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きよらかな王子さま  作者: しらら
きよらかな王子さま
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エピローグ(一章完結記念・付録付き)

 



 同率だけれどめでたく一位を取って、王妃様との約束、『お願いをひとつ聞いて貰う』を勝ち取った殿下、ニッコニコ。

 遅れた授業を取り戻すのに連日三時間睡眠だったルカ、ミートローフパイを口にくわえたまま、ウツラウツラ。

 パイが落ちないように支えてあげるリリィ。

 二輪馬車復活計画に余念のないロッチ。


 今日も元気な中庭の四人。

 笑顔が空まで照らしているようだ。



 見下ろすサロンの窓。

 銀の髪のイサドラ、黒革ファイルを抱えたダミアン。


「元気ね、エネルギーが尽きるって無いのかしら、あの子たち」

「子供なんですよ。エネルギー残量ゼロの一歩手前まで元気で、パタッと倒れてノンレム睡眠に入る奴ですね」

「誰か疑問に思わないのかしら。一日たりともかかさずに、屋外でランチが出来ていることに」

「ぜったい気にもしていませんよ」


 彼らが入学してから三か月半。降水量は例年通り、ただし昼前に雨はあがる。五限目から降り始めたりもする、不思議に。

 謹慎中の二週間は、当たり前のように昼も雨粒が落ちていたのだが。


 赤銅色の巻き髪のジークが寄って来る。


「去年までの窓景が嘘みたいだな」

「あの子たち、自覚がないんでしょうね」

「そりゃ従来の中庭なんか知らないでしょうからね」


 扉が開いて、アーサーとマリサが入って来る。

 今回の試験も勿論ワンツーフィニッシュ。噂話にも殿下ルカの揺さぶりにもビクともしない。

 完璧な二人だが、年末の卒業パーティーのパートナーを決める段だけは、お互いの家でちょっと大変だったらしい。


「私たちも眼福に預かりましょうか」

「そうだね、この場所の役得だ」



 学園の中庭は、元々土が悪くて木を植えても植えても上手く育たず、庭師も匙を投げてしまうような場所だった。

 荒れ地に強い灌木を申し訳程度に植え、くすんだ緑色が保っている程度の。そもそもが人気の無い場所で、だからベンチ等も設置されていなかった。


 最初は、リリィが一人で座っている所に殿下が来て、すぐにルカとロッチも来て、心なし、風が渡ったような気がした。

 気がしただけだ、気のせいかもしれない。

 だがジークがいち早く動いて殿下を連れに行った。彼には違う風に見えていたらしい。


 しかし殿下がいなくても、あの三人の空間は色が変わった。

 緑が濃くなり枝が伸びて、何年も咲かなかったような花が咲いた。 

 四階から見ていたらよく分かる。

 彼らがランチを食べて寝転ぶ芝生広場を中心に、草木がどんどん育って行くのだ。


 偶然かもしれない。ただ今年だけ、そこの植生が当たり年だっただけかもしれない。 

 初春から夏へ向かう季節のお蔭かもしれない。

 だがジークはいつも、考え込むように外を見ていた。


「あいつら個々には何でもないのにな。

 橋から飛び上がった時のリリシアの説明でちょっとだけ腑に落ちたよ。『それ単体では効果は無いけど、清らかな力があれば引っぱられる』って奴」



 殿下は最初から、彼らに激しく惹かれていた。

 健気に約束を守って試験を頑張り、その場所を勝ち取った。

 殿下が加わって四人になってから、植物は更に成長速度を増した。

 ニョキニョキ、ワサワサ

 知らない植物まで生えて来る。昔、植樹して諦めた根が、たまたま命を吹き返したのだろうか。

 偶然と言ってしまえば偶然…… 本当に偶然?

 

 橋で怪我して不在の二週間、まるで当然のように植物の伸びは停滞した。


 そして今、四人の帰還を待っていたように、葉は青々と花はポンポン、枯れている場所などひとつも無い。

 まるで熱帯樹林のように生い茂る。秋になったら実りも期待出来そうだ。


 アーサーは隣のマリサに向いて、肩を竦める。


「ここまで来ると、もう笑って見ているしかないだろう?」

 



 昔、王子さまを治した治療師は、去り際に『この子の周囲は清らかで満たされていなければならない』と言った。

 それは、その子の先行きを決めてしまうような厳つい予言ではなく、同じような子を持つ父親の、ただの優しい、祈りだったのかもしれない。

 きよらに何を見出し、どのように生きるかは、結局その子が決めるのだから。




   ~了~




   ***


付録:きせかえぬりえ

挿絵(By みてみん)










これにて一章は完結です。

お読み頂きありがとうございました。

余話をひとつ挟んだ後、二章を開始致します。

引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。

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