SS12 偉業の報酬(8)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
所長室を出て、受付に行くと、すでに素材の査定が終わり換金されていた。
「ジェイド君、査定結果の説明をするね」
フェロンさんが、結果が書かれた書類を指さし説明を始めた。
「魔石は換金しないでの持ち帰りにするでいいわよね」
それでいい。
「活動停止状態での持ち込みがD級5体よ。素材は食肉用と毛皮ね。これが銀貨5枚」
換金用の樹貨銀貨を5枚テーブルに置く。
「次に、狂乱状態のC級が1体。これは、査定するのにかなりもめたわ。なにしろ、今までに一度も持ち込まれたことがない素材だからね」
何か心配なことがあるようだ。なんだろう。
「換金はしていないけど、称号持ちCプラスの『奇跡の魔石』はA級と同等の価値があるわ。金額は天井知らずよ。欲しがる貴族も多いはずよ。気をつけてね」
チラッとカナデさんを見た。カナデさんがうなずいている。なにか対策をしてくれたということだ。この人がやることに間違いはない。安心していい。
「素材は、高級食材と高級毛皮が金貨10枚」
樹貨金貨を置く。
「狂乱状態の角は……査定不能よ。オークションに掛けられるわ」
そう言って、フェロンさんは、お手上げをした。
相談した結果、オークションの売上金は手数料を引いて、ぼくがこれから作る口座に振り込むということで話はまとまった。
いったいいくらぐらいになるんだろう。お小遣いの補充にはなるだろうか。
換金用の樹貨を持って、行政区にある銀行へ向かう。
入り口の町では、金貨、銀貨を使わない。全て樹魔硬貨で取引をする。お金の価値がそれぞれの国で違うので、両替の時にその差を調整するためだ。そして、この硬貨はこの町から持ち出せない。なぜなら、樹魔の結界で弾かれてしまうからだ。
この仕組みは画期的だ。他国が経済的に攻撃をしたくても、この独自の硬貨がそれを許さない。完璧だ。
「ジェイド、口座の記録はギルドカードにされるから、だれも取り上げることはできないよ」
「うん、安心だね」
これなら、大人達も手を出せないだろう。その分、嫌がらせがひどくなるけど、もう、気にならない。ぼくには仲間がいる。困った時は、きっと助けてくれる。
なぜだか分からないけど、そう思わせる不思議な力を持っていると確信できる。
口座開設も入金もすべて問題なく終了した。
お金を引き出したい時は、その国の銀行か険者ギルドでできる。
これでこの町でするべき事は終わりだ。
この後は、入り口の町の観光をして、夜はカボーグ邸で食事会の予定だ。そう、説明されている。
そして、明日の朝早くにここを出発し国境に向かう。
ぼくはたぶん、そこで小さな戦いをしなくてはいけない。今までは、全てを諦めていた。でも、もうやめだ。全てを変えてやる。あいつらと戦う決意ができた。
だって、どうしようもなかったら、カナデとねこちゃんとサクラさんがベニザクラ号で迎えに来てくれる。絶対にそうなる。だから、安心して戦える。
「さて、ジェイド、この町を案内するよ。どこか行きたい所はあるかい」
「うん、素材研究所とパルトさんのお店に行きたい」
「わかった、じゃ、魔鳥車で移動だね」
「うん、それにも乗ってみたかったんだ」
魔鳥車が出発する場所まで歩いていると、いつの間にかねこちゃんがいた。ぼくの横をトコトコと歩いている。不思議な猫だ。やはり、ただ者ではない。いやただ猫か。
魔鳥車乗り場で、貸し出しの申し込みをしてくれた。便利な取極めだ。
名前はメガロというらしい。カナデさんに懐いている。
二人きりだ。いや、1匹いたか。でも、お礼を言わないと、
「カナデ、あらためてお礼を言わせてね。いろいろありがとう」
「子どもを守るのは、大人の役目だよ。気にするな」
「カナデって、まだ16歳だよね。そうか、16歳は大人なんだね」
「うん、まあ、そうだな」
なんだろう、歯切れが悪い。
魔鳥車が素材研究所の入り口に止まった。
なにやら研究員さんと話をしていたけど、無事解決したようだ。
見学許可は直ぐに出た。次元箱の製造工房には入れてもらえなかったけど、最新の素材研究の成果を見せてもらった。入り口の町は進んでいる。
ここで勉強がしたい。そう思う。
次にパルトの店に向かう。ここからだと10キロメートルぐらいの道のりらしい。町並みを見ながら進んだ。たくさんお話ができた。
パルトの店には、カナデさんの知り合いがいた。
「あんたが奇跡の魔石の子ね。うちはシンティよ、これはエル。よろしくね」
「あの角、ちょっとでいいから見てみたかったです」
ごめんなさい。オークションに参加すれば見られるかも。
ぼくは、ここで確かめたいことがある。あの存在達のことだ。
「パルトさんの家具見てもいいですか」
「どうぞ、こちらです」
パーソンさんに案内されてお店に行く。
目の前に、きれいな装飾がされた家具が展示されていた。
「聞こえます。『楽しい』と言っています」
はっきり聞こえた。
存在達の気配もはっきりと分かるようになった。
研究がしたい。この不思議な現象には訳がある。カナデさんはきっと、何かヒントをつかんでいる。そんな感じがする。だから、ぼくも見つけたい。カナデさんに少しでもいいから近づきたいんだ。
カボーグ邸のみなさんもみんな優しい人たちだった。カルミア様は奇跡の魔石に事で困ったことがあったら遠慮なく自分の名前を出すようにと言ってくれた。
ビオラ様も、遠慮なく自分たちを頼りなさいと言ってくれた。
そして、あなたにはとても澄んだ気持ちと偉業を達成できる力があるとも言ってもらえた。正直、何のことかはよく分からないが、この力がカナデさん達の役に立つなら嬉しい。
食事が終わった頃、ナツメさんが部屋に入ってきた。とても疲れている感じがした。
ナツメさんが1枚の書類を机の上に置いた。
「ジェイド、僕たちは君の本当の気持ちを聞いた。そして、考えた。君を助ける方法をね」
助ける方法? これ以上何を助けてくれるのだろうか。
「君はあの場所にいてはいけない。君の澄んだ心が淀んでしまう。ジェイド、君はもっと自由に生きていい」
ぼくだってあそこにはいたくない。でも、戦うための勇気をここでもらった。だから大丈夫!
「この書類は、僕たちからの気持ちだよ。君は自分自身を守るために何をするべきかを選択できる」
ナツメさんが、書類をすっと、ぼくの目の前に移動させた。読みなさいということだろう。
「入学許可証?」
何の入学なの?
「ジェイドスター・フォンターナを大陸総合研究所魔術学院初等部に飛び級入学することを認める」
「……」
どういうこと。
「お兄さんが、ジェイドの王宮での学習内容と魔道具の性能分析をした記録ノートを魔術学院に送っていたのさ。そして、飛び級入学ができないか相談もしていた」
「ジェイド君、その話を聞いて、私が推薦状を書いたんだよ。魔石の試練の結果もいっしょにつけてね」
カルミア様がにっこりと笑ってそう説明してくれた。
「ジェイド、選びなさい。国に帰って1人で戦うか、魔術学院で新しい未来を切り開くかを」
決まっている。あいつらに何を言われてももはや気にならない。ぼくは、カナデさんの役に立ちたい。そのために必要なことなら何でもする。そう、まずは、自分を守らなければいけないんだ。
「魔術学院に行きます」
みんなが笑っている。この選択で正解なんだ。
次話投稿は明日の12時10分になります




