SS8 偉業の報酬(4)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
2日目の朝が来た。
「ジェイド、朝食を食べたら、稽古をするぞ」
「ナツメさん、何の稽古ですか?」
「身体強化のだよ」
「……?」
目的がよく分からないが、この人達が無駄なことをするはずがない。きっと、意味がある。ならば、言われた通りにするだけだ。
「わかりました。よろしくお願いします」
「いつもやっているように、全身に身体強化を掛けて見なさい」
「わかりました。身体強化発動」
身体強化は、魔力があれば誰でもできるようになる。できなくても魔法陣を使えば補える。
ぼくは、一応属性魔法使いだ。大樹の森でなら王宮にいる時よりも強い魔法が使えるはずだ。
「うん、そのまま剣を振ってごらん。いつも通りのやり方でいいよ」
「わかりました」
いつもの日課だ。問題ない。
「なるほど、さすがはキレスだ。いい感じに仕上げてある」
ナツメさんが、筋肉の動きを見ながら感心している。兄が褒められていることは分かる。正直嬉しい。
「よし、いいね。ただ、腕の力に対して足の力が少し弱い。最近、一緒に練習していなかっただろう」
「はい、その通りです。兄は仕事が忙しいようです」
違う、本当は、邪魔をされているからだ。兄がやっと作った時間になると、いつもあいつがやってくる。そして、どうでもいい仕事を押しつけてくる。
「よし、ちょっと、体に触るぞ、いいかな」
「はい、かまいません」
ナツメさんが、筋肉のツボのような場所に手を置いて、軽く魔力を流してくれる。すると、筋肉がピクピクと動き、ほぐれていく。
「よし、この状態でもう一度、さっきと同じ動きで剣を振ってごらん」
「こうですか……え、剣が軽いです」
「脚力と腕力のバランスを調整したからだよ。いままでは、腕の力だけで剣を振っていたが、今は、体全体で振っているから、腕への負担が減ったんだよ」
なるほど、言っていることを理解できる。
すごい、ぼくはひとつ強くなった。
その日は、この筋肉が体に馴染むまで、軽い調整をして終わりになった。その後は、ゆっくりと体を休めるように言われた。
美味しい夕食を食べ、ねこちゃんに誘われて、早めに寝た。心も体も極めて健康だ。
* * * * *
3日目の朝が来た。
新しい事ができる。その期待と、ここでの生活が終わりに近づいていくというさみしさが入り交じった複雑な朝だった。
この人達といたい。ずっと、ここにいたい。その気持ちが抑えられない。王族としては失格だ。
「ジェイド、タイミングは剣と同じだ。耳をつかんでそのまま両足を拘束する。それで活動停止になる」
「うん、やってみる」
この人は、どうしてこんなにも段取りがいいのだろう。昨日の訓練も、このためだったんだ。
体が軽い。腕と足の筋肉がイメージ通りに動く。そう、このイメージするという感覚が完全にぼくの意志でできるようになった。
カナデさんが追い立てると、まちぼうけはびっくりして逃げてくる。
逃げてきた先には、人間が作った罠がある。それ避けてジャンプする。でも、君が来る方向をぼくは知っているんだ。ごめんね。
ぼくの腕に飛び込んでくるまちぼうけをただ捕まえるだけだ。誰だってできる。そして、こうなるように仕組んでくれたのがカナデさんだ。
「これでいいの」
「……」
何だろう、ジトーと見られている。ぼく、何か失敗したのだろうか。
でも、失敗したとしても気にならない。失敗することもこの人の中では想定内なんだ。だから、安心して失敗もできる。
(つれてきたよ)
(笑って)
(うつくしい)
今日も、あの声が聞こえる。そして、魔物を連れてきてくれているような気がする
その日の内に、ぼくは5体のまちぼうけを活動停止にした。
今日はこの場所までベニザクラ号が迎えに来てくれるらしい。あの背中で心地よく寝たいという気持ちもあるけど、こうして、2人で話をするのも悪くない。
「ねえ、カナデ。霧散と活動停止はどう違うの」
王宮では教えてくれない。
「霧散は、体が霧状になり消えてしまい魔石だけが残る。活動停止は、魔素の成分が体に残った状態で動かなくなるんだ」
「動かなくなるのは、死んだということ」
「そこは、よく分かっていないけど、次元箱に入るということは、生命活動は停止されたということになる」
「ああ、だから活動停止なんだね」
「そうだよ。魔物がどうやって生まれているのかを確認できた事例はまだないんだ。ただ、鹿型魔物だけが、子育てらしきことをしていることが確認されている」
「子どもを育てているってこと」
「子どもなのか、小さな個体なのかは分かっていないんだ。なにしろ、生まれた瞬間を誰も見たことがないんだよ」
「ふーん。そうなんだ……」
ぼくが知らない世界だ。冒険者ならいろいろなことを自分の目で見て調べることができる。自由だ。ぼくも、冒険者になりたい。ははは、無理だけど。あの意地悪な大人達がそれを許してくれるはずがない。
せめて、この時間だけでも冒険者になりたい。
「まちぼうけは剣がかすっただけでも霧散したけど、もっとランクが上の魔物はどうなるの」
「さすがに、A級、S級の事は分からないけど、C級の猪型魔物『まっすぐ』は、もう動けない状態まで切られたら霧散するよ。それと、首を切られたり心臓の致命傷でも霧散するね」
「霧散すると、残るのは魔石だけなんだよね」
「そうだよ。だから、パーティーを組んで、霧散させないように捕獲しないと素材は手に入らないんだよ。それができるのが、C級以上の冒険者さ」
「すごいね。カナデはC級なんだよね」
国の大人達が言っていることと全く違う。「冒険者は礼儀も知らない粗暴な者だ」大人達はそう言って笑っていた。
礼儀を知らない粗暴な者とは、ぼくの周りで執拗に意地悪をしてくるあなたたちの事だ。
冒険者は、魔物との共存を模索しながら自分たちの技術を磨いている一流の人間だ。ぼくが憧れるのは、そんな人たちだ。
帰りたくない。あの醜い世界に帰りたくない。誰か助けて、ぼくを助けて。
あれ、「だれか助けて」こんな気持ちになれたのは何年ぶりだろう。しばらく忘れていたよ。
ぼくは、考えるのをやめたんだった。だって、いくら考えても解決できないことがある。ぼくは王族だから、王族としての役割を演じなくてはいけないんだ。
そう、ここでの生活は最後の思い出になる。この思い出で、ぼくはしばらく頑張れる。
ぼくは絶対に泣かない。そう決めたんだ!
次話投稿は明日の12時10分になります




