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008 教官の仕事




「いいかねE級の新人冒険者達君。『世界樹の葉』は、この1層の至る所に散らばって落ちている。しかしだ、1層は広い。広すぎる。偶然落ちているのを探していては、効率が悪いのだ」


 私は、新人若手お気楽E級冒険者を更生させた手腕を評価されて、E級冒険者専属の指導教官に抜擢(ばってき)された。今は、その第10期生の指導中だ。


「今日は、北から南に向けての風が強い。こんな日が、葉の吹きだまりを見つけるのに適した日だ。そして、これが捜索の秘密兵器だ」


 私は枯れ草を編んで丸くしたボールを持ち上げて新人達に見せる。西部劇に出てくる『タンブルウィード』つまり回転草である。


「これを風に乗せて転がす。そしてそのあとをついて行く。結構速いぞ。身体強化ができるやつが中心になって追いかけろ。さあ、始めるぞ」


 後は、ひたすら追いかけるだけだ。長い時は、5キロメートルぐらい追いかけることになる。体力勝負だ。




 やがて、回転草が石に引っかかって止まった。その周りを見渡すと、他にも石が点在していて、いろいろな葉がその周りに吹きだまりになって盛り上がっている。


「よし、見つけた。ここが、葉の吹きだまりだ。後は、木の葉を分別して『次元箱(じげんばこ)』に入れていくだけだが、後続隊がまだ到着していないので、少し休憩だ。魔法組は合図を送れ」


 火魔法が使える冒険者が、火の玉を空に向かって打ち上げる。目的の場所がここだという合図だ。




「カナデ教官。次元箱ってどんな仕組みなんですか」


 一番若い見習いE級冒険者の『ナヴァル』が訪ねてきた。まだ9歳だが、身体強化魔法が使えることが分かり、家族の生活の足しになればとアルバイトのような待遇で参加している。


「私も使い始めてまだ2ヶ月ちょいだから詳しいことはわからないが、7層より深いエリアの樹魔が、濃い魔素を100万年以上取込続けると『次元樹(じげんじゅ)』という種類に進化するらしいんだ。それを、素材研究所の専門部署が加工して次元箱にしているらしいよ」


「使う時に気をつけなればいけないことは何ですか」


「次元箱の中に生きたままの生物は入らないこと入れっぱなしだと中身が劣化してしまうこと、後は、容量を超えて入れてしまうと中身が飛び出してくることかな。まあ、飛び出す部分は、安全装置がついているから心配ないけどね」


「わかりました。今カナデ教官が腰につけているのも次元箱なんですよね」


と、ナヴァルがうらやましそうに私の腰を見た。




 冒険者は、ほぼ全ての人が携帯用次元箱を身につけている。


 大きさは、2L写真ぐらいだ。容量は、60リットルのリュックサックぐらいある。


 森で野宿ができる装備と7日分位の保存食が入っている。D級になると冒険者ギルドから支給される。C級になると容量増や付随(ふずい)機能がついた自分の好きなタイプを買うことができる。


「12歳になれば、D級に昇格できるから、それまでは我慢だな」


 私が9歳の見習いE級冒険者の頭をなでながら慰めていると、今話題になっていた『次元箱』を積んだ魔鳥車が到着した。




 魔鳥車は、鳥型魔物『賢魔鳥(けんまちょう)』が牽引(けんいん)するリヤカーみたいな荷物車だ。1層では必需品だ。


 魔鳥車には、色の違う同じ形、同じ大きさの箱が5個積まれている。サクラさんと初めて会ったときに地面に散らばっていた箱と同じタイプの箱だ。どうやらあの時は、3層での仕事を終えた冒険者から運搬を依頼された帰りだったようだ。


「休憩は終わりだ。これから葉の分別作業をする。集める葉の色は、緑色、赤色、黄色、茶色だが、特に今日は緑色の葉が欲しいという依頼なので、緑色を優先して集めてもらうことになる。作業時間は1時間を予定している。では、作業開始」




 私とお気楽冒険者がやらかした予算がなくなるという騒ぎがあってから、世界樹の葉やE・D級魔物素材の買い取りに上限が設定された。


 私の考えた素材集めの効率化によって、安定して一定量の素材を確保できる見通しが立ったので、余分な買い取りの必要がなくなったというのも理由の1つだ。


 このことによって、E・D級冒険者の働き方改革が加速することになる。今までのように、落ちている葉を求めて、広い1層を長い時間をかけて歩き回らなくてよくなったのだ。


 また、加工をする工場の働き方も改善された。必要な素材が、安定して供給されるので、計画製造が可能になった。つまり、ただ働きだった残業がなくなり、定時で帰れるようになったのだ。


 定時帰宅が可能になり、収入も少し増えたことで、町の酒場や飲食店、小物売り場などでお金を使う人が増えた。町の経済が、プラスの方向へ回り出したのだ。




「カナデ教官。緑の葉はどんなポーションに加工されるんでしたっけ」


 ナヴァルが色の選別作業をしながら質問してきた。


「緑色は『体力回復薬』だな。1層を走り回る冒険者が増えたので、今品薄らしい」


「なるほど、では、他の色はどんなポーションになるんですか」


「赤色は『魔力回復薬』黄色は『毒消しや消毒』だな。茶色は『分解促進』だ。これは、トイレで使っているからおなじみだろう」


「ああ、あの粉は茶色を使って作っていたんですね。粉をかけるとあれが土になるなんて誰が発見したんですかね。便利ですよね」


「ああ、おかげでこの町の衛生管理はかなり楽だな」


 下水道が必要ないので、インフラ工事がいらない。これは大きい。


 必要量の素材を確保したので、ここでの作業は終わりだ。物事には限度がある。私も学習するのだ。


「よし、予定より早いがここでの作業は終わりだ。今から帰れば午前中の納品に間に合いそうだ。この後、私も予定があるので、ここで解散にする。今から配る用紙が作業完了の証明書になる。各自でギルドの会計窓口に提出して依頼料をもらうように。何か質問はあるか……なければ解散だ。お疲れ様」




 証明書を配り、ギルドに帰ろうと魔鳥車にナヴァルと乗り込もうとした時に、ギンギツネ号が近づいてくるのが見えた。サクラさんだ。


「ああ、やっぱりあの火の玉は、ここで作業をするという合図だったんですね。来てみて正解です」


 そう言って、サクラさんがガッツポーズをする。


「カナデさん。私も配達が終わった帰りです。いっしょに帰りましょう」


 今日の午後は、サクラさんの試験勉強ストレス解消のため、いっしょに買い物に行く約束をしていたのだ。もちろん、決まるまでに一騒動があった。


「実は、ギルドに納品しないといけない急ぎの素材があるんです。それに、この魔鳥車も返さないといけません。それから、ナヴァルを家に送り届ける約束なんですよ」


 ナヴァルはまだ9歳だ。私が保護者の役割をする条件でここにいる。


「全部任せてください。ギンギツネ号で解決です」


 魔鳥車の荷台に積んであった荷物をギンギツネ号の後部座席に移した。


 魔鳥車は、身体強化ができないメンバーが使うというのでそのまま預けた。


「では、最速で帰りましょう」


「世界樹の枝」


 右手に小枝が現れる。『風の道』の高速移動だ。




 樹魔(じゅま)車両の高速移動型への変形は、通常なら案内人の言葉がけだけでできる。


 ただし、強いショック受けたときは、調整木琴で一度リセットするのだと、後でサクラさんに教えてもらった。




「さあ、出発しますよ。入り口の町まで一直線です」


 風の道が真っ直ぐ入り口の町の方向に向かって延びていった。その中をギンギツネ号が高速で進んでいく。いっしょに来た他のE級冒険者達は、それを呆然(ぼうぜん)として見送っていた。


 つくもがいた。


「ああ、ねこちゃんは私の護衛です。今日は、3層の奥まで行きましたから」


 御者台のサクラさんが教えてくれた。サクラ父が心配してつくも(猫)に頼んだらしい。


 猫が護衛? ……と、ナヴァルは困惑顔だ。


 入り口の町まで15分で来た。時速100㎞位出ていたんじゃないだろうか。ナヴァルは、初めて乗る樹魔車両に初めは緊張していたが、後半は「速い。速い」と大はしゃぎだった。


 ナヴァルを親元に送り届けた後、冒険者ギルドに向かった。


 そして、その後に、私が異世界転生してから最大の難関(なんかん)が待ち構えている。サクラさんと2人で町に行かなければ行けないのだ。


 何故そうなったか。


 時は少しさかのぼる。




(つくも)が最近遊びに来ないのでビオラ様がさみしがっている』


 この情報が、案内人ギルドから冒険者ギルドに伝わるのにそう時間はかからない。すぐさま、私の所に指名依頼を出す手続きが行われた。もちろん、フェロンの手によってだ。


「カナデー、指名依頼よー」


 フェロンさんの力が抜ける声がホールに響く。


「フェロンさん、何冗談言っているんですか、D級に指名依頼が来るわけないじゃないですか」


「案内人ギルド食堂の従業員からの依頼よ」


「……」


 なんだろ、なにかの食材集めかな。




 不思議に思いながらも、食堂に行って事情を聞いた。


「ビオラ様が元気ないのよ。きっと猫ちゃんが遊びに来ないからだと思うの」


「少ししか食べないのよ。ちょっと心配なのよね」


「猫ちゃんに遊びに行くように言ってもらえないかしら」


 はい、了解しました。言いますとも、「行け」と!




 つくも(猫)を連れて、カボーグ邸にいくと、3人の女性達がそわそわしながら待っていた。


「ねこちゃんいらっしゃい。お菓子があるわよ。一緒に食べましょうね」


 (つくも)は、ビオラ様に抱かれてあっという間に連れ去られてしまった。


 残ったのは、私とサクラさんとディナ(できるメイド)さんだ。


「母様ずるいです。私だって猫ちゃんと遊びたいです」


 サクラさんが頬を膨らませる。


「お嬢様、その責任は(つくも)の保護者にとってもらいましょう」


 ん…… 保護者っておれのこと?


「いい考えね。さすがはディナだわ。カナデさん、明日、仕事が終わったらいっしょに買い物に行きましょう」


「……」


 私が固まっていると、あのキラキラした目がさらにキラキラと輝き出す。


 ディナさんをチラッと見ると、すごい圧を感じる笑顔が張り付いていた。


「わかりました。明日は午前中で仕事が終わるように調整します」


 サクラさんのはじけるような笑顔がまぶしかった。




 嫌じゃない、美少女とのお出かけなのだ。嫌なはずがない…… あれ、そうなのか。前の世界では、そんなの面倒だったぞ。どういうことだ。


 おれは、楽しみなのか?





次話は明日7時10分投稿

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