祝福
国境門の親睦会。
突然のローザリンド王太子登場に、魂が抜けるルカ。
――船で来た。
「…………」
「実は、連休が始まってすぐに王都を出発していた。目的は共和国中央の旧華族の子供たちとの交友だ。非公式で極秘扱いだったから内緒にしていた、許せ」
「はい……」
で、ジーク様はじめガヴェイン家の従兄弟一同、警護に駆り出されて連休の予定が埋まっていたと。警護の長は、今回は若者主体という事で、名目上はジーク様(大人の近衛も来ています)。
よく見ると背景には王国の正装をした……確か宰相補佐と外務担当役人さんだ。目の下に隈作ってる、大変だったよね、初対面の人に倒れられまくって。
「母上も宰相も渋ったが、最終的には認めてくれ、急な手配をしてくれた」
「殿下が、言い出されたのですか?」
「ああ、願いを一つ聞いて貰う約束をしていたからな」
あの約束、『初めての外遊』に使っちゃったんですか、王族スケールでかい。
殿下は一拍置いて、はにかみながらルカを見た。
「わたしにはまだ大勢を動かす力は無い。だが些末な事柄からでも共和国に足掛かりを作る事が出来れば、『贈り物』の第一歩になれると思った。
いつか、ロッチを悩ませる国境の治安を良くさせる手助けをしたいと、思っていた。わたしはちゃんと出来ているだろうか?」
・・あっ・・
ルカは、水底の宝石みたいなキラキラした瞳を見つめた。あの話をずっと心に留めておられたのか。
ロッチを見ると、分かっているのかいないのか、相変わらずニコニコしている。リリィは分かっていそうだな、何もかも見透かしているような藤色の瞳を細めて、こちらを見ている。
「ご立派に出来ておられます」
「そうか、良かった」
殿下の瞳がまたスッと瞬いた。
「あ、そうそう、ルカを褒めろと言われていたのだ」
「僕を、ですか?」
「ラツェット伯爵、前伯爵、こちらへ」
呼ばれて、心づもりが出来ていたのか、ラツェット家の二人が殿下の前に歩み出て傅いた。
ルカも今更 慌てて身を引いて、体積の大きい二人の後ろに下がって平伏する。
「この度の貴重な文化資料の発見、保存をされていた伯爵及び前伯爵、ラツェット家代々当主に、王家の一員として心よりの感謝を述べさせて貰う」
「有り難きお言葉」
宰相補佐の差し出す別珍張りの盆に乗った分厚い目録を手に取って、形式通りに下賜する殿下。ああ王族なんだなぁとつくづく思って眺めていると、ルカにも目を向けられた。
「発見者」
あ、僕もですか。
「ランスロット・ガヴェイン」
殿下が渋い顔で読み上げた。
後方で、よっしゃ顔のジーク様はじめガヴェイン家御一行様。
仕方がない、ルカがここで上げた功績はすべてガヴェイン家の物。承知して使者を受けた筈だ。
護衛騎士二人とちょっとした旅装と旅費の投資で、灌漑工事を通してラツェット領と肩を組めたし、随分な見返りですねジーク様、学園に帰ったら果実水奢って下さい。
「保存事業責任者、ダミアン・ボワイエ卿」
見ると、下がった所で学者たちと跪いていたダミアンが進み出て、うやうやしく目録を受け取った。
「先行調査ご苦労であった。正式に準国家事業と決まった。今後ともよく励んで欲しい」
「有り難きご配慮いたみ入ります」
普段学園で「ち――す」(ち――すとは言っていない)って間柄だけど、形式はちゃんとしなくちゃね。
***
ラツェット家の二人とダミアンが引いて、ルカも下がろうとした所、殿下に手を掴んで留められた。
まだ何かあるんですか、と振り向いた所、いつもの穏やかな微笑みの元、優しい声が静かに言った。
「わたしに、黙っている事があるだろう?」
――え、そ、そりゃ、王太子殿下に言えない事なんて山のようにありますよ、当たり前じゃないですか。
「この度 伴侶を見付けられたそうでおめでとう」
――あ、そっちですか、はい、どうも。
「何故わたしの見ていない所でわたしの知らない女性と勝手に婚約をしてしまうのだ」
――え、
今の言葉は低くささやくようだったので、ルカ以外に聞こえない。
絶句していると、
「冗談だ、許せ」
いつもの穏やかな殿下の声。
ホントに……?
「お相手をここへ」
殿下の声で、三人の薄っすら紫の髪の娘に介添えされて、共和国の伝統衣装のメムが連れられて来た。
確かにこの場にこの衣装は凄くマッチしている。あれ? あらかじめ予定されていた?
殿下の前まで押し出され、緊張して喋れない娘の手を、殿下が空いている方の手で握って導いた。あっ、勝手に触らないで下さい僕の婚約者ですよ。
「この度、王国の我が愛すべき友人が、共和国のいと美しきご令嬢と出逢い、見初め合った。両国にとって素晴らしいタイミングである。この場の皆にも祝って貰いたい」
両方の手を高く掲げると、おお、と拍手がおこる。
いい服着ている人たちは、共和国の偉いさんや外務省の人たちだったらしい。お祝いムーブになるのは歓迎。
『間違い口伝を正す会』は、また別の場でガッツリやればいいですものね。
「祝福をさせて欲しい、ルカ」
殿下は今挙げた両手を下ろして、二人の手を重ねさせた。
「あ、はぃ……」
ありがとうございます、でもこんな大袈裟にするつもりは……あの、解放して貰えないでしょうか、ほらメム、白目剥いて口からエクトプラズム吐いてますよ。
ルカは隣のメムに一所懸命語りかけた。
「しっかり、メム」
「ふえぇ、ゴクンゴクン(エクトブラズムを呑み込む音)、眩しい、チカチカします」
そんなにか。
光の見え方に関しては、リリィは特に意味はないと言っていたけれど、初対面で平気な人もいるし、この個人差は一体何なのだろう。
「ご令嬢、あなたのお名前をお教え頂けますか」
殿下の優しい声。
「は、はい、メムです」
「承知しました」
殿下は重ねた二人の手の上に自らの両手をかざした。ルカたちの国の婚約式の形式だ。
「我が王国の結びの神、星の神、水の神に、わたくし、ローザリンド・エクター・サフィール・バッフェルベルが祈願奉る、ここに参じるルカ、メム、両名をあなたの愛し子に加え永遠の祝福を」
うああ、殿下、光ってます、光ってます、立ち昇ってます、リミッター外すのって普通魔王討伐の時とかですよねたかが庶民の婚約お祝いでそれ勘弁して下さい。
四か国の学者連、共和国の政治家たち、ラツェットの者、慣れている筈の王国の騎士たちの間にまで、おおおおおっと雄叫びが上がる。
小国の二つの国は信心深い者たちなのだろう。ひざまずいて涙を流しながらトランス状態に陥っている。放っておいていいのか? あれ。
「王国の人間は光を放つのがデフォルトなのか? 君も光るのか? ちょっと光って見せてくれ」
ダミアン様が西イ国の役人に絡まれて嫌そうな顔をしている。




