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2話「追跡の足音」

2話「追跡の足音」


気づけば足音が部屋の外から聞こえてくる、足音が止まるかどうかというところで間髪入れず扉が開かれる


「巫女様!ご無事ですか!」

医者らしき風貌の女が部屋に入るや否や、刃渡り10cmほどの鋭利な医術用ナイフを手に構えてカイを見据える。

「侵入者め、おとなしくしろ!!」


「巫女?オイ、なんなんだよこれは!いったいノインが何したっていうんだよ!」

カイの問いには答えず医者はじりじりとカイを追い詰める。


「逃げて、カイ!」

ノインの声にカイが気を取られた隙に、医者は外の様子をちらりと伺うと

「侵入者だ!!衛兵!!祈りの塔へ早く!!」

と叫びをあげた。


カイもその隙を見逃さなかった、スラム育ちの彼にとって命のやり取りは日常茶飯事のことでもある。

カイへの警戒を解いたその一瞬を見逃さず医者へ体当たりして姿勢を崩す。

そして医者から医術用ナイフを奪い取る。


「ノイン、絶対助けに来るからな!」

カイは生き延びることを優先しノインにそう告げると、もと来た道(天井)へと戻る時間はないと判断し外へと飛び出す。


待てと叫ぶ医者の声を背に、部屋を出ると短い通路につながっていた。

通路の先のドアを開けると先ほど配管の中から見た小部屋にたどり着く。

きっとノインはここから地下水道へ声を届けていたのだろう。


その小部屋から外へ出ると城壁上の回廊へと繋がっていた。

正面には5,6人の衛兵がこちらへ向かってくる姿がすでに見えていた。


「クソっ!」

悪態をつきながらも周囲を確認する、何か逃げるために役立つものや逃走経路になるものはないか。

城壁は手入れがされていてとても降りれそうにはなかったがそこにあるものを見つけた。


カイは意を決して城壁を蹴って壁の外へと飛び出す。

「あいつ!飛び降りやがったぞ!!」

衛兵の驚く声を背に受けながらカイは城壁に沿って設置されていた雨どい用の細い排水管につかまった。

ガガガガと今にも壊れそうな音を立て折れ曲がる。

排水管はカイの体を支えながら落下の勢いを殺して、城下町へとカイの体を降ろしていく。


衛兵たちもただ眺めているだけではなかった、追いかけて飛び降りようとするもの、持っている武器を投げるもの、これらは功を奏してはいなかったが大きく声をあげた兵士がいた。

「城下町の兵士たちよ!侵入者が逃げた!スラムの子供だ!追いかけろ!!!」


ちょうどよく城下町の民家の屋根に降り立ったカイはそのまま走り出す。

民家の屋根から屋根へと、さらに南の外壁のほうへひた走る。


ついに外壁を超えてスラムまでたどり着いたころ


「ハア、ここまでくればあいつらも・・・」

一呼吸置こうとしたカイの目に遠くからカイを探す衛兵の姿が見えた。

「まだ来んのかよ、こうなりゃ地下水道だ!」


カイは外壁をぐるっと東に回りいつもの地下水道の入口へと向かった。

しかし、地下水道はいつもと雰囲気が違っていた。


衛兵たちがすでに先回りして地下水道の入り口を見張っていたのだ、おそらく侵入ルートがバレてその入り口を封鎖したのだろう。


このままではいずれつかまってしまう、どうすれば、と考えた矢先にカイの耳に遠吠えが聞こえた。


グルルルル・・・


遠吠えはスラムのさらに外の森の中から聞こえる。

外壁を越えた先は竜の領域だ、人間の命の保証はない。

しかし、ここなら衛兵の追跡を逃れられるかもしれない。


「いたぞ!あそこだ!」

もはや躊躇する余裕もなかった。

カイは森に向けて一目散に駆け出していた。




カイが森に入ってから三十分程、城から考えれば一時間近くは走り続けただろうか。

辺りも暗くなり月明かりが森の中を照らし始めた。

数分前から衛兵の声が聞こえなくなったためカイは少し足を休めて現状を把握していた。


「森ん中って結構寒いんだなあ、あと暗い。下水道よりはましだけど。あとは匂いもだな、土の匂いはわかるけど独特の獣臭さがあるんだな」

時間も夕暮れ時になり本格的に暗くなりだすころだ。疲れも感じ始めた最中、カイはまた遠吠えを聞く。

(グルルルル・・・)


「まさか竜の領域にまで足を踏み入れないだろ」

外壁を出ればその身の保証はない。

外の世界には竜が闊歩しており、人間などすぐに食われてしまう。

これはスラム育ちのカイでも知るこの世界の常識だ。


「しかしあれは何だったんだ・・・ノイン、だったよな。俺のこと知ってたし。」

「ノインは巫女だったのか・・・?祈りの塔に居たってことはそうだよな。」

「ていうかこれからどうしよう。指名手配とかされんのかな、そしたらオレ一生森暮らしかよ・・・」

「まずは食料の確保か?いや、安全な寝床さがさねえと。」


様々な考えがよぎりカイは頭をフル回転させる。


「そこまでだ!」

声の方向へ振り向くとそこには衛兵が立っていた。


「ヤベッ」

反射的に踵を返し逃げようとした矢先、その逃げ道からも声が聞こえた。


「そこまでだと言っている、少年」


先ほどの衛兵とは雰囲気の異なるベテランの顔つきをした衛兵はさらにこう告げる


「もうすでにここは数人の兵士で包囲されている、君が警戒を解くのを待っていたよ。」

カイがしまったと思ったころには遅かった。

まさか竜の領域である外壁まで追ってくるとは思わなかったため警戒を解いて思考の渦に意識を割いてしまっていた。

あたりに目を向けると確かに木々の間に剣に反射する光が垣間見えた。


「おい、お前らはノインに何をしてるんだ?あれにはいったい何の意味がある?」

ベテラン衛兵に向けて声をかけてみるが返答はない。


「隊長、この子供はどうするのですか?城に連れて行って牢屋送りでしょうか。」

隊長と呼ばれたのは正面に立ちはだかるベテラン衛兵だ。

なんとか逃げる方法はないか、と考えるカイの耳に思わぬ言葉が入ってくる。



「いや、ここで始末する」



「隊長?それはなぜ・・・」

周りの衛兵たちも驚いている様子だ。

「侵入者は牢屋送りにしたのち尋問等をしてから罪状を決定するのが通例では・・・」

そう声をあげる衛兵に対して重たい口調で隊長は返す。


「彼は機密事項を知った。君たちも知りたいのかね?」

「い、いえ!」


まさかいきなり殺されるとは・・・、カイも驚きはあるがとにかく今は何とかしてここを切り抜けなければ。

カイは懐の中で医者から奪ったナイフを握りしめる。


隊長と呼ばれた男が近づいてきて剣を抜き、振り上げる。

その瞬間、カイは隊長と呼ばれた男に飛び掛かる。


しかし、カイの抵抗は鉄の靴の衝撃に止められた。

カイの行動は衛兵の無慈悲な蹴りに止められ、その一撃はカイの腹部を強打した。


カイは地面に顔を埋め、内臓をかき回されるような激痛に悶絶する。


「せめて一思いにやってやる」


ここまでか、と思いカイは目をつぶる。

瞼の裏に映るノインの表情、あんな顔を見るつもりじゃなかった。

プレゼントを渡して、ただ喜ぶ顔が見たかった。



ビシャッ!という大きな音とともに大量の血液が飛び散りカイの体は暖かい血液で覆われた。

ああ、死ぬときって思ったより痛くないんだな。

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