表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きよらかな王子さま  作者: しらら
きよらかな王子さま
10/89

席替え


 



 嵐のような混乱の中、脳震盪を起こすかってくらい謝り倒して、リリィを回収した後どうやって校舎まで辿り着いたか、ルカはあまり覚えていない。

 ロッチも同じだったようで、とにかくリリィをFクラスの教室まで送り届けて自分たちは階段を登り、Aクラスのそれぞれの席に崩れるようにへたり込んだ所ぐらいからは、何となく覚えている。


『ローザリンド・エクター・サフィール・バッフェルベル王太子殿下であらせられる。諸君にはクラスメイトとしてより良い切磋琢磨を期待する』

 侍従の大仰な宣言の後しずしずと教室に入って来た王子さまは、しかしやはり入った途端、大惨事を引き起こした。

 何人かがルカと同じに、目が眩んで一瞬意識が飛んだようで、止まるだけならまだしも倒れそうになる者もいる。しばらくすれば治まるのだが、最初から平気な者もいる。


 あれ一体何なんだとロッチにぼやいたら、彼いわく、『清らかのカタマリだからそりゃ当てられるだろ』だって。

 素直にそう処理して終わらせるのが彼の図太くて素敵な所だが、王族を暑気当たりみたいに言うのは他所ではやめておこうな。


(公式行事に出せなかった訳だ……)


 ルカは、最後列窓際の席から教室を見渡す。

 中央後方の席には王子さま。

 昨日は、『王子さまなのに一番前じゃないの?』と思ったが、着席してみると分かる。

 王子さまの背後から後頭部をずっと眺めているなんて不敬も不敬、やれと言われたって神経がもたない。

 頭を垂れて俯かざるを得ない、黒板を見られない。

 なる程よく観察すれば、最初から決められていた席順は、親が偉い者ほど後ろだ。

 席決めした担任、胃が痛かったろうな。


 王太子が後ろから見ているってだけで、みんなピシッと背筋を伸ばしてダラけている子なんていない。

 良いことなのかな? 放課後ヘトヘトになっていそうだけれど。

 

 今度は横目で王子さまを見る。

 まさに白金、プラチナの中のプラチナブロンド。雪のような肌の目の下にだけ挿す桃色は、花のグラデーションのようだ。瞳はキラキラと水底に沈められた宝石。

 一度見始めたら目が吸い寄せられて離せない。

(まずい、まずい)

 ルカは頑張って前の黒板に向いた。



 一限目が終わった時、

 ルカはロッチの所へ行って、サロンに提出する報告書を作ろうと思った。

 ロッチの席は廊下側の最後列。そこだけは扉の近くだから、上流の者に好ましくない。

 彼が充てられたのは、不法侵入者に対する盾的役割だろうか。まぁロッチ強いもんな。

 ちなみに廊下には王太子専属の白服近衛が立っている。


 席を立つ前に、机に影が差した。

 ロッチ? 目を上げて

 椅子から尻がピョンと跳ねた。

(なんでっ? 何で居るの!?)


「あなた……えっと、名は?」

「ラ、ランスロット・ハサウェイでしゅ」

 ――噛んだっ


「そうか。わたしはローザリンド・エクター・サフィール・バッフェルベル」

 ――知ってましゅっ

(間近で見ると睫毛ながっ!)


「ハサウェイ卿、あなたにお願いがあるのだけれど」

 ――なななんですかっ!?

(王子さまのお願いなら何でも聞くべきだろうけれど、一存で決められない事もあるよ、例えばリリィを紹介してくれとかっ)


「席を交代して貰えないだろうか。嫌なら断ってくれても構わないが」

 ――・・・・・・


「わたしは、真ん中ではない方が好きなのだ……」


 王子さまは、皆がチラチラこちらを注目している教室を見た。皆は慌てて目を逸らす。


 ふと……、王子さまは、自分が他人に与えるこの超常現象みたいな影響を、気にしていらっしゃるんだろうな、と思った。

 だから入学式も、最小限の出席だけに留めたのかもしれない。



 ***



「それで席、替わっちゃったの?」

 ロッチは超小声で話す。


「だって、『駄目なら他をあたるから気にせずともよい』って、ロッチの方を見るんだよ。駄目だろ、王子さまが出入り口の横とかっ」


 二人は、逆光の窓辺で涼やかに外を眺める王子さまをチラと見た。


「余計に絵になって、破壊力が増しちまわないか?」

「ご本人が、端っこが落ち着くって仰るんだから」

 それで確かに前の方の生徒は、真後ろからの圧が軽減されて、心なしかホッとしている。


 真ん中は真ん中が好きな人間が座ればいいんだよと、ルカは視線だけで横を示した。

 かつての王子さま席には、サロンに呼ばれた時の真ん中男子が座っている。某侯爵家の三人兄弟の真ん中らしい。

 彼は、教室の最高位席にいきなり見下していた庶子が移って来たので、不機嫌に睨み付けて来た。

 『変わります?』と聞いたらあっさり交代してくれて、お陰でルカはロッチの隣になれた。報告書が捗って助かる。



 昼休み。

 書き上がった報告書を持って、ルカとロッチは中央棟へ駆けた。

 とっととサロンの用事を済ませて、中庭に行くのだ。

 だって今日のランチは……!


『ソフィーお婆様が、三人で召し上がれってお弁当を持たせてくれました。私もジェフに教えて貰ってちょっとだけ手伝いました』


 朝、教室の別れ際に、リリィが恥ずかしそうにバスケットを掲げた。


 女子とランチ!

 そんなイベント学園生活で発生すると思っていなかった二人は、俄然、報告書に力を入れた。

 完璧に仕上げて行って、サロンで時間を食わないようにしないと!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ