている。

大量発生については、竜狩り曰く極秘裏に開発していた竜がある事件を理由に野に放たれたらしいが、それは秘匿されているのだろう。


そして『祈り』、これについても実態は秘匿されている。

王家の血筋は竜を鎮める匂いを発しており、搾取した体液を利用することで竜を遠ざけている。

そうした非人道的な扱いを国としては公表しづらいという立場があるのだろう。



カイは本を閉じる、書いてあった話は概ねスラム育ちのカイでも知っているような話だ。

何かノインを助ける手がかりでも書いてあればよかったのだが……


諦めて仕事に戻る、手にあった本を返すと女医の指定した本を何冊かまとめて本棚に返していく。



バサリ――

ふと、手元の本から数枚の紙の束が床に落ちる。


数枚のレポートのような紙には『著:ツヴァイア・M・アルデリア』と書いてある。


(あの女医のレポートか、本に挟んであったんだな。)


拾い上げ、そのタイトルを見る。



『竜に対する巫女の体液の効能について』



手に取った薄い紙が突然重みを持ったかのようにカイの腕は固まった。


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