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007 お気楽E級冒険者

 



 私は、新人E級冒険者である。つまり、お受験の他に、冒険者としての活動もしなくてはならない。というか、そもそもこっちが本来の姿である。


 なのにだ、今、冒険者ギルドの所長室で、ラウネンさんから説教されている。




「確かに言ったよ。好きにやっていいってな。それから、昇格試験に向けての実績作りだから、遠慮なくやれっ、とも言ったよ。だがなぁ、物事には限度ってもんがあるだろう」


 ラウネンさんが、素材部からの報告書のような物を見ながら、頭を抱えている。


「いや、限度と言われても、別に休みなくひたすら作業をしたんじゃないですよ。しかも、午前中は試験勉強もあったんです。作業できたのは、移動時間を入れて午後の5時間ぐらいです」


 私が、暗に試験勉強が余計だ……ということを臭わして反論すると、


「だからだ、そんな短時間でなんでこんな成果が出るんだって言ってるんだ」


「そんなの、魔物の生態をよく観察すれば、どうやったら効率的に捕獲できるかわかるじゃないですか。『世界樹の葉』集めだって、どこに行けば吹きだまりになっているかがわかれば、簡単に集められるでしょう」




 日本の貧乏研究者を舐めるなよ。少ない予算と限られた勤務時間の中で成果を出すには効率よく仕事しなきゃならないんだぞ。


 日本での生活を思い出しながらプンスカ(いきどお)っていたら、ラウネンさんが折れた。


「わかった。もういい。おまえ、昇格な。今日からD級だ」


 ん、また多言語翻訳君の誤変換かな。


「おまえのD級での仕事は、新人若手お気楽E級冒険者の指導だ。がんばれ、その効率化ってやつをたたき込んでやれ」


「なんでしょう。その『新人若手お気楽冒険者』っていう肩書きは……嫌な予感しかしませんけど。っていうか、私、E級になってまだ7日目ですけど……」


「うるせえ、その7日間で、通常の3ヶ月分の素材を1人で集めたのは誰だ。その調子でやられたら、他のやつらの仕事が無くなるわ」


 かなりのお怒りである。これからは自重しよう。







 新人指導1日目。指定された場所に行くと、明らかに私を馬鹿にしたような態度の若者達が待っていた。うん、気にしない。私は自重するのだ。


「今日から、君たちの指導をする事になった。D級冒険者のカナデだ。よろしく」


 5人からの返事はない。まあいい。私は自重するのだ。


「君たちの強さはどのぐらいのレベルなのかな」


 私が尋ねると、やっと反応があった。


「俺のレベルは、すでにD級並だぜ。あんたよりはきっと強いぜ。なあ、アルバ」


 リーダーと思われる体ががっしりした男が挑戦的な視線を向けてきた。


「そうね、どう見てもボワの方が強そうよ。なんでこんなひょろっちいのに指導されなければいけないのか理解できないわ。ねえ、マレッサもそう思うでしょう」


 真面目で気難しそうだが、整った容姿のメガネの女の子が不満そうに言うと、


「えー私は別にいいよ。だって、この子かわいいしー。それに、ラウネンさんがすごい強いぞって言ってたものー。きっと強いのよ。ローシャはどう思うのー」


 明るく元気そうなかわいい系の女の子だ。ただ、しゃべり方が軽い。


「あの筋肉おっさん、いよいよぼけてきたんじゃ無いかと思うぜ。こいつを見ればよ」


 すごく馬鹿にした言い方をしてきた。いちばん態度が悪い。剣を持っているので剣術の身体強化ができるのだろう。まあ、イケメン風の男だ。


「す、すみません。ぼくは、シケットと言います。この中では、いちばん弱いです」


 最後に、おっとりした感じの男が自信なさそうに自己紹介をした。




「あーまあ、私はこんな姿だから、そう思うのも仕方ないか。まあ、いい。それじゃ、いつもどんなふうに魔物を捕獲しているのかやって見せてくれないか」


 なんか、面倒くさくなったのでいろいろ流した。私の、やってみてくれの言葉で、ボアが動いた。


「じゃぁ、俺からだな」


 ……ん、俺から? チームで狩りをするんじゃないの……


 ボアが1人で歩きだした。目指すのは、先ほど草むらに逃げ込んだ兎型魔物『まちぼうけ』だ。



 ボアが待つ…………



 ボアが待つ…………




 ボアが待つ…………




「おい、いつまで待つつもりだ」


 たまらずに聞いてみると、


「飛び出ししてくるまでに決まっているだろう」


 何のちゅうちょもなく答えやがった。


「……おまえ、その方法で今までどのぐらい活動停止にした」


「活動停止、何でそんな面倒なことをするんだ。霧散(むさん)させるに決まっているだろう」


 『まちぼうけ』は弱い魔物だが、臆病で警戒心が強いうえに逃げ足がずば抜けて早い。つまり、追いかけてもつかまらない。確かに霧散させるのが一番楽だ。


「あー、一応聞くが、君たちは、協力して狩はしないのか」


「何言ってるの、私たちは、何の経験も無いただのE級じゃないのよ。みんなが家族にしっかり指導を受けた実力者よ。何で協力なんてしなくちゃいけないのよ」


「アルバの言う通りだ、『まちぼうけ』なんて、俺の剣がかすれば直ぐに霧散するぞ。そんな弱っちい魔物に苦戦するのは、おまえぐらいだ」


 ローシャが腰の剣をぬいて私の方へ剣先を向けてきた。


 その言葉で理解しました。なぜ、この若者達が『お気楽』と言われているのかを……。


こいつらボンボンだ。裕福な家庭でぬくぬくと甘やかされて育ってきた奴らだ。つまり、性根からたたき直さなければいけない奴らだ。


私の教官魂に()がともった。




「ああ、よーくわかったよ。おまえらがポンコツだってことがな」


「何だと。誰がポンコツだ。取り消せ」


 ローシャとボアの頭上に赤玉が浮かび上がった。よし、敵認定だ。


「挑発に直ぐ乗る、そういう所がポンコツなんだよ。いいか、おれ1人でお前ら5人まとめてボコボコにできるんだぞ」


「できるもんならやってみろ。逆に俺の剣でボコボコにしてやるぜ」


 好戦的だな。剣に自信ありか。


「では、こうしようじゃないか。お前ら5人でパンチでも剣でも魔法攻撃でもなんでもいいから、とにかくおれに一発でいいから当ててみな、弱っちいD級にかすりもしなければ、間違いなくお前らはポンコツ確定だ」


「本当にいいの。私の魔法はC級並よ。それに、ボアのパンチだって、本気ならC級よ」


 お、軽い口調をやめたな。こっちが素か。


「ああ、かまわないさ。C級といっても、ここは1層のエリアだ。魔法の威力は制限されてしまう。問題ない」


「問題ないって言っているんだ。怪我してもそいつの責任だ。さあ、早くやろうぜっと」


 ローシャがいきなり斬りかかってきた。それをスッと避ける。


 色は赤玉のままだ。やはり「怪我ぐらいで勘弁(かんべん)してやるぜ」ということか。どこまでも舐めた態度だ。


 なら、遠慮はしないぞ。


神装力(しんそうりょく)第三権限貸与開放、身体強化『俊足しゅんそく』発動)


 その場からふっと消えて見せた。


 もちろん、本当に消えたわけではない。視線誘導をして高速で彼らの真後ろに移動しただけだ。でも、私をにらみつけていた5人には、私が消えたように見えただろう。


「なっ、消えただと。ふざけるな、どこにいった」


「どこを見ている。おれは真後ろだぞ」


 びっくりした4人がさっと後ろに飛び下がり距離を取る。そして戦闘態勢に入った。


 なるほど、言うだけのことはある。1人1人の実力は、かなりありそうだ。赤玉は、ボアとローシャの2人だけだ。マレッサとアルバは無色だ。シケットは、戦闘に参加すらしていない。じっとこちらを見ている。


「こいつ、できるぞ。気をつけろ」


「俺とローシャで仕掛ける。マレッサ、火の球で動きを誘導できそうか」


「わからないわ。でもやってみる」


 ボアが指示を出す。残り2人がうなずく。


 なんだ、ちゃんと連携できるじゃないか。では、


「見せてもらおうか。新人若手お気楽E級冒険者の実力とやらを……」


 何言ってるんだこいつ……という顔で睨まれてしまった。




「火の玉」


 マレッサが小さめの火の玉を手のひらの上に作り出す。魔法の展開は速いほうだろう。確かに、1層でこの魔法規模ならC級並だ。


 この世界の魔法は、体内に蓄えられた魔力で発動する魔法と外部の魔素を取り入れて魔法の威力を高めるという2つの方法が使える。


 そして、魔素はこの大樹(たいじゅ)の森の深度が深くなるほど濃くなる。つまり、深度が深くなるほど強力な魔法が使えるようになる。


 マレッサが、火の玉を小さく維持したまま、私を牽制(けんせい)する。言い判断だ。今回は、当てればいいのだ。大きな魔法は必要ない。


「仕掛ける」


 ボアが左から身体強化したパンチを当てに来る。右は、マレッサの魔法の効果範囲内だ。動けない。私が後ろに下がると、回り込んでいたローシャが、


「そう来ると思ったぜ。馬鹿め」


 剣が水平に迫ってくる。後ろから狙うとは卑怯な奴め、まあいい、ヒョイと屈みながら両手で空気を前に押し出した。風圧で3メートルほど後ろにスライド移動をする。


「なんだと。これを()けるのか」


 ローシャがびっくりして振り返り追撃をするが、その時私はすでに3メートル後ろだ。


 そこに、ドライブシュートのような火の玉が飛んでくる。


「3つならどう、避けられる」


 マレッサの火の玉が立て続けに3つ飛んでくる。


 後ろにはアルバがいた。どうやら支援魔法を放っているようだ。なるほど、アルバは支援系か。連携した連続魔法は高度な魔法だ。なかなかやる。


 私は、地面を蹴って右側にある樹木めがけて跳び、木をクッションにしてそこから斜め前にある大岩に飛び乗り『ねこパンチ普通』を打つ。


 大岩が粉々になる。


「なっ……」


 全員が口をあんぐりと開き棒立ちになる。

 

 飛び散った大岩のかけらが浮かんだまま地面に落ちるまでの短い時間で小さめの粒を選び、その小石を人差し指ではじいてローシャの剣を30メートル後方へ弾き飛ばす。


「えっ何が起こった。俺の剣はどこに行った」


 ローシャは、自分の剣を探してオロオロしている。戦意消失だ。


 そのまま、びっくりして動けないでいる2人の側まで、一気に跳躍し『ねこパンチ風圧』で3メートルほど吹き飛ばす。


「勝負あったな」


 俺がそう宣言した時に、シケットが後ろから木の棒を無言で振り下ろした。


 それをスッとよけ、そのまま棒を踏んづけた。


「やっぱり、後ろに近づいたのが見えていたんですね。すごいです」


 一番冷静に戦局を見ていたのはこの男だ。油断ならないタイプだ。


「こ、こうさんよ」


 アルバは、両手を挙げて降参状態だ。


 今度こそ、本当に終了だ。


「さて、もう一戦やるか」


 5人全員が、首をブンブンブンと高速で左右に動かした。




「お前らは何者だ」


 私が尋ねる。


「はい、教官。私たちは、新人若手お気楽E級冒険者であります」


 お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。


「お前らは、強いのか」


 私が尋ねる。


「いいえ、弱っちいD級冒険者にボコボコにされるほど超弱っちいE級冒険者です」


 お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。


「お前らは、偉いのか」


私が尋ねる。


「いいえ、私たちは甘えた考えの強くも偉くもないただのE級冒険者です」


 お気楽冒険者達が、直立不動で声を揃えて答える。


「よろしい。それがおまえ達に対する正しい評価だ。肝に銘じて今後の行動を改めるように」


「了解しました。教官」


 こうして、私と新人若手お気楽冒険者達の冒険(たん)が始まった……はずだった。







 今、冒険者ギルドの所長室で、ラウネンさんから説教されている。


「確かに言ったよ。あいつらに効率化をたたき込めって。だがなあ。物事には限度ってもんがあるだろう」


 ラウネンさんが、素材部からの報告書のような物を見ながら、頭を抱えている。

 

「どうやったら、あの、お気楽問題児達が心を入れ替えて、しかも、1ヶ月で通常の半年分の素材を集められるようになるんだ」


 あれ、これ怒られる案件なの? 褒められるべきじゃないの? どうして俺は怒られているんだ。納得できない。


「あのー。私は、なぜ怒られているのでしょうか」


 素直に疑問点を聞いてみた。


「素材部の買い取り予算がなくなったんだよ。これから、追加予算をお願いに町役場までいかなければいけないんだよ。てめえのせいだ。どうしてくれる」


 ……知らんがな……







 この問題は、思わぬ所からの支援であっさりと決着がついた。


 それは、『新人若手お気楽冒険者』改め、『将来有望若手E級冒険者』になった5人の裕福層家族からの莫大な寄付だった。


 家族の悩みの種だった問題児が将来有望になった事への感謝の気持ちからの行動だ。


 私を抜擢したラウネン所長も先賢(せんけん)の目があったと、評価がうなぎ登りだ。講義前のお夜食が少し豪華になった。


 C級スター冒険者昇格試験まで、あと2ヶ月に迫っていた。


 俺のスローライフ、スローリサーチはどんどん遠のいていった。




次話は明日7時10分投稿

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