余話・~見送り~
~見送り~
僕は食が細かったから、母さんは色々と工夫してくれたようです。肉も野菜も細切れにせずに食べる物なんだって、侯爵家に来て初めて知りましたもの。
貧しかった? そうでもないですよ、母さんは腕が良かったから仕事が絶えなかったし。そりゃ、かつては侯爵家出入りのお針子だったんだから当然ですよね。
貧民街に住んだのは、あくまで隠れる為です。周囲も良くしてくれました。
仕事単価は安かったけれど、二人食べて行くには十分でした。謝肉祭や誕生日も祝いましたよ。普段食べないパイや果物を並べて、ロウソク灯して讃美歌唄って。その程度の余裕はありました。
幸せでしたよ。このままずっと幸せな毎日が続いてくれると思っていました。
何か二人で母さんの話をするのは初めてですね。
こうやって馬車の窓越しで初めて落ち着いて話せるなんて皮肉です。
いや、貴方が聞いたから話したんじゃありませんか。今更とか言わないで下さい。
やめましょう、また憎まれ口になってしまう。そういえば思い出したんだけれど、母さん、貴方の悪口はひとつも言わなかったです。本妻とその息子はボロクソでしたが。
ただ信じて貰えなかったのが寂しいと。
ああ、そろそろ時間ですね。窓を開けて頂いてありがとうございました。
これから向かわれる赴任領地は雪深い土地と聞きます。どうかお身体ご自愛下さいますよう。
え、心からですよ。
反省したんです。貴方自身は僕を苛むつもりは無く、ただ、何も知らずにいただけなんだと。
何も知らずに貴族の家長の責務を果たそうとしただけの貴方に、随分な物言いをしてしまったと。
だから最後にきちんと会話してお別れしたかった…………そうですね、自己満足です。
じゃ、行きます。お達者で、父上様。
~きよらかな王子さま・了~
これにて一章完了です。
引き続き二章をお楽しみ頂ければ幸いです。




