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きよらかな王子さま  作者: しらら
ききりの神さま
53/89

曾お祖母さんの話・Ⅰ

評価コメントありがとうございます。とても嬉しいです。

完結まで公開が終わってから、大切に拝見させて頂きます。


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「何で居るんですか!!?」


「久し振りの再会の挨拶がそれかっ」


 ルカたち三人(&騎士二人)がロッチの実家ラツェット家を訪れて一週間。


 習い始めた乗馬にも慣れて、ポクポクと楽しい外乗りから帰って来ると、いきなりここにいない筈の顔に出くわして、思わず冒頭の声が出た。


「君が手紙をよこしたんだろうが」

「ダミアン様ご本人が自ら出張って来られるとは思いませんよっ」


 いっこ上の上級生、サロン(学園生徒自治会)の書記、ダミアン・ボワイエ先輩。

 学園始まって以来の天才とかで、籍は二年生なのに様々な権限を持ち、たまに大人と変わらぬ扱いもされる。ただの黒髪陰キャではないのファ、グフッ、痛いです、こめかみグリグリ痛いです。


「手紙の件は我が家が受け持つ事になった。僕は父の名代としてラツェット伯閣下に挨拶に来た」

 どうやら、ラツェット家の図書室の保存事業は、ボワイエ家傘下の歴史文化研究室で行われる事になった。思ったより大掛かりになってビビる。


「お陰で連休の予定が総て潰れた、どうしてくれる」

「僕のせいですかっ?」

「今回はほぼほぼ君のせいだろう」

「ダミアン様の連休なんてどうせ研究室に引きこもりの日々で普段と変わらないでしょうに」

「微妙に違うんだっ微妙にっ。そっちこそ何だ。僕が連休返上で遠路馬車に揺られて来たのに、女子供とお馬遊びか?」

「連休だから遊びますよっ。いや言ってみただけなのに本当に普段と微妙にしか違わないんですか。婚約者誘って屋台に串焼きでも食べに行ったらどうです」

「幻の婚約者を捏造するなっ!」

 痛いです痛いです。


「ダミアン様」


 建物からいかにも文系のスラリとした男性が出て来た。

 こっちに来てゴツい騎士の大人しか見ていなかったので、何だかホッとする。


 研究室の書籍部から来た実働部隊の(ちょう)で、実際に現場で働くのは彼以下四名。(ダミアンは折衝が必要な時の為に帯同している身分持ち)

 今日の昼過ぎに着いて、早速目録を作る作業から始めているらしい。


「夢を見ているようです。これを発見して知らせてくれたというご友人に感謝しかありません」

 目がキラキラしている。殿下が模型を語ってる時とおんなじ目だ。


「あ、それ、こいつ」

「何と!」


 キラキラおじさん、慌ててルカの前にひざまずいて礼を取る。

「よくぞ見付けて下さいました。そしてよくぞ第一報を我が研究室へ」

 頭にクモの巣付いてますよ。そんなに喜んで頂けて、翁に詰められて泣きそうになった甲斐がありました。

「僕は見付けただけで、凄いのは保管して下さっていたラツェット家です」


 灌漑チームも同時に来ていたみたいで、ラツェット家にとってはそちらが本命。

 こちらは学院の専門棟からで(ルカの記憶通り、やはり灌漑研究の部門があった)、学者と技術者、測量のプロが計六名。

 早速家の者が全員を、山頂の、領と河川を一望出来る場所へ案内している。

 工事に掛かる段には、ガヴェイン家が人手を調達してくれるらしい。


「両方とも、国家事業か準国家事業になるから、国から予算が出る」

「マジですか」

「こういうのは話の持って行き方次第なんだ。帰ったらまずアーサー様に頭を下げに行け」

「うげ」

「まぁ……今までラツェット領が放ったらかされ過ぎていたんだ」


 灌漑事業の方も頭はボワイエ伯爵の名代を受けて来たダミアンだが、ほぼ名前だけなので、各位に挨拶を済ませた今は暇。


「という訳だ。少し川の方でも案内してくれ」

「あ、僕、これから約束があるんで」

「何だそれは、こちらを優先すべきだろう」

「う――ん」


「ルカ様、準備は宜しいですか?」

 厩の方から、ロッチ、リリィと一緒に、麦穂色の髪の三人娘が歩いて来た。

 お姉さんぽいニーナは十五歳、妹のジヨアナと従姉妹のエイミはロッチより一個上の十三歳。三者三様に可愛い。


「・・・・」

「えっとごめんね、ニーナ嬢。急遽ボワイエ卿のお相手をせねばならなくなって。ロッチたちとだけ行って下さい」

「ええ~~」


 両こぶしを頬に当てて身をくねらせるエイミ、哀しそうなニーナ、ルカをガバリと抱えて背を向けるダミアン。


「ふざけんなよ、僕が君のせいで偉いさんと頭の痛くなる交渉をしている間に、なに自分だけイイ思いしてるんだっ」

「そ、それはさすがに言い掛かりでは……」


「あの、でしたらボワイエ様もお誘いしては如何でしょう」


 お姉さんの優しい声に、ダミアン、ヘッドロックを外してキリリと振り向く。


「ご令嬢に気を使わせるとは、相変わらず子供っ気が抜けないね、ルカ君」

「お、おそれいります……」


「どのようなお誘いだったのかな」

「我が家でお茶会を」

「それは素晴らしい。是非お邪魔させて頂けるかな」

 言いながら、ダミアンがルカの肩に回した腕に力が入って行く。痛いです……



 ニーナたちの家は、ラツェット家本宅より徒歩ですぐの、やはり昔の砦跡を利用した石造りの邸。準男爵位を賜っているが、本人たちはラツェット家の一部という意識。


 玄関を入ってすぐ奥に半屋外のティールームがあり、木漏れ日の中、丸テーブルにお茶の用意が設えられてある。


 そして既に、奥の背もたれの大きな(とう)椅子に一人のおばあさんが座っていた。娘三人が椅子の後ろに立って、「私たちの曾お祖母様です」と紹介した。

 おばあさんは夢を見ているような表情でユラユラしていたが、リリィを見てピタリと止まって目を見開いた。

「占い師さんが来てくれたわ」



 ***



 リリィがスッと歩いて、おばあさんの前にひざまずいた。


「リリシア・ブルーと申します。お目に掛かれて嬉しいです」


「占い師さん、占い師さん、また占いをしてくれるかしら」

「はい、良いですよ」

「明日は晴れるかしら」

「はい、晴れますよ」

「あの人は来てくれるかしら」

「きっと来てくれます」

「幸せになれるかしら」

「未来の貴方は微笑んでいます」


 おばあさんは柔らかな頬を上げてニコッとした。


「占い師さん、綺麗な髪ね、綺麗なおめめ」

「ありがとうございます」

「昔会ったクナ族の人たちと同じ色だわ」


 ダミアンはギクリと揺れ、テーブルに付いて、本能のようにポケットからメモ帳と筆記具を出して会話を記し始めた。


「クナ族というのですか」

「北の雪深い森に暮らしていたけれど、散り散りになってしまってもう何人も残っていないと言っていたわ」

「……そう、なんですか……」

「細々と旅をしながら、隠れるように占いで生計を立てていると。貴女もそう?」

「私は、住む所があって幸せです」

「良かった」


「散り散りになってしまったのは寂しいですね」

「そうね、寂しそうだったわ。狩られた、と言っていた」

「狩られた……」

「ただちょっと勘がいいだけなのに…… ちょっと占いが当たったり、嘘を見抜けたり、違う見え方がしたり、他にも色々出来る人がいたけれど、どれもこれも大した事ではないのに、偉い人たちの間で、側に置いて飼うのが流行ったのだと」

「…………」


 ダミアンが手持ちの紙が小さくて難儀していると、ルカがスッとノートを差し出した。

 そう、ダミアンが来なければ、ルカが今日の会話を筆記して彼に手紙で送るつもりでいた。


 ニーナに、『うちの曾お祖母さんを一度リリィに会わせてあげて』と、常々頼まれていた。リリィと同じ藤色の髪の占い師に深い思い出があり、その事ばかり話すのだという。

 曾お祖母さんの体調の良い日を見計らって訪問する約束だったが、その日に到着するなんて、

「ダミアン様、タイミング良過ぎです」


 ダミアンは黙ってノートを受け取り、集中して記し始めた。



「あの人たちも一つ所には長く居られないと言って、すぐに行ってしまったわ。二回目に会った時は私の事を覚えていてくれて、自分たちの神様の話をしてくれた」

「神様、ですか」

「自分たちだけが信仰する、森の神様がいるんですって。善き者を見守って祝福してくれる綺麗な『ききりの神さま』、貴女は会った事がある?」

「ききり? の神さま、ですか。いいえ、ないです、会ってみたいです」

「私も会ってみたいわ、会えるかしら」

「きっと会えますよ」

「明日は晴れるかしら」

「きっと晴れますよ」

「あの人は来てくれる、かし、ら……」


 おばあさんは疲れたのか、うつらうつらし始めた。

 ニーナが身体の大きな召し使いに命じて、おばあさんを抱いて運ばせた。




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