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23話「代償と答え合わせ」

23話「代償と答え合わせ」


カイが目を覚ますと、見知らぬ石造りの部屋の中に居た。


「ここどこだ……痛ってぇ!」


寝台から動き部屋の様子を見ようと右手を付いた際に痛みを伴う違和感を覚える。


腕には添え木がされており、簡易に固定されていた。


(そうだ、アイアンメイデンと戦って負傷したんだった)


音を聞きつけてか扉が開く。

入ってきたのはツヴァイアと呼ばれるあの女医だった。


「起きたのね。」


「あんたが居るってことは、ここは城の中なのか?」


「そうよ、一昨日あなたを連れてあのガスマスクの老人が来て置いてったの。動けるようになったら帰ってこい、ですって。」


つまりカイは丸一日寝ていたことになる。


「なあ、これ……」


カイが怪我した右手を挙げて見せる。


「全治3か月ってところね、腕の筋肉に牙が刺さって貫通してたの。下手に動かすと最悪の場合一生動かなくなるわよ。」


危うく右手が一生使えなくなるほどの怪我だったのか、カイの背筋が少し冷える。


「…ありがとう。あんたが治してくれたんだろ?」


「まぁそうね。とは言っても簡単な治療だけよ、あとはあなたの回復力次第ね。」


竜狩りやアイアンメイデンのその後も気になるがひとまずは自分の体のことだ。

とりあえず命に別状はなく、安静にしていれば右手も動かせるようになるだろうと聞き一安心する。


「竜狩りからなんか他に聞いてないか?」


「何も聞いてないわ、あなたを私に預けてから国王に会いに行ったみたいだけど。」


おそらく王への報告はすでにされてると見ていいだろう。


「それよりノインが気にかけていたわ、一目会ってから行きなさい。」


カイとしてはありがたい申し出だ、個人的に会いたい気持ちもあるが、何より少女の聖水のおかげで今回も生き延びられた、その礼をしないといけない。



女医の付き添いのもと、巫女の部屋へとたどり着く。


「カイ、もうお体は大丈夫なのですか!?」


部屋に入るや否や少女は少年に駆け寄る。


ノインが近づくとフワッと少女の匂いが全身を包む。

カイが右手に感じていた痛みはどこか遠くへ行ってしまったかのように薄れていく。


ノインはゆったりとした部屋着に身を包み、長い髪を軽くまとめ体の前に回している。

どこか既視感を覚え女医の方を見る。

二人の髪型はお揃いで、まるで姉妹のようだ。


「あぁ、右手は動かせないけど、他はもうバッチリ。」


カイの言葉を聞いてもなお不安そうな顔を変えないノイン。


「ありがとな、ノイン。またノインの力に助けられたよ。」


感謝の言葉を聞いてついにノインの感情が決壊する。

くしゃっとした笑顔ともにひと筋の涙が流れる。


「カイが無事でよかったです。」


言葉は丁寧だが涙声は隠しきれていない、そんなノインを見てカイの鼻の奥が熱くなる。


「ただいま、ノイン。」


ノインは鼻をすすりながらうん、と返す。


気まずいやら気恥ずかしいやらわからぬ空気が流れる。


ひとしきり感極まった感情が収まれば、今度はカイの怪我の方を気にかける。


「本当に怪我は大丈夫なの?痛くない?」


「あぁ、変に動かさなきゃ痛みも特にないよ」


「本当に?でも、念のためもう少し休んだ方が…」


少女の不安は尽きない。


後ろで聞いていた女医が隠しもせずため息を吐く。


「ハァ…来週くらいにはまた来なさい、怪我の調子見てあげるわ。」


女医が空気を察してか助け舟を出す。


「ツヴァイアが言うなら…でも絶対ですよ、良くなるまで診てもらってください。」


「あぁ、わかったよ。また来るから。」


不安そうなノインに苦笑いしつつも短い逢瀬を終え、カイは城を立ち、竜狩りの拠点へと戻る。




「おぉ、思ったより早いじゃねえか。」


いつもの管理人室で竜狩りは酒を片手にカイを待っていた。


「色々聞かないといけないことあるからな」


カイは一呼吸おくと切り出した。


「俺はどうなる、まだあんたの猟犬として使ってくれんのか?」


「クク、危機感が芽生えたか。犬らしい良い傾向だ」


カイの今の状況は差し迫った命の危機こそないものの竜狩りの猟犬としては致命的だろう。


「そうだな、まぁ数ヶ月犬を飼うくらいはいい。だが単なる療養期間になるなんて思ってねえだろうな」


ごくりと唾を飲む。

猟犬としてではなく犬としての扱い、これからを想像し覚悟を決める必要がありそうだ。


カイは他にも気になっていたことを聞く。


「アイアンメイデンはあのあとどうなった?」


「ヤツは完全に沈黙した、やはり巨大な亀と蛇の共生個体だったようだな。」


カイとの戦闘で『アイアンメイデン』が見せた恐るべき生態、それが共生個体であったことだ。


「ヤツの甲羅は凹凸が激しく、蛇が隠れ住むにはもってこいの環境だった。亀から見ても鈍重な肉体を守る兵士として蛇との共生は兵器化だけでなく自然な関係でもあったみたいだな」


野生化した後でも共生関係にあったと言うことは、十分に合理性のある関係だったのだろう。


「それが、四足歩行のでかい体に八つの頭、なんとも禍々しい異形のバケモノの正体ってわけだ。クク。」


「だけど、ロード化…してたんだろ?凶暴な個体になってたって言ってたよな」


「結果から言うと一部は、と言う感じだな。解体の結果わかったことだが、本体である亀の方と一部の蛇の腹から竜の肉が確認できたが、残るほとんどの蛇は竜を食ってなかった」


「つまり、凶暴化してたのはほぼ亀の方だけだったってことか」


「本来であれば温厚な亀と、その背に潜み護衛する蛇だったはずが、竜の味を覚えた暴走する亀に振り回されていたってことだろうな。」


竜狩りは声のトーンを下げると静かに重々しく語る。


「だが、蛇の一部も竜を食ってたんだ、暴れ出すのもそう遠くない話だったと思うがな。」


たしかに想像に難くない話ではある。

そしてその場合、今回以上にその狩りも難度の高いものになっていたのだろう。


「ま、俺も鬼じゃない。治るまでは巡回と罠の管理と観察くらいにしといてやるよ、ククク。」


普段の活動と変わらないだろ、とカイは思うが噛み付くことはない。

どうせいつもの皮肉だ。


だから、カイの思考は別のことを考えていた。


アイアンメイデンの生態に早く気づけなかったか。

もっと上手く立ち回れなかったか。

右手を怪我しない方法はなかったか。


倒した相手であっても次なる手を考える思考をやめない。

カイは感じていた。

この執念深い思考は、自分をきっとより良い狩人へと成長させてくれるだろう。


部屋の中で、もう一人、老いた竜狩りはその目に宿る熱をじっと見つめていた。




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