SS10 偉業の報酬(6)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
「ジェイド、冒険者ギルドの素材処理室からまちぼうけの素材をどうするか聞いてきてくれって言われているんだけど、どうする」
え、わからないよ。
「どうすればいいの」
「全部売るか、ほしい素材をもらって後は売るか……かな」
ははは、どうやっても、持ち帰れば全て取り上げられる。
「うーん、どうしよう。お金にしても、素材にしても、国に持ち帰ったら全部大人達がもっていっちゃうよ」
「だよなー。ナツメさん何か盗られない方法ありますか」
ナツメさん、サクラさんの事で落ち込んでいるな。あの姫のやることを止められる人はいないよ。仕方ないです。
「ああ、まあ、そうだな。一番確実なのは、この町でジェイドの口座を作り、そこに貯金してしまうことだな」
口座か、ぼくは作れないよ。だって、子どもだもの。
「ジェイド、どうする。口座作るか」
「別の国で、子どもで、冒険者でもないのに口座が作れるの」
「うっ……わかりません」
だよね。気にしなくていいよ。
「冒険者になっちゃえばいいのよ」
サクラさん、そんなに簡単になれないよ。でも、本当になれたら嬉しいな。
「ぼく、冒険者になれるの」
「ああ、大丈夫だ。9歳までは見習いだが、10歳からはこの入り口の町の冒険者ギルドでならそれこそ誰ででもなれる。たとえ、それが他国の王族でもだ」
うそ、本当になれるんだ。入り口の町ってすごい。
「なら、明日の朝、ギルドでぱっぱと登録して冒険者になっちゃいましょう」
え、明日。そんなに早く。うれしい。
なんか、元気が出てきたぞ!
……すごい! ここ、樹魔車両の中だよね。
広い、そして、装飾がきれいだ。気持ちが澄んでくる。
「スゥー」
「なんだろう。この感じ、この洗練された装飾の周りから、暖かい、いや、楽しいという感情が感じられる」
いつもの明るく話しかけてくる存在とはちょっと違うかな。高貴な雰囲気がある。
「そうか、ジェイドは『分かる方』なんだな」
ナツメさんがうなずいている。どういうこと?
「分かる方って何ですか」
「パルトの装飾は、その周りから何かを感じる者と感じない者に分かれるんだよ。ちなみに、ここにいる3人は「分かる方」だよ」
あの声のことだよね。ここにいる人たちにも聞こえているんだ。ぼくだけじゃなかった。
「同じなんですね。うれしいです」
ははは、いつもの存在達が大喜びしている。君たちも嬉しいんだね。同じだね。
食事は美味しかった。サクラさんがごちそうって言っていたけど、そんな言葉では足りないほどの品揃えと味付けだった。
入り口の町の料理のレベルはぼくの国とは比較できないほど進化している。きっと、ねこちゃんが関係している。このねこちゃんもただ者ではない。
楽しい時間だった。4日間の思い出を分かち合える人たちがいる。穏やかで、あたたかくて、やさしくて、頼りになる。大人って、本当はこういう人たちなんだろう。
ぼくの周りにいるのは、大人ではない。駄々っ子の集団だ。情けない。
どうしたの? いつもぼくの周りにいてくれる存在達が騒がしい。
何が言いたいの。ぼくにどうして欲しいの?
ベニザクラ号のことを聞けばいいの? 変なの。
「このベニザクラ『白銀』きっとすごい新技術が詰め込まれているんですね」
「はあー ジェイド、今この部屋が、ギルド機密の中心だよ」
「兄様しつこいです。ジェイド様が言いふらすはずないじゃないですか。ねえ、カナデさん」
ははは、カナデさん。すごいタイミングで振られましたね。大丈夫です。言いふらしたりなんかしませんよ。
「えーとですね。こうしてはいかがでしょうか。ジェイドにも、国家機密を1つ話してもらいましょう。そうすれば、公平です」
「……?」
「カナデ、ぼくが知っている国家機密なんてないよ」
ぼくは子どもだよ。それに、父様も兄様も母様も、みんな忙しくてそんな話にもならないよ。
「あるじゃないですか。今、ジェイドがいる王宮内で、陰湿な人権侵害が起きているじゃないですか。他国の暇な貴族達が噂話にしたくてウズウズするような国家機密が」
それって……。
「そうね。ジェイド様。このベニザクラ『白銀』の最重要機密を知ってしまったのだから、ジェイド様も知っていることを包み隠さず話してもらいますよ」
サクラさん、ベニザクラ号の秘密と比べたら、ぼくの事なんて、どうでもいいことですよ。
それに、せっかくの楽しい夜を、あんな人たちの話題で台無しにしたくない。ぼくは、この時間が大切なんです。
もう、今日しかないんです。
「えっ、でも、こんな話聞いたって、なんにもおもしろくないですよ」
でも、でも、こんなつまらない話でも、聞いてくれますか……。
ぼくの気持ちを、話したい。
悲しい思いを知ってほしい。
大好きなこの人達に、知っていてほしい。
それだけで、これからも頑張れるかも知れない。
みんな、助けて!
「ジェイド、話してごらん。ここにいるのはジェイドの味方だ。そして、仲間だ」
仲間なんだ。初めて言われた。初めてできた仲間だ。
言ってもいいの? 王族だよ。
王族は、辛くても我慢しなくちゃいけないんだよ。
「にゃっ」
ねこちゃん。君も仲間なんだね。
仲間だから、話してもいいんだ。
我慢しなくていいんだ。
泣いてもいいんだ。
ぽろっ
ぽろぽろっ
「うわーん」
泣けたよ。
ずっと泣きたかった。
やっと、泣けたよ。
涙が流れる度に、気持ちがスッキリしていく。
涙と一緒に、悲しい気持ち、辛い気持ち、諦めの気持ちが洗い流されていく。
いくつもいくつも積み重ねてきた、心の鎧が、どんどん崩れていく。
鎧って、氷でできていたんだ。カチカチの氷で固まっていた鎧が、どんどんとけていく。
あたたかい。こここは陽だまりみたいだ。
心が軽くなっていく。
今なら、全てを話せる。だって、この人達は、どんなぼくだって、絶対に嫌いにならない。そう確信できる。
人って、こんなにもあたたかかったんだ。ねこちゃんの体と一緒だ。柔らかくて、あたたかい。
ねこちゃん、一緒に寝てくれるの。ありがとう。
あたたかい。
次話投稿は明日の12時10分になります




