SS7 偉業の報酬(3)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
1日目の朝が来た。すごく気持ちがいい朝だ。
朝起きた時、すでにねこちゃんはいなかった。でも、いい。眠りにつくまでのあの幸せなひとときを味わえた。ありがとう。ねこちゃん。
朝食を食べた後、ぼくは、カナデさんと一緒に狩に出た。サクラさん達は何か別の用事があるようだ。
移動は歩きだ。狩り場はこの近くなのだろう。
「ジェイド、狩り場までだいたい20キロメートルぐらいある。なので走るぞ」
え、走るって言ったの。20キロメートルって、訓練でも走らない距離だよ。それに、ぼく子どもだよ。
「背中に乗れ、ちょっと揺れるぞ」
いわれた通りにするしかない。
風のようだった。揺れると言ったが、気になるほどは揺れない。なお、眠くなるような心地よい揺れだ。
人の背中って、こんなにもあたたかいんだ。覚えている限り、3歳頃までしかおんぶをしてもらった記憶がない。それも、父親だったのか兄だったのかも曖昧だ。そんな記憶しかない。
30分ぐらいだろう。目的地に着いていた。ここちよい揺れの中でうつらうつらとしてしまった。
「ジェイド『まちぼうけ』は、魔物としてはすごく弱いけど、その警戒心と逃げ足はC級といってもいいほど捕まえるのが難しいんだ。だからD級認定なんだ」
「カナデ、そんなに逃げ足が速い魔物を冒険者達はどうやって捕まえているの」
冒険者のことが知りたい。カナデさん達のことが知りたい。
「1人では無理だ。だから、パーティーを組み、協力して捕獲するんだ」
「だとしたら、ぼくは難しいね。1人しかいないよ」
「だいじょうぶ。私の考えた方法なら、1人でも捕獲できるから安心して」
カナデさんが言うと、本当にできそうな気がする。不思議な人だ。
「ジェイド、まちぼうけは、縄張りを作るんだ。まあ、他の魔物もそうなんだけどね」
カナデさんが、草むらと木が点在している場所を指さしている。
「ここは1層なので、魔物はE級かD級しか生息していない。そして、魔物ではない動物のほとんどは、ここでしか生活していない。なぜだか分かるかい」
「3層より深い場所の魔物は強くなっているからだよね」
「その通り、魔素が濃くなると、魔物は強くなる。魔物じゃない動物は、たとえ凶暴な猛獣でも、C級の魔物にはかなわないんだ」
合っていた。うれしい。
「じゃ、話を戻すね。まちぼうけは、あのような草と木が所々に点々と生えている場所を縄張りに選ぶ習性がある」
カナデさんの後をついていく。
「ここを見てごらん。足跡と糞があるだろう」
カナデさんが指さした場所には、丸い粒のような糞が転がっていた。
「ほんとだ」
おもしろい。初めて見た。
「まちぼうけは、こうやって糞をまき散らして、ここは自分の縄張りだと他のまちぼうけに伝えるんだ」
カナデさんが30メートルほど離れてまちぼうけが現れるのを待つと言った。
いつ出てくるか分からない魔物を待つなんて本当なら不安になる。でも、カナデさんが言うと、必ず現れると思うことができる。不思議だ。
10分ほどで、鼻をヒクヒクさせながらちょこちょこと動いては止まり動いては止まりを繰り返す兎に似た魔物が姿を現した。
「まちぼうけは、食事をすると糞をする。つまり、糞がある場所は、まちぼうけの食事場所だ」
「だから、カナデは糞を探していたんだね」
カナデさんがぼくの頭を軽く撫ででくれた。気持ちがいい。
あいつらがいたら目をむいて「不敬だ」と抗議しているだろうな。おまえ達の普段の態度のほうがよっぽど失礼だ。
「ふふふ、国では頭を撫ででくれるのは母さんと兄様ぐらいだよ。この町は、貴族の特権がない過ごしやすい町だね」
そう、この入り口の町は、貴族特権が行使できないこの大陸唯一の場所なのだ。
「ジェイドは、特権がきらいなのかい」
「特権は、ぼくじゃない周りの大人達が使う物だよ」
ぼくの周りの大人達は、ぼくの王族という立場を利用しているだけなんだ。
自分たちに都合がいいように言いくるめて、ぼくではない、自分たちの自己満足を満たすために、慣例だと言っていろいろな事を押しつけてくるんだ。
「ジェイド、まちぼうけの動きで、線が重なる場所は見つけられたかい」
黒板とはすごい発明だ。きっと、カナデさんのアイデアだ。書いて消せる。何度でも書いて消せる。これがあれば、勉強はもっと効率よく覚えることができる。
カナデさんは教え方がうまい。ぼくが欲しい答えをくれる。イメージが何かを確実に理解した。これは、魔法でもきっと応用できる。
「うん、大体分かった」
「よし、じゃあ、次は罠の張り方を教えるよ」
「うん。おねがい」
「いいかい、まちぼうけは、人間が作った罠には絶対にかからない。ならどうするか。答えは、罠の罠なんだ」
「……?」
「いつもマーキングをする場所に、人の臭いがする物が置いてあったら、まちぼうけはどうするかな」
「さける……だよね」
「その通り。そして、追いかけられて半分パニックになっていた時にそうなっていたらどうする」
「やっぱりさけるよね」
「そう、本能でさけるんだ。まちぼうけのやっかいなところは、逃げるためにジャンプした時、どの方向にジャンプするか分からないことなんだ」
「わかった。本能で、線が重なったところにジャンプするんだ」
「正解。そこに剣を差し出すだけで、まちぼうけは霧散する」
分かりやすい。そして、ものすごく効率的だ。この人は本物だ。
追いかける役はカナデさんがしてくれる。きっと、カナデさんなら、身体強化をしてまちぼうけよりも早く動けるはずだ。
ぼくのために手加減をしてくれている。その気持ちに応えなければいけない。
言われた通りに待ち構えていると、声が聞こえてくる。
(つれてきたよ)
はっきりした声ではない。本当に聞こえているのかも分からない。たぶん、心が感じているんだ。
「やったよ、カナデ、これで3つ目だ。すごいよ、ぼく、本当に1人でD級の魔石を確保したよ」
ぼくが、心からの笑顔で笑うと、あの声が喜ぶんだ。
(たのしいね)
(美しい)
喜んでくれている。よかった。
「いや、ジェイド。俺だって初日は1個だったぞ……」
え、そうなの?
カナデさんにも、あの声が聞こえるんだろうか。
聞くのは怖いな。変なやつだと思われるかも知れない。
「さて、ジェイド。今日はここまでだ。そろそろサクラさんたちが戻ってくるから移動するぞ」
「うん、わかった。カナデ、またおねがい」
ぼくは、あのあたたかい背中に飛び乗った。
ぼくは、カナデさんの背中でいつの間にか眠っていたらしい。起きた時は、ベッドの中だった。
グルグルギュー
はずかしい。お腹が鳴った。王宮では鳴ったことが無い。
「ジェイド君、夕食の準備ができているわよ。今日は、お肉よ。たくさん食べてね」
サクラさんは本当にきれいな人だ。エルフってどうしてこんなにも整った顔立ちをしているんだろう。
「ボクのお腹はどうなってしまったの。お肉がいくらでも入っていくよ」
これで3回目のおかわりを完食した。王宮で食べるよりかなり大きいお肉だ。なのに、まだ入りそうだ。
「ジェイド、今日はそれだけ頭と体を使ったということだよ。使った分のエネルギーを体が取り戻そうとしているのさ」
理屈があっている。正しいことを言っている。
「そうなんだ。じゃあ、体がいいと言うまで食べていいんだね」
とことん食べてみよう。何事も挑戦だ。
「まあ、限度はある」
ナツメさんが、ハラハラしているぞ。食べ過ぎはよくないのか。なら、これで終わりにしよう。
うー、動けない。お腹がいっぱいだ。5皿目に手を出さなくて正解だった。
無性に眠い。あれだけ寝たのにまだ眠い。王宮ではこんなことはなかった。
「にゃー」
ねこちゃんが来てくれた。癒やされる。スリスリしてくれる。かわいい。え、寝室に行っちゃうの。え、ぼくも来いってこと?
モフモフ! あたたかくて柔らかい体!
「ぼくも寝ていいですか」
みんながうなずいてくれた。なんだろう、このあたたかな世界は。ずっと、ここにいたい。そんな気持ちになってくる。
次話投稿は明日の12時10分になります




