SS5 偉業の報酬(1)★
不快に感じる表現があるかも知れません。ご注意ください。
★ ★ ★ ★ ★ (ジェイド視点)
ぼくの名前はジェイドスター・フォンターナ。マイアコス王国の第5王子だ。
ぼくの父親は、エムロード・フォンターナという。マイアコス王国の王様だ。一番偉いはずの人なんだ。
母親は、マルガリーナという。第二王妃になる。
王様には、もう1人の王妃がいる。第一王妃のナーブリルだ。2人には3人の子どもがいる。ぼくの母と王様にももう1人子どもがいる。ぼくの兄だ。
第1王妃の子ども達は意地悪だ。ぼくだけではない、お世話をしてくれるメイドにも料理を作ってくれる人にも勉強を教えてくれる人にもみんなに我が儘を言う。
その行いを正すべき大人も意地悪だ。王子達と一緒になって意地悪をする。
特に、ぼくに対しての意地悪がひどい。
勉強に行こうとすると、いつも呼び止められる。そして、どうでもいい用事を言いつけられる。
ぼくが、
「これから勉強です。できません」
と言うと、子ども達の時は、
「兄の言うことが聞けないのか」
といって、無理矢理連れて行かれる。
大人達の時には、
「第1王妃様の用事ですよ。光栄に思いなさい」
といって、やっぱり無理矢理連れて行かれる。
近くその第1王妃がいるのにだ。
勉強の時だけではない。剣や体術の稽古の時もだ。身体強化の練習の時もだ。
そして、一番辛いのが、母親と会える時間の時だ。
ぼくの母親はとても忙しい。いつも国の重要な仕事をしている。やっと、作れた貴重な時間なのに、あいつらはじゃまをしてくる。
そして、ぼくが困った顔をすると、とても嬉しそうにこう言うんだ。
「おい、泣け、泣きわめけ。そうすれば許してやる」
近くにはいつも第1王妃がいる。そして、ぼくが泣くのを我慢していると、いつもつまらなそうに帰って行く。
あの人は、ぼくが泣く姿が見たくてこんなことをしているんだ。それが何となくだけど分かる。
どうしてそんな時間があるのだろう。ぼくの母親のように仕事をすればいい。
ぼくの父親は、この国でい一番偉い。なのに、この人には何も言わない。兄も、とても辛い顔をしている。
ある時、偶然、兄が第1王妃の父親であるポーパラダー公爵と言い争いをしているのを見てしまったことがある。ぼくは、茂みに隠れて聞いてしまった。
ぼくに対する意地悪を直ぐにやめさせるようにと迫っていた。
その男は、兄の言葉を全く聞こうとしなかった。娘である第1王妃がやりたいことなら、国としても後押しをするべきだろうと言っていた。
ぼくには全く意味が分からなかった。意地悪が、国としての大事な公務のような言い方だったからだ。
兄は怒ってくれた。
そうしたら、その男は兄ににこう言った。
「あの事業の予算は凍結することにしましょう」
兄は、何も言えなくなってしまった。
そうか、お金なんだ。この男は、国のお金をどう使うかを決めることができるんだ。
そのときだ、ぼくが我慢すればいいんだとわかった。
ぼくは、困った顔をするのをやめた。どんなに意地悪をされても、ニコニコする笑顔をつくることにした。
きっと、いずれ飽きていつもの生活に戻るだろうという思いもあった。
でも、第1王妃が諦めることはなかった。
1年、2年、3年と、意地悪は続いた。周りの大人達や子ども達も、ぼくが困った顔をしないので、
「こいつはどんなことをしても怒らない」
と、思うようになってしまった。
意地悪はどんどん酷くなっていった。
* * * * *
ぼくにも意地がある。我慢すると決めた時にもう1つ決意したことがある。
「どんなことがあっても、絶対に泣かない」
痛い時も!
悲しい時も!
辛い時も!
嬉しい時も!
ぼくは絶対に泣かない。なぜなら、いつでも見ているんだ。あの、第1王妃が……。
そんな生活に変化が訪れた。
魔石の試練だ。
いつからなのだろう。マイアコス王国の王族は、10歳になると、大樹の森という場所に行って、魔石を自分の力で確保するという慣例が決められている。
ぼくにとってはどうでもいいことだった。
第4王子がその試練をした時には、A級の冒険者がお手伝いをしてC級を10個ぐらい確保してきた。
A級冒険者を雇うには、とても高い報酬を支払うことになる。その予算は、国から出ている。ならば、ぼくの時にそのお金が出ることは絶対にない。
そうなんだ。絶対にない。この3年間でぼくが使えたお金は無い。服や学習に不要な物は、兄が自分のお金を出してそっと買ってくれる物だけだった。
第1王妃が、すべて却下していると、見かねた大人が教えてくれたことがある。
今回も、お金は出ない。ならば、その試練に行くこともないだろう、そう思っていた。
ぼくの大樹の森への旅はあっさりと許可が下りた。
当然、お金は出ない。ぼくが小さい時からコツコツと溜めてきたお小遣いを使って行くように言われた。
そうか、このお金も取り上げたいんだ。なるほど、そういうことか。どこまでも意地悪がしたいんだ。
兄が、古い友達に頼んで、C級に昇格したばかりの新米冒険者と案内人をお世話係として雇ってくれることになった。
ぎりぎり、ぼくのお小遣いで雇える冒険者と案内人だ。このお金を使ってしまったら、本当にぼくには何も残らない。
でも、いい。どうせ、持っていてもいつかは理由を付けて取り上げられるお金だ。使ってしまおう。
護衛騎士は、砦まではついてきてくれる。公務ではない、個人的な用事が砦にあるらしい。ありがとう。
意地悪な側近2人は、第1王妃に命令された監視という雑務があるらしい。仕事ではないのにとブツブツ言いながらついてきた。正直、来なくてもいいのにと思った。
砦には、すでに冒険者が待っていた。
黒髪のちょっと凹凸の少ない顔立ちだった。でも、知的で物腰も柔らかそうな好感がもてる男性だった。
「マイアコス王国第5王子ジェイドスター様、お待ちしておりました。今回の試練のお世話をさせていただきますC級冒険者のカナデと申します。よろしくお願いします」
丁寧なあいさつだ。王族対応は一切必要ないと通達がいっているはずだ。なるほど、側近対策か。プライドが高い小物役人はやっかいだからな。
「出迎えありがとう。それから、国境を越えたこの場所では私はただの子どもだよ。丁寧な言葉遣いは不要さ」
お疲れ様、そんな感じでにっこりと笑ってみた。もう、張り付いた笑顔しかできなくなっている。ごめんよ。
ふと、その冒険者の背後に停まっている樹魔車両が見えた。
びっくりした。ベニザクラ号だった。
ぼくは知っている。この車両に乗っている案内人の名を。
『サクラシア・セルビギティウム』
大陸の姫様だ。
側近の2人は気がついていない。出迎えたC級冒険者に荷物を押しつけようとしている。
C級冒険者が、困惑していた。当たり前だ。王子の大事な私物だ。それを他人に預ける側近など存在しない。
「ああ、説明が不足していたね。この旅のメンバーは私1人だよ。ここにいるのはただの見送りさ」
ここは、しっかりと説明しておこう。混乱させてしまって、ごめんなさい。でも怒るかな? 呆れるかな?
「わかりました。では、お荷物をお預かりします。ジェイドスター様、樹魔車両にご案内します」
怒らなかった。当然のように荷物を預かり、何事もなかったように歩いて行く。その後ろ姿を見て、この人はC級レベルではない。直感でそう思った。
後ろの方ではなにやらヒソヒソと悪口を言っているようだ。おまえ達の目が節穴で助かったよ。この案内人と冒険者の本当の実力は見抜けないだろう。王妃には、予定通りの新米C級冒険者だったと報告してくれよ。
次話投稿は明日の12時10分です




