SS6 偉業の報酬(2)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
ベニザクラ号の中には、予想通りの人物が待っていた。
「マイアコス王国第5王子ジェイドスター様、お待ちしておりました。今回の旅の案内人は、サクラとカナデが務めさせていただきます」
ははは、冗談がきつい。大陸の姫と第5王子だぞ。
「セルビギティウムの姫様。そうかしこまらないでください。身分で言うと、私よりもサクラシア様の方が上ですよ」
ちょっと、楽しくなってきたぞ。
「ふふふ、2人ともそこまでにしなさい。ここにいるのは、ただのマイアコス王国の国民と新米C級案内人のサクラだよ」
ナツメさんだ。兄の友人になる。といっても、200歳以上離れているはずだ。兄が言うには、恩人だとも言っていたな。
「分かりました。では、ジェイド様とお呼びしますね。私のことはサクラでお願いします」
はは、様もいらないが、一応依頼主ということか。
「はい」
「では、今後の予定を説明しますね」
なんだ、あの緑色の板は、何に使う?
「まず、入り口の町までの移動になります。私の風に道なので、途中で休憩を入れて7時間ぐらいです。今から出発して、午後5時頃の到着予定です」
ナツメさんも承知している。つまり、兄と連絡をとっているということか。ならば、それに従うまでだ。
「入り口の町では、宿は取りません。そのままアルベル湖で簡易宿泊型での滞在になります」
もちろん意見はない。お任せだ。
「その後の細かな打合せは、夕食の後でになります。何か質問はありますか」
あの板に書かれている文字は、消せると考えてよさそうだ。誰の発明だ。学習方法が根本から変わるぞ。
「出発します」
いよいよか、ちょっとだが、楽しくなってきたな。こんな気持ちになるのは何年ぶりだろう。
この樹魔車両は揺れないな。マイアコス王国製の前輪は使っていないはずだ、双子の樹魔だと聞いている。それが理由だろう。詮索はよくない。ここまでだ。
グリーンベルト沿いの草原か。初めて来た。広いな。外の世界はこんなにも広いのか。
「私、C級になったので高度は10メートルまで上がれるようになったんです」
姫が嬉しそうだ。噂通りの活発な人だ。
「じゃ、始めますね」
「世界樹の枝」
「ベニザクラ『白銀』高速移動型になって」
「シャラララーン」
「風の道」
いったい何が起こっているのだろう。樹魔車両が変形したということしか分からないぞ。
「相変わらずのきれいな風の道だ。しかも、今回はリムジン型のままでそれを成功させるのか……」
ナツメさんが驚いている。S級を驚かせる風の道か。
「発進します」
衝撃も、音もなく静かに景色が後ろに吹っ飛んでいった。
「すごいねこれ、こんなの初めてだよ」
これが風の道。姫の加護。本当にすごい!
なんだろう。すごく楽しい。景色がすごい速さで後ろに流れていく。嫌なこと、辛いこと、すべてがいっしょに流れていく。来てよかった。兄様、ありがとう。ぼくを連れ出してくれたんですね。
「サクラ、赤色だ、速度違反で訴えられるぞ」
ははは、姫様。もっと速くてもいいですよ。
「すみません。テネリの魔力が思っていたよりも多くて、制御できませんでした」
賢魔鳥だったよな。テネリというのか。あとでねぎらわなくてはいけない。こんなにも楽しい旅をありがとうと。
ナツメさんとカナデさんが何かを話している。聞いてはいけないだろう。
ん、なんだ、猫か。いつからいたの? 気がつかなかったよ。一緒にいてくれるんだね。ありがとう。
ふふふ、モフモフしている。そして、あたたかい。
「木の木戸まで後1キロメートルです。止まります」
もう着いたのか。いよいよ入り口の町だ。貴族特権がない町とはどんな町なんだ。ワクワクするぞ。
そう言えば、ベリーコスが騒いでいたな。王族だと言ってもだれも敬意を払わない町だと。
騒いでいるからと店から追い出されたと怒っていたが、それが普通だ。おまえに常識がないだけだ。バカめ!
「ジェイド様、いったん木の木戸』で入って、一番近い『火の木戸』で大樹の森に出ます。町の中では風の道が使えないので、アルベル湖に着くのが少し遅くなります」
姫よ、7時間の予定が5時間弱で着いているぞ。何も問題ないだろう。
うお、これが樹魔の結界か。どうなっている。木の壁をすり抜けたようにしか見えなかったぞ。
はは、さすがにこの車両を調べる管理官はいないか。素通りだ。
町の中は通らないか。行ってみたかったな。でも、きっと行く機会はあるだろう。楽しみだ。
砦か。確か火の木戸から森に出ると行っていたな。いよいよ大樹の森だ。
カナデという冒険者は不思議な人だ。
何が不思議なんだろう。よくわからない。でも、今まで出会ってきた人たちにはない、何か別な物を感じる。
なんだろう。
あたたかい。
あんしんできる。
澄んだ心。
ぼくに時々聞こえるあの声の存在と同じ心を感じる。
この人は信頼できる。そして、ぼくを王族ではない1人の子どもとしてみてくれている。この人になら、心を開けそうだ。
きみは子どもなんだ。大人に甘えてもいいんだ。この冒険者はそう言っているような気がする。
ならば、遠慮はしないぞ。ぞんぶんに甘えさせてもらいますぞ。冒険者よ。
「カナデ、ぼくのことは『ジェイド』と呼んで」
「……」
「ぼくは依頼主だよね。ぼくのお願いは聞いてくれるよね」
「ジェイド様、私にも守りべき規律があるのです。王族の方を呼び捨てにはできません」
「人前で、ぼくを様付けで呼んでいたら、ぼくの身分が分かってしまうよね。それはぼくにとって都合が悪いと思うんだ」
「場面場面で適切な対処をします。安心してください」
うーん、結構頑固だぞ。この冒険者!
「これから5日間はずっと一緒にいるんだよ。煩わしいよね」
「それが仕事です。親しき仲にも礼儀ありです」
「ぼくは、この旅を楽しみたいんだよ。カナデがそんな態度だと、ぼくはかなしいな」
お、少し表情が変わったぞ。もう少しだ。
「この旅は、ぼくに許された最後の自由になるかも知れないんだよ。お願いを聞いて欲しいな」
カナデさんがナツメさんを見たぞ。なるほど、そこを気にしていたのか。
「ナツメ様と兄様は、友達として呼び合っていますよね。ぼくも、カナデさんと友達になりたいです」
「わかりました。この4人でいる時だけですよ。いいですね」
「もちろんだ。よろしく、カナデ」
「ジェイド、こちらこそよろしく」
カナデさん、本当にぼくの自由はこれが最後なんです。あの国に帰れば、また、あの生活が待っているんです。甘えさせてください。ごめんなさい。
「カナデ、王族仕様ではなく、普通の装飾が体験したいぞ」
「ジェイド、無茶を言わないでください。それに、これは私の今後のための練習でもあるんです」
「ジェイド、この装飾はサクラさんがジェイドのためにと用意した内装なんだよ。だから我慢して」
「なるほど、わかった」
うん、友達みたいだ。たのしい。
「美味しいな。何だろう、この上品な味は……お城の料理のようなしつこさがない」
びっくりだ。ここは大樹の森だよ。携帯食を覚悟していたんだ。それが、こんなごちそうが出てくるなんて、入り口の町はすごい町だ。
「ねこちゃんの試練を乗り越えた自信作だそうです。仕出し弁当としても売り出したので、いま案内人の中では毎朝そのお弁当の争奪戦です」
ねこちゃんて、この猫のことだよね。試練てなんだろう。それに、カナデさんと同じで、この猫も不思議な猫だ。
すごくあたたかい。体もだけど、心が澄んでいるんだ。
この紅茶も美味しい。本当にここは強くて危険な魔物がいる大樹の森なのだろうか。
「ジェイド様、魔石はD級3個で間違いないですか」
ああ、サクラさんその事ですが、出がけにいきなり慣例だからと、違うことを言われました。
「実は、3個というのはC級なら3個でいいということらしい。今はD級だと、8個以上という慣例になっている」
「ですよね。高ランク冒険者がお膳立てするなら、D級3個は簡単すぎますよね」
「きっと、高ランク冒険者たちがどんどんハードルを上げてしまったんじゃないかな」
カナデさん、多分そうです。
「ああそうだね。確かジェイド様のお兄さんはD級5個ぐらいだったらしいな。もちろん、実力でだ」
ナツメ様、兄もそう言っていました。
「カナデさん、C級だとどんな魔物がお勧めですか」
サクラさんもカナデさんを頼りにしているんだな。
「うーん、C級の魔物……となると、3層より深い場所に行かないとそもそも見つけられないですよね」
カナデさん、C級など持っていっても取り上げられるだけです。気にしないでください。
「ナツメさん。本人が実力で獲得した魔石だという証明書みたいなものをギルドで出す事ってできるんですか」
何か考えがあるんですね。ごめんなさい。眠くなってきました。
「霧散ではなく活動停止状態で取り出すなら、ギルド本部で処理すれば発行できるよ。たぶん……」
「そうなんですね。たぶんでも、できるかもしれないと、なら、1ついい方法があるんです」
聞きたいけど、眠いです。どうしてこんなに眠いんだろう。お城では感じたことのない心地よい眠気だ。
「ジェイド、今日は長い距離の移動だったから疲れただろう。寝室で寝ていいよ」
カナデさん、そうしたいです。でも、説明を聞かないと……
「まだ大丈夫です」
ん、ねこちゃんどこに行くの? もしかして寝るのかな。
「ねこちゃんと一緒に寝ると暖かいわよ」
さくらさん、ねこちゃんと一緒に寝ていいの。あたたかいの。抱きしめていいの。
「寝ます」
次話投稿は明日の12時10分になります




