職員会議
王立貴族学園、教員棟 小会議室。
一学年担当、学期末職員会議。
「では、今回の期末試験の結果では、クラスの移動は無し……と」
「学年始めの試験で四名も移動させましたからね。あまり動かすと子供たちも混乱してしまいますし」
「あの時は九位だった女子生徒が移動を辞退してしまい、代わりに十位の子と入れ替えじゃキマリが悪いだろうから、人数を増やして目立たなくしたんでしたっけ。何で辞退しちゃったんでしょうねぇ」
「ほらあの生徒、ガチガチの庶民じゃないですか。嫌でしょう? 上位貴族の中なんか、落ち着きませんよ」
「それはそうですね。今回は八位。優秀ですねぇ、Fクラスに置いておくのが勿体ない位ですが、やはり移動は希望しないようですね」
「そういえばこの女子生徒、例の橋崩落事故の被害者でしたっけ。試験前にトラブルに遭ったのに、頑張りましたね、偉いですねぇ」
「橋崩落と言えば、一年生であと二人、被害者がいましたっけ。重症で入院した男子生徒。試験前に可哀想だと思っていたんですが、順位落としていませんね、二十四位、根性のある子です」
「何であんな場所に行っちゃったんでしょね」
「そこはほら、調べようにも上の方からストップが」
「触らぬ神になんとやらですな」
「もう一人の被害者……ああ、この子か……」
一年生担当の教職員一同、複雑な表情をした。
「学期途中で実家が消滅してしまうって……前例ありましたっけ」
「長い歴史の中で、ないことはないのですが、大概、居辛くなって退学していましたね。親戚筋に引き取られても私立の学校へ移るとか。
この子みたいに家門の名も失って庶民となると……Fクラスに移動……が妥当なのでしょうが……」
「席順一番の子が下位クラスに移動っておかしいでしょう」
「ですよねぇ」
「いいんじゃないですか? Aクラスで。王太子殿下と仲も良いみたいですし」
「仲良く同点一位。さすがに全科目満点とは行きませんでしたが……いや前回の試験はビックリしましたけれどね。殿下、本当に神か天使でも憑いているのかと思いましたよ」
「今回は、二人とも一位でも平凡な点数で。三位以下が低かったのに助けられましたね」
「ああ、ほら、試験前に、愛だの恋だの決闘だの、おかしな噂で、生徒たち浮き足立っちゃいましたからね」
「えっと、今回、学長経由で議題がひとつ下りて来ています。ああ、またこの生徒の事ですね」
「何なんです、今度は」
「奨学生制度に申し込んだようです」
「あぁ本当に大変なんだな」
「偉いですねぇ」
「何だったら特待生でも行けるんじゃないですか。学費寮費全額免除な奴。成績的には十分でしょう」
「ああ、ありましたね、そういう制度。使う者がいないから忘れられがちですが」
「四年間一定の席順を維持せねばならないけれど、この子なら可能でしょう」
「じゃ、特待生の方向で聞き取りをしてみるという事で」
「それがですね、この件、別の問題もありまして」
「何なんですか」
「後見を申し出ている家門があったのですよ。ボワイエ家ですが。事故のあとしばらく養っていた実績はありますね」
「ああ――ボワイエですか。欲しがるかもしれませんねぇ」
「ちょっと待って下さい。その上で奨学生を希望して寮に戻っているって事は、ボワイエ家で人体実験でもされて逃げ出したんじゃないでしょうか?」
「ああ――ボワイエですもんね。あり得るかもしれませんねぇ」
「ですからボワイエ家は、本人に告げず秘密裏の援助を希望しています」
「ふむぅ……どうなんでしょうね、それって」
「子供の将来に影響する事を秘密裏にって。……素直に特待生にしておいてあげる方がいいんじゃありませんか?」
「そして更に複雑なのが、フロレイン家でも同様の、秘密裏な援助後見を申し出ています」
「何ですって!?」
「フロレインって言いましたかっ!?」
「しかも、ボワイエ家より前です。橋崩落の一ヶ月ほど前ですね」
「ハサウェイ家が失脚する前じゃありませんか」
「情報を掴んでいたんでしょう。あの家の情報網は鬼ですからねぇ」
「はぁ……」
「じゃあもうフロレイン家に託していいじゃありませんか。我々には口出ししようがありませんよ。私が代わりたい位ですよ、フロレインが後見って」
「それが」
「まだ何かあるんですか」
「試験前ぐらいにストラスフォード家からも後見の打診がありまして。やはり秘密裏に」
「すとらすふぉーど・・」
「まさかじゃなくても王弟さんちですねぇ」
「魂抜けるでしょ」
「ふざけているんじゃないでしょうね」
「私も学長のおふざけであって欲しいですよ。そして今日、カンタベリィ家の遣いも書簡を持って来たそうですよ。やはり同様の内容で」
「…………」
「…………」
「…………」
「あのぉ、何なんですか? その生徒。何かよっぽどの特殊能力でもあるんですか? 空でも飛べるとか」
「いやぁそれが、成績が良い以外はこれと言った特徴もない、大人しい、どこにでも居るような子供なんですよ……」




