国境門の親睦会・Ⅱ(らく描きあり)
さてさて親睦会って何をやっているのかな。
背の低いルカには、ピョンピョン飛ばないと大人の群れの向こうが見えない。
思ったより人が多い。ラツェットは本家筋の人しか来ていないのに、あと誰が居るんだろ?
いい服着ている知らない人たちは、大陸共通語を使っている。
そういえばジーク様、何処から沸いて出たのかな。僕が意識の無い間に来たの? 一人で? 何で? この連休は予定が詰まっているって言っていたのに?
「ルカ様!」
人混みを掻き分けてユーリが来た。
「遅れて申し訳ありません。これより護衛に付かせて頂きます」
「あ、宜しくお願いします」
いつもの顔にホッとする。
「ミックさんは?」
「リリシア嬢の所に」
「そう、ジーク様に会えた?」
「はい、先んじて挨拶して参りました」
「叱られなかった?」
聖書がなかったら護衛対象者のルカはユーリの目の前で心臓を射抜かれていた訳で、彼の心境や如何ばかりだった事か。
「大伯爵様に庇って頂きました。あんな動きをする子供、護衛のしようが無いと」
ごもっとも。
「すみませんでした、ユーリさん」
「いいえ」
ユーリはパチパチと目をしばたいた。
「誰かを護るという意志の強さの極限を見せて頂きました。私はまだまだ未熟です」
真面目だなぁ、ユーリさん。
ユーリに抱え上げて貰い、ルカはやっと会場全体を見渡す事が出来た。
奥に配膳台があり、飲み物や食べ物が並んでいる。
両脇に椅子とテーブル。中央は立って歓談の場という感じ。貴族のパーティーって出た事ないけどこんな感じなのか。
飲食ゾーンの反対側を見れば、広い台に本が大量に積まれ、黒板を立てて、四人の学者たちが解説している。周囲はいい服来た知らない人たち。西イ国の人たちが格段に食い付いている。
「共和国で口伝だけだった歴史ごとの実物資料が大量に出て来て、今、公開説明会の最中です。口伝が否定されるケースが多いみたいですね。西イ国も、王国程ではないけれど、今まで細々と『謎の公伝』に悩まされて来たそうです」
ダミアンも加わって、質問が飛ぶごとに即座に該当資料を開いて対応している。さすがです先輩。
「僕も聞きに行っていいですか」
「ルカ様は何か口に入れた方がよろしいかと。昨朝 救出された後も、薬しか摂っていないでしょう」
「そうだっけ」
「そんなだから大きくなれないんですよ」
ユーリさんにまで言われてしまった。
ルカは大人しく、脇に抱えられたたまま、飲食エリアへ。
「ねぇ今、ダミアン様が、領地割譲の経緯について話し始めたから、ちょっとだけ……」
「いいから先に食事です。ジーク様に、肉食べさせて胸板作らせろと厳命されているんです、ほら、ミートローフパイがありますよ」
「口の中切れてるし射たれた時ちょっと舌も噛んじゃったし、そういうの無理」
「じゃ、何か柔らかい物……あ、煮こごりがありました、スプーン、スプーンっと……はい、あーん」
「幾ら何でもそれは嫌ですっ!」
抱えられたままジタバタしていると、「何やってんの……」の呆れた声とともに三人娘登場。
染め粉は落として今は薄い紫がまばらに残った髪。三様にドレスアップをしていて相変わらず可愛い。
「そういう事は彼女とどうぞ」
三人の後ろからポソと押し出されたのは、メム。
「ほへ?」
ルカは目を真ん丸に見開いた。
薄い青地にとりどりの糸で花や鳥の刺繍がびっしりと施された衣装。ふわふわ髪もビックリしたけれど衣装でまったく別人になるのもビックリだ。女子怖い。
「お隣の国の晴れ着よ。我が家で保管してあった奴。ちょっと着付けに時間が掛かっちゃった」
「あ、あの、立派過ぎて、あたしこんなの似合わない……」
「そんな事ないわよ、ほら、ルカ、似合うって言ってあげなさい」
「言いなさいよ似合うって、早く」
「ニ、ニアウ……」
「良かったわね、似合うって、メム」
何なのこれ何言わされてんの……
「ユーリさんは何をされていたのですか?」
「ルカ様は何も食べていなくて貧血起こす程なのに、口の中を切って、手助けがないと物を食べられないのです」
「まあ大変、メム、食べさせてあげなくちゃ」
「ほら早く」
「早く早く」
煮こごりの器とスプーンを渡され、ルカの前に押し出されるメム。そして包囲される二人。
何なのこれ何なの本当に。
仕方がないから一回だけあーんパクをやると、キャアキャアと盛り上がる周囲。大量のケイト・べぺーに囲まれている気分だ。
***
「ほぉ、いいご身分じゃないか……」
ほらぁ、こういう時って絶対こういう人が来るんだってば。
ジーク様に襟首掴まれるように引っ立てられるルカ。僕が何をしたってんですか。
連れて来られた中央。
何で広く空いているの、ダンスパーティーでもやるんですか?
「ルカ」
――!!? 幻聴? 僕まだ臨死世界?
――だってあの人が、ここに、いる、わけ、が……ない……
周囲の空気がザワッと沸き立ったのち、スッと引く。
「ローザリンド・エクター・サフィール・バッフェルベル王太子殿下の御成りです」
幻みたいなテオさんの声、え、え、嘘?
屋上の入り口、大勢の大人の間から見慣れたプラチナブロンドが現れ……・・
大仰なマントをボワンボワン揺すりながら駆けて来た、白兎みたいに。
ちょっと慌てるお付きの人たち。
「ルカ、ルカ、」
いつものボーイソプラノ。
「来ちゃった!」
てへ(言ってない)、じゃないですっ!
「うぉっ?」「ぐあっ」「目が、目があっ」
初対面の諸外国の客人たちが、王子様エフェクトの被害を被っている。立っていられず倒れかかる人もいて、軽くパニック状態。
「殿下、もっとこう、段階を追ってそぉっと登場するとか、お出来になれないのでしょうか」
「テオにもそう言われていた。けれどルカの姿が見えたら嬉しくて、足が勝手に」
「いつ出発したんですか、王都から最低三日はかかりますよね」
「船で来た」
いつにも増して桃色の頬を紅潮させる殿下。
ルカが周囲を見渡すと、ロッチとリリィがニコニコしてこちらを見ている。翁をはじめラツェット家の人たちも平気そう。初対面は済ませているって感じだ。
内緒にしてたんですかそうですか。
ジーク様が今、ユーリさんに手渡されて白い近衛服をはおっている。へええ・・
***
~ふねできた!~




